堕天使シリーズ (流血・暴力表現注意)
確か、史実では私は死ぬはずだった。
死んだはずだった。何度も蘇るミカエルの手によって……
だが、目が覚めると過去の地獄で、体は堕天したばかりの未熟で未完成な肉体であった。
堕天使になった頃の自分だ。私は急いで当たりを見渡した。
昔の姿をした悪魔や、親友の姿がそこにはあった。どういう事だ……?
神がもう一度チャンスをくれたのだろうか。堕天使したばかりの堕天使ならば、まだ天使に戻る事が出来るからだ!
親友を引連れて、人間界に行こう。善行を積み重ねればまだ戻れる!すぐにグザファンに駆け寄り、肩を掴んだ。
「グザファン!まだ私達は堕天使だばかりだよな?」
グザファンは怪訝そうな顔をして
「そうだがどうした?」
「今ならまだ戻れる!」
それだけ伝えると私は彼の手を引いて人間界へのゲートがある塔へと向かった。
あの中に魔法陣がある。そこに乗ればすぐにでも人間界に行けるはずだ!
しかし、門番は冷たく私を突き放した。
「誰だお前は!人間界へ行くのには許可が必要なのは知っているだろう?」
そうだ、すっかり失念していた。
今の私は魔王ではない。そう易々と人間界には行けないのだ。
だが、そこで全てを察したグザファンが私をサポートしてくれた。「すみません、こいつちょっと世間知らずなんです!」
彼は私の頭を鷲掴みにして無理やり頭を下げさせた。
すると門番は態度を変えた。
「ふん、まぁいい。許可証はあるんだろうな?」
グザファンが後ろ手で隠しながら器用に許可証を生み出しているのを見てしまった。
さすが親友だ。そんなものまで創り出せるのか?
「ほら、これでいいんだろう?」
門番はジロジロと許可証を睨みつけると、
フン、と鼻を鳴らして黙って通してくれた。
「ありがとうグザファン!」
「大したことじゃない」
彼は照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。
その後ろ姿を見ながらふと思った。
もし、私が人間界へ行く事で人間界の歴史も変わってしまったら?
だが、今は考えている暇はなかった。
ステンドグラスから赤い不気味な光が射し込む塔の中で、私達は魔法陣の上に乗った。
頼む……これで運命が変わりますように!祈りを込めて目を瞑ると、眩しい光に包まれた。
目を開けるとそこは人間の世界だった。
辺りを見渡すとアジアの国の街並みが広がっていた。書物で見た事がある。高層ビルが建ち並んでいた。
空を見上げると真っ赤に染まって渦を巻いている。
私達がやって来たから一時的に大空に大穴が空いたのだ。どうかバレませんように……!
「あっ、夕焼けキレー!」子供が赤い空を指さしている。よし!ナイスだ子供!とりあえず街に出てみた。
まずは宿を確保しよう。お金も持っている。
何しろ、神にもらった力をそのまま引き継いでいるらしい。
この世界の通貨の単位は何だろうか? 取り敢えず金貨を取り出してみると周りにいた人々がギョッとした顔でこちらを見た。
なるほど、通貨はやはり人間界とは違うようだな。そっとポケットへと戻した。
「どうする、グザファン?」取り敢えずこの男に話を振れば良いアイデアが出てくると思っている私は彼に声をかけた。
「うーん……」
顎に手を当て考え込んでいる様子だ。
しばらく考えた後、
「俺達の教会を作るというのはどうだ?」
それを聞いてピンときてしまった。
「ああ、それはいいな!素晴らしいよグザファン!」
「そうか?」
照れたような笑顔を浮かべている。
それならばば多少奇怪な服を着ていても、言語や文化が違っても見逃してもらえるだろう。取り敢えずは魔法で教会を作るか。
2人で郊外の空き地に、ひっそりと教会を建てた。うん、やはり奴は良い腕をしている。立派な教会が出来上がった。
良い具合に色褪せ、昔からここに存在したようにさえ感じられる教会に私たちは身を潜めた。
ここを拠点として善行を積んで天使に戻るんだ。 早速善行を積む為に行動を開始した。困った人がいたら助けてあげればいいのだ。
しかし、中々に上手くいかないものだ。
猫探し、荷物持ち、車椅子の人の補助、道案内など、いくら善行を積んだところで天使に戻る気配はない。
もう諦めかけていたその時だ。
目の前に一人の少女が現れた。
歳は10代後半といったところだろうか?綺麗に切り揃えられた前髪と、長い黒髪を揺らしながら歩いてくる彼女は、私達の存在に気がつくと立ち止まった。
「あなた方は誰ですか?」
透き通った声だ。思わず聞き入ってしまう。彼女の目は鋭く私を射抜いていた。何かを試されている気分だ。
冷や汗が出てきたが、ここはしっかり答えなくては……。私は彼女を見据えながら口を開いた。
「我々は神の使いだ。天界へ戻る方法を探しているのだが」
「はぁ……?」
当然だが疑いの目だ。どうすれば信てもらえるか、考えているうちに彼女が先に口を開いてくれた。
「私は、天使には詳しくありませんが……私の父は悪魔祓いをしています。お話だけでも聞いてみては?」
悪魔祓いか、マズい。半分悪魔の我々はかき消されてしまうのではなかろうか?
しかしここで断って更に不信感を抱かせる訳にはいかない。グザファンも同意するように小さく首を縦に振っていた。
彼女に連れられ、着いた場所は街の小さな診療所のような場所だった。
中には数人の白衣を着た人達がいるだけで、患者はいない。閑散としていた。奥の部屋に入ると、1人の男性が椅子に座って待っていた。
「ミユキ、こちらの方達は……?」
「近所に出来た教会の人達だよ。天界への戻り方を探っているとかで、話を聞いていたの」
「そうでしたか。初めまして、ミユキの父です。悪魔祓いをやっております。よろしくお願いしますね」
丁寧に握手を求められて困惑する。
怪しげではあるけれど、悪い人達では無いのか……?「それで、天界への帰り方をお探しだと?」
私は正直に打ち明ける事にした。
「はい、私と彼は堕天使なのですが、元の姿に戻りたいのです」
「そうでしたか。でも、残念ながらそういった方法は聞いた事がありませんねぇ」
「そうですよね……」
その瞬間、その男性がいきなり槍を掴んで突き上げてきた。不意をつかれて顎をかする。ギリギリでかわしたが、やはり敵意があるのか!?
「グザファン!」
彼に声をかけて2人で警戒し後ずさりした。すると少女が父親に詰め寄った。
「お父さん!どうしてこんな事をするの!?」
「すまない、これも仕事なんだ。……許してくれ!堕天使と聞いてしまったからには……」
男性は、懐から鋭いナイフを取り出した。まずい! 本物の退魔用の神器だ!
咄嵯に私は彼の手からナイフを叩き落とした。
「ぐああっ……!」
大きなうめき声の方を振り向くと、グザファンの胸から鋭い槍の先端が突き出ているではないか!背後から貫かれたのだ。
槍を持っている男はニヤリと笑った。
「貴様……私の親友に何をしてくれたんだ……!」怒りで我を忘れそうになる。
私も神の力を持っているはずなのに、何故か体が動かない。足に力が入らないのだ。
「グザファン、早く逃げろ……!」
「嫌だ、逃げるなら一緒にだ」
彼は震える手で槍の先端を握り締めている。その手からは血が滲んでいる。
身体から光を放つと、ジュワッと退魔の槍は溶けて消えた。
「グザファン、もういい!頼むから……」
私は膝をついた。
グザファンはこちらを見ると微笑んでみせた。
そしてそのまま倒れた。
「グザファン!!」
私は駆け寄ると彼を抱き抱えた。
まだ息はある。急いで彼を背負うと、無理やり体を動かしその場から逃げ出した。
私達は人間界では異質な存在なのだ。もっと慎重に行動すべきだったのだ。自分の迂闊さにうんざりする。
落ち込んでいる暇ない。すぐにこいつの手当をしないと。それだけで頭がいっぱいだった。
行き場所を求めて、私はひたすら走った。
死んだはずだった。何度も蘇るミカエルの手によって……
だが、目が覚めると過去の地獄で、体は堕天したばかりの未熟で未完成な肉体であった。
堕天使になった頃の自分だ。私は急いで当たりを見渡した。
昔の姿をした悪魔や、親友の姿がそこにはあった。どういう事だ……?
神がもう一度チャンスをくれたのだろうか。堕天使したばかりの堕天使ならば、まだ天使に戻る事が出来るからだ!
親友を引連れて、人間界に行こう。善行を積み重ねればまだ戻れる!すぐにグザファンに駆け寄り、肩を掴んだ。
「グザファン!まだ私達は堕天使だばかりだよな?」
グザファンは怪訝そうな顔をして
「そうだがどうした?」
「今ならまだ戻れる!」
それだけ伝えると私は彼の手を引いて人間界へのゲートがある塔へと向かった。
あの中に魔法陣がある。そこに乗ればすぐにでも人間界に行けるはずだ!
しかし、門番は冷たく私を突き放した。
「誰だお前は!人間界へ行くのには許可が必要なのは知っているだろう?」
そうだ、すっかり失念していた。
今の私は魔王ではない。そう易々と人間界には行けないのだ。
だが、そこで全てを察したグザファンが私をサポートしてくれた。「すみません、こいつちょっと世間知らずなんです!」
彼は私の頭を鷲掴みにして無理やり頭を下げさせた。
すると門番は態度を変えた。
「ふん、まぁいい。許可証はあるんだろうな?」
グザファンが後ろ手で隠しながら器用に許可証を生み出しているのを見てしまった。
さすが親友だ。そんなものまで創り出せるのか?
「ほら、これでいいんだろう?」
門番はジロジロと許可証を睨みつけると、
フン、と鼻を鳴らして黙って通してくれた。
「ありがとうグザファン!」
「大したことじゃない」
彼は照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。
その後ろ姿を見ながらふと思った。
もし、私が人間界へ行く事で人間界の歴史も変わってしまったら?
だが、今は考えている暇はなかった。
ステンドグラスから赤い不気味な光が射し込む塔の中で、私達は魔法陣の上に乗った。
頼む……これで運命が変わりますように!祈りを込めて目を瞑ると、眩しい光に包まれた。
目を開けるとそこは人間の世界だった。
辺りを見渡すとアジアの国の街並みが広がっていた。書物で見た事がある。高層ビルが建ち並んでいた。
空を見上げると真っ赤に染まって渦を巻いている。
私達がやって来たから一時的に大空に大穴が空いたのだ。どうかバレませんように……!
「あっ、夕焼けキレー!」子供が赤い空を指さしている。よし!ナイスだ子供!とりあえず街に出てみた。
まずは宿を確保しよう。お金も持っている。
何しろ、神にもらった力をそのまま引き継いでいるらしい。
この世界の通貨の単位は何だろうか? 取り敢えず金貨を取り出してみると周りにいた人々がギョッとした顔でこちらを見た。
なるほど、通貨はやはり人間界とは違うようだな。そっとポケットへと戻した。
「どうする、グザファン?」取り敢えずこの男に話を振れば良いアイデアが出てくると思っている私は彼に声をかけた。
「うーん……」
顎に手を当て考え込んでいる様子だ。
しばらく考えた後、
「俺達の教会を作るというのはどうだ?」
それを聞いてピンときてしまった。
「ああ、それはいいな!素晴らしいよグザファン!」
「そうか?」
照れたような笑顔を浮かべている。
それならばば多少奇怪な服を着ていても、言語や文化が違っても見逃してもらえるだろう。取り敢えずは魔法で教会を作るか。
2人で郊外の空き地に、ひっそりと教会を建てた。うん、やはり奴は良い腕をしている。立派な教会が出来上がった。
良い具合に色褪せ、昔からここに存在したようにさえ感じられる教会に私たちは身を潜めた。
ここを拠点として善行を積んで天使に戻るんだ。 早速善行を積む為に行動を開始した。困った人がいたら助けてあげればいいのだ。
しかし、中々に上手くいかないものだ。
猫探し、荷物持ち、車椅子の人の補助、道案内など、いくら善行を積んだところで天使に戻る気配はない。
もう諦めかけていたその時だ。
目の前に一人の少女が現れた。
歳は10代後半といったところだろうか?綺麗に切り揃えられた前髪と、長い黒髪を揺らしながら歩いてくる彼女は、私達の存在に気がつくと立ち止まった。
「あなた方は誰ですか?」
透き通った声だ。思わず聞き入ってしまう。彼女の目は鋭く私を射抜いていた。何かを試されている気分だ。
冷や汗が出てきたが、ここはしっかり答えなくては……。私は彼女を見据えながら口を開いた。
「我々は神の使いだ。天界へ戻る方法を探しているのだが」
「はぁ……?」
当然だが疑いの目だ。どうすれば信てもらえるか、考えているうちに彼女が先に口を開いてくれた。
「私は、天使には詳しくありませんが……私の父は悪魔祓いをしています。お話だけでも聞いてみては?」
悪魔祓いか、マズい。半分悪魔の我々はかき消されてしまうのではなかろうか?
しかしここで断って更に不信感を抱かせる訳にはいかない。グザファンも同意するように小さく首を縦に振っていた。
彼女に連れられ、着いた場所は街の小さな診療所のような場所だった。
中には数人の白衣を着た人達がいるだけで、患者はいない。閑散としていた。奥の部屋に入ると、1人の男性が椅子に座って待っていた。
「ミユキ、こちらの方達は……?」
「近所に出来た教会の人達だよ。天界への戻り方を探っているとかで、話を聞いていたの」
「そうでしたか。初めまして、ミユキの父です。悪魔祓いをやっております。よろしくお願いしますね」
丁寧に握手を求められて困惑する。
怪しげではあるけれど、悪い人達では無いのか……?「それで、天界への帰り方をお探しだと?」
私は正直に打ち明ける事にした。
「はい、私と彼は堕天使なのですが、元の姿に戻りたいのです」
「そうでしたか。でも、残念ながらそういった方法は聞いた事がありませんねぇ」
「そうですよね……」
その瞬間、その男性がいきなり槍を掴んで突き上げてきた。不意をつかれて顎をかする。ギリギリでかわしたが、やはり敵意があるのか!?
「グザファン!」
彼に声をかけて2人で警戒し後ずさりした。すると少女が父親に詰め寄った。
「お父さん!どうしてこんな事をするの!?」
「すまない、これも仕事なんだ。……許してくれ!堕天使と聞いてしまったからには……」
男性は、懐から鋭いナイフを取り出した。まずい! 本物の退魔用の神器だ!
咄嵯に私は彼の手からナイフを叩き落とした。
「ぐああっ……!」
大きなうめき声の方を振り向くと、グザファンの胸から鋭い槍の先端が突き出ているではないか!背後から貫かれたのだ。
槍を持っている男はニヤリと笑った。
「貴様……私の親友に何をしてくれたんだ……!」怒りで我を忘れそうになる。
私も神の力を持っているはずなのに、何故か体が動かない。足に力が入らないのだ。
「グザファン、早く逃げろ……!」
「嫌だ、逃げるなら一緒にだ」
彼は震える手で槍の先端を握り締めている。その手からは血が滲んでいる。
身体から光を放つと、ジュワッと退魔の槍は溶けて消えた。
「グザファン、もういい!頼むから……」
私は膝をついた。
グザファンはこちらを見ると微笑んでみせた。
そしてそのまま倒れた。
「グザファン!!」
私は駆け寄ると彼を抱き抱えた。
まだ息はある。急いで彼を背負うと、無理やり体を動かしその場から逃げ出した。
私達は人間界では異質な存在なのだ。もっと慎重に行動すべきだったのだ。自分の迂闊さにうんざりする。
落ち込んでいる暇ない。すぐにこいつの手当をしないと。それだけで頭がいっぱいだった。
行き場所を求めて、私はひたすら走った。