このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

堕天使シリーズ (流血・暴力表現注意)

目が覚めたら翼が黒ずんでおり、身体が重く、いつもより暗い場所で目が覚めた。
それが全ての始まりだった。

過去は天使であり、神の為に仲間と共に戦っていたが、神に背いた罰で、あっという間に暗闇に落ちていたと言う訳だ。

痛む身体を無理やり起こし、辺りを見渡してみる。いつものような花畑は見当たらない。ここはどこだ……

目を凝らすと、そこにはかつての友人、大天使ミカエルが横たわっていた。

「おい!大丈夫か!」

声をかけてみたが全く反応がない。
息をしているのか確認しようと口元に耳を当ててみたが呼吸音すら聞こえない。

これはまずいと思い、
「おい起きろってば!」
肩を揺らすと、ようやく彼は目を開けた。そしてこちらを見るとこう言った。
「あれ?お前……ちいかわじゃないか」

何を言ってるんだこいつはと思ったが、彼の瞳は確かにこちらを見ているので間違いないだろう。
私は首を横に振り、

「違うな、私はルキフェルだよ、間違えないでくれ。それにしても一体どうしてこんな事に……」

そう言いながら周りを見てみると、見慣れぬ景色が広がっていた。一面黒に覆われたこの場所には自分達以外誰もいないようだ。

すると急にミカエルが笑い出したのだ。

「くっくっ……あーおかしい。まさかまたお前に会うとは思わなかったぜ?」

その言葉の意味が理解できずに呆然としていると、さらに笑みを浮かべ、こう続けた。

「よう、裏切り者さんよお?」

……ああ、思い出した。あの時
「じゃあね、ルキくん。また遊ぼう」……そうだ。
友を裏切り、神に背いたのだ。
何故生きているんだろう?
ひょっとしてここが、地獄か……?

私は慌てて服を脱ぎ捨てた。すると胸の真ん中に大きな傷跡があったのだ。それは紛れもなく敵軍に貫かれたものだったのだが、どういう事だろう、痛みを感じないし、血も出ていなかった。
ただそこに穴が空いているだけなのだ。

そこでハッとした、そうだ、ミカエルにも同じように大きな傷があったはず……
しかしどこにもそのようなものは見えない。
それどころか、目の前の友人はとても元気に見える。まるで、先程の出来事がなかったかのように。
まさかな、と頭を振る。ありえない、でももしそうなら……。確かめるしかないと思い、彼に話しかけた。

「なぁ、私達は死んだんじゃなかったか?」

恐る恐る聞いてみると、案の定、きょとんとしている。そしてしばらく考え込んだ後、やっと合点がいったらしく手を叩いた。

「ああ、死んでるよ、だってほら」

そう言うなり彼は自らの腕を切断し始めたではないか!
それもとても嬉しそうな顔をしながら、だ! あまりの行動に驚きすぎて言葉を失う、何なんだこいつは!
切断されたはずの左腕は彼の身体から離れることはなく、まるで何かに引っ張られているように動き続けていた。そして、今度は右腕も同じ様に切り落とすと、再び胴体に向かって伸びていき、ついには両脚さえも切断してしまった。

……正直、グロテスク過ぎて直視できない光景だった、これが夢であるならばどれだけいいことだろうかと思うほどだった。しかし、やはり現実であることは変わらない。
やがて全てのパーツが集まったのか、一塊になって浮いていたのだ。
その異様な様子に再び言葉を失っていると、突然それらが変形し始めたのだ。

それはどんどん巨人のように膨れ上がり、最終的には、知り合いの面影を残したバケモノに姿を変えた。
唖然とする私の方に向き直すと、ニヤリと微笑んで見せた。

「誰だお前は!」

それは親友の姿を借りたベツモノだったのだ!すぐに飛びかかって殴りかかるが、全く歯が立たない。

拳を振り下ろす瞬間に相手の腕が伸びてきて簡単に受け止められてしまう。そしてそのまま力任せに投げ飛ばされ、壁に激突してしまう。
一瞬意識が飛ぶような衝撃だったが、なんとか堪えて立ち上がることができた。

しかし、既に相手は眼前まで迫ってきており、腹を思いっきり殴られると私は口から吐瀉物を撒き散らしながら地面に崩れ落ちたのであった。
(うぅ……)全身がズキズキと痛む。

真っ暗で何も見えなかったが、自分の体を確認することはできた。
手足が拘束されているように動かなかったが、幸い目は見えるようだ。
だがどうしたものか、ここから抜け出す術が無い。

人間界のコジマよしお……そうだ!彼に助けを求めよう!きっと何とかしてくれるはずだ!(?)
よし、これでいこう、と心の中で決意を固めていると、暗闇の奥から、何者かがやってきた。

どうやら足音は二人分ある、これはラッキーだと、大声で呼びかけることにした。

「助けてくれー!!!!」
そう叫ぶと、二人はピタリと足を止めた。

「あれ?今なんか声聞こえなかった?」
「あ、ああ……気のせいじゃないのか?」

そう言って、辺りをキョロキョロと見回している。

これは私の存在に気づいてないな、と思い、もう一度叫ぼうとしたその時、誰かの手が口を押さえてきたので驚いた。

……よく見ると、目の前にいるのは同じく天から落とされたグザファンじゃないか。

なぜこんなことを?と聞く前に彼は言った。

「バカ、黙れって」

耳元に囁かれるその言葉には何故か抗い難い力が込められていたのだ。
すると途端に恐怖感が押し寄せてくる。
背後からズルズルと布を引きずるような音が聞こえる……

「あ、ルキくんみっけ〜♡」
「……おい、ミカエル、ルキフェルから離れろ」

どうやら、この私と同じ
黒い翼を持つグザファンは、私を助けようとしてくれているようだ。その証拠に、彼が手を差し伸べてくれたおかげで身体の自由がきくようになってきた。

そして目の前で繰り広げられている戦いは、あまりにも一方的なものだった、なぜならミカエルの姿をしていた謎のバケモノは、彼の身体に触れることも出来ず、一方的に攻撃され続けているからだ。

「もうやめてくれ、これ以上は死んでしまう」

そう叫んだ次の瞬間、彼はこちらを一睨みし、何か呟くと、姿が変わってしまった。
その姿を見た瞬間、ゾクッと背筋に冷たいものが走るのを感じた、何故ならそれは……悪魔のような姿だったからである。

「逃げないと、ヤツの餌食になってしまう……」

私は元天使である仲間のグザファンの手を掴むと、必死に出口を探すべく暗闇の中を走り回った。

途中、何度も転び、あちこちぶつけたりしたが、今は気にしている余裕など微塵もなかった。

しばらくすると、光が見えた。
やった、出口を見つけた!と思い、急いで駆け寄ろうとしたが、その直前、グザファンから手を離された。
不思議に思って振り返った直後、私の目に飛び込んできたものは信じられないものだった。

「ミカエル、なんで俺の言うことが聞けねぇんだ、なぁ?」
「ぐあああああっ!」

ミカエル(?)の首根っこを掴みながら、もう片方の手で殴ったり、蹴ったりを繰り返し、まるでおもちゃを扱うかのように扱っている。

あまりの出来事に、頭が追いつかない。一体、何が起きてるんだ。

「やめてくれ、グザファン!そのままではソイツがミンチになってしまう!」

思わず叫んでいたが、彼は全く聞いていない。

「お前が悪い子だからだよ、悪い子はこうやって叱らないと、ね?わかるかな、わかってくれるよね、俺が、お前の為に、こうしてるんだよ、ほぉら、泣いて謝るなら許してあげるけど、どうするんだい、ほら、ほら、早くしないと死んじゃうよ、ほら、どうするんだ、言えよ、おい、お、おいっ、返事しろよ、おい、こら、こら、なんとか言えよ、あ、もしかして、喋れないのか、」

「落ち着けグザファン、そいつはミカエルの姿をしたバケモノだ、別物だ!早く逃げるぞ!」

グザファンの手を無理やり掴むと、私は猛スピードでその場から逃げ出した。
後ろを振り返ると、そこには、ミカエルらしき姿をした肉塊が落ちていただけだった。

「さっき、アイツに襲われそうになった時、変な感覚に陥っただろ?」

ようやく落ち着きを取り戻してきた頃、見知らぬ小悪魔がプンプンと虫のように飛びながら、いきなり話しかけてきた。

「あれは、この地獄の呪いなんだ。親しかった者の姿を借りて、落ちてきたばかりの天使を襲う、夢魔の類だ。喰われたくなければ、これからオレが指示することをよく聞くことだ」

「わかった、なんでも言うことを聞くよ……」

私がそう答えると、小悪魔は満足そうな表情を浮かべた。

「いいか、今からオレがこの道を阻む大岩を爆破させる、お前達はあの扉の先まで全力疾走で向かうんだ、わかったか?……おい、お前、何をぼーっと突っ立ってる、行くぞ」

「なぜ私達を助けてくれるんだ?」素直な疑問を投げかけてみた。
「君も悪魔だ、私達を喰いたいだろう。」

「昔、生きてる頃に天使に世話ンなったからさ。とにかく急げ、時間が勿体無い」

それだけ言い残すと、彼は走り去ってしまった。

「よし、じゃあ、私達も行こう、グザファン」
「ああ、そうだな」

二人で並び、全速力で走る、目指すはこの地獄で唯一の光である、扉の向こう。

すると、目の前に大きな岩が姿を現し、塞いでしまった。

「止まれ!」

グザファンはそう叫ぶと、懐から銃を取り出し、目の前の岩を吹き飛ばした。

「小悪魔の出番が!!」

思わず突っ込んでしまった。
岩を爆破する予定だった小悪魔は
ぽかんとした顔をして宙に浮いている。

可哀想だが、そんなことは言ってられないか。
今のうちに行くぞ、とグザファンに呼びかけ、再び走り出すことにした。

この調子でいけば、無事に扉まで辿り着く、そう思った矢先、また目の前に巨大な岩が立ちはだかった。今度はかなり高い。

これは登るのは難しそうだな、と考えているうちに、どこから取り出したのか、グザファンは長い鎖のついた鉄球を振り回し、勢いをつけて、大岩に打ち付け始めた。

……まさか、これを壊そうというのか?無茶だ、無理だ、やめたほうが……というか、どこから出したんだ、鉄球を?

まぁ、細かいことは気にしない、今は彼の力を信じよう……。
グザファンは無我夢中で、ひたすら岩に向かって投げつけている。

最初はビクともしなかったのだが、何度も打ち付ける内に少しずつ削れて、あと少し、もうちょっと……というところで とうとう限界が来てしまった。

鎖が千切れてしまい、鉄球が下に落下してしまったのだ。そしてそのまま地面へと激突した。グザファンは、呆然と立ち尽くしている。

私は慌てて、彼の元へ駆け寄った。
その時、私に影が落ちた。恐る恐る見上げると、それはミカエルの姿をしたバケモノだった。まだ生きていたのだ。

ヤツが振り上げた右手の爪がギラリと光る。

「ルキフェル、俺の手を掴め、逃げるぞ!」

その声を聞き、振り向くと、グザファンが私の方に手を伸ばしてくれていた。
その手をしっかりと掴み、彼の後を追いかけて、全力で走った。

背後からは不気味な笑い声を上げながら追いかけてくる、化け物の声が聞こえてくる。

「このままでは追いつかれてしまう!私を置いて先に行け、君だけでも逃げろ!」

必死に逃げ惑いながら、ふと、そんなことを口にしたが、

「絶対に嫌だ!俺の命はお前のものだ!俺は死ぬまでお前と離れない!それに、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ!もっと沢山、美味しいものを一緒に食べるまでは、絶対死ねないんだよ!」

グザファンの力強い言葉に頬が緩んだ、直後、突然視界が開けた。
気が付くと、私たちはいつの間にか、出口付近へ到達していたようだ。

「やった、これで逃げられる―――」



光の中に飛び込んだ、と思ったのは間違いだった。―――暗闇―――


罠だったのだ。





私達は完全に堕天した。
4/7ページ
スキ