治金丸
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本丸の畑では野菜、海では魚介類をとることができるけれど、さすがに調味料まではそうはいかない。そしてそれらはふしぎなことに、同じタイミングで少なくなるのだ。
「お、っもぉ……」
悲鳴をあげる私の腕には、業務用の砂糖と塩。おでこに玉の汗をかきながら、えんやこらと歩いていた。
「主、無理してはだめだよ」
オレが持とうか? そう声をかけてくれたのは、私の歩調にあわせて少し後ろを歩く治金丸。けれど彼はすでに米俵と味噌をかついでいる。
優しい治金丸のことだから、私がお願いすれば、二つ返事で難なく運んでくれるのだろう。だけどそれでは私の立つ瀬がない。刀剣男士をまとめる審神者であるのなら、数キロの砂糖や塩くらい、涼しい顔で運んでしかるべき。
ほら、治金丸もよく言うじゃない。これは鍛錬。私に課せられた鍛錬なんだ。
私は彼の申し出を丁重にお断りし、ぐっと腕に力をこめた。その様子をみた治金丸は、ふっと笑って、「それじゃ」と続けた。
「あそこでひと休み しよう。オレもちょっと疲れてしまってね」
茶屋の店先の長椅子で、しゃくしゃくと黄色い氷の山をつつきながら、私はとなりに並んで腰かける治金丸を、そおっと盗み見た。彼はみたらし団子を頬張りながら、時折近くにやってくる鳥たちに話しかけている。
──気を使わせちゃったなあ……。
休憩をとったおかげで、ようやく私は意固地になっていた頭を冷やすことができた。大人しく彼に荷を任せていれば、きっと今ごろはもう自分たちの本丸に着いていたはず。それを、私がつまらない意地をはったばっかりに、こうして治金丸にまで足止めを食らわせてしまう始末。
いつもこうだ。頑張ろうと思えば思うほど、私は空回りをしてしまう。ああ、なんて情けないんだろう。
はあ、とため息を一つついたとき、ふいに影が落ちた。見上げると、いつの間にか腰をあげていた治金丸が、私の前に立っているではないか。
「美味いかい?」
「え、う、うん」
「何味だったかな、それ」
「はちみつレモンだよ」
「はは、いいねぇ。疲れた身体には甘味が一番だ」
そう言う治金丸の笑顔こそはちみつみたいだ、なんて、ぼんやりと思った。そして時々見せる好戦的な眼差しは、まさしく刺激的なレモンのようで。
ということは、私は今、治金丸を食べてるってことになるのかな……。何とはなしに想像したそれが妙に気恥ずかしくて、頭の中から振り払うように「治金丸!」と彼の名を呼ぶ。思ったよりも大きな声が出てしまい、あわてて声をおさえた。
「あの、座ってなくていいの?」
「ああ、いや、太陽 があたってるからね」
治金丸はにこりと笑いながら私を見つめている。
「何もないよりかはマシだろう、主は焦らず食べてくれればいいからさ」
かんかん照りの太陽に透けた彼の髪が、きらきら光り輝いていた。それははちみつよりも、レモンよりも、ひまわりよりも、日の光が反射した海よりも、私の目にはまぶしく映った。
どうして彼はこう、誰かの後ろで動くのがうまいんだろう。となりにいるように感じるのに、ほんとはいつも1歩後ろにいる。それがもどかしくて、せつなくて──だから私は、その手をとって歩きたいと思うのかもしれない。
「……でも、治金丸が焼けちゃうよ」
「オレは色黒 だから平気だよ」
それにしても、と治金丸は続ける。
「やっぱり人の身は便利だね。こうして主を覆うことができる」
刀のままだとこうはいかないからなぁ。ほがらかに笑う治金丸に曖昧な笑みを返し、私はかき氷に集中することにした。
ずっとひた隠しにしている、「あなたの影の中にずっといさせて」──そんな思いも、全部全部、かき氷とともに溶けてしまえばいい。
茶屋をあとにした私たちは、ふたたび荷物を抱えながら歩きはじめた。先ほどまで感じていた焦りはなりを潜めて、かわりに正反対のよこしまな気持ちが私の胸に宿っていた。
──ゆっくり歩けば、その分長く彼とふたりでいることができる……。
「主」
「っ、なあに?」
心のうちを見透かされたようなタイミングで呼ばれ、思わず声が裏返ってしまった。そんな私に気づいていないのか──いや、気づいていないふりをして、治金丸はなお笑うのだ。
「次のお出かけも、オレが一緒に行きたいな」
彼はいつだって、私に罪悪感を抱かせないように振る舞うから。
「……うん。じゃあ、お願いしちゃおうかなあ」
いつか手をつないでとなりを歩く、そんな日を夢みて、私は明日も、治金丸の前をいくのだろう。
(20201009/25*la)
