原型ポケモン
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海の中は音で溢れている。砂が流れる音、泡が生まれる音、波が岩にぶつかり砕ける音、海生ポケモンたちの鳴き声──私の鼓膜を震わせるそれらは、水という媒体を伝わって地上にいる時よりもはるか遠くから聞こえてくるものだ。 海底で光るチョンチーやランターンの灯りをぼうっと見つめていると、好奇心旺盛なマンタインが1匹、私の近くにやってきた。頭のヒレをそっと撫でてやれば、彼(彼女かもしれない)は元気よく宙返りしてみせ、そのまま海面に向かう。それに続いて上昇すると、やがて──私は私の生きるべき世界に戻っていた。 浅い呼吸を何度か繰り返して、岸に上がる。うずまきじまはその名のとおり周囲が大きな渦潮に囲まれているので、滅多に人間は入ってこない。
『おい』
にわかに頭上から不機嫌な声が降ってきた。そしてそれと同時に、今まで全身に感じていた日光の心地良い暖かさが消える。何かに日光をさえぎられたのだ。
『ヒトの肌は太陽に弱いと聞く。かようにさらけ出していると危ないのではないか』 「もー、ルギアさんは心配性ですね。ちゃんと日焼け止めも塗ってあるし、大丈夫ですよ」
私がそう言っても、白銀の翼の主は顔をしかめたまま。それどころか私の体を頭から爪先までじろりと睨みつけて、さらに目を細めた。
『……何だその形は』 「え? ああ、水着ですよ水着。今日は私、ビキニのおねえさんなんです! 可愛いでしょー?」
その場でくるりと一回転してみせる。紺色に白のストライプが入った、今年買ったばかりの三角ビキニである。人間ではないルギアにこの水着の可愛さが分かるかどうかは知らないが、それでもこの水着姿を見てほしかった。さらに言うなら褒めてほしかった。もっとも、
『みずぎ……びきに……よく分からぬが、はしたない格好をするんじゃあない』
──この堅物の神さまにそれを求めるのは無駄かもしれないけれど。
「はしたないって……あのですね、人間の女の子は夏になるとみーんなこうですよ」 『かような姿で動き回るというのか? なんと破廉恥な……』 「海だけ! 海だけです! いやプールとかもあるけど──ってそうじゃなくて! この格好、変ですか……?」 『何?』
一番聞きたかったことを直球で投げる。この海の神は変なところで鈍感だから、はっきり言わないと理解してくれないのである。ポケモン世界の色恋沙汰は分からない。けれど、私たち人間の女の子が無防備な水着姿を見せる相手というのは、つまり、そういうコトなのだから。
「私、この水着見せたのルギアさんが一番なんですよ。……似合わない、ですか?」 『……そうは言っておらぬ。ただ……』
こちらに向けられていた双眸が、不意に逸らされる。あ、とか、その、といった言葉にならない単語を繰り返しながら片方の翼で口を覆い、視線はあちこちさまよっていた。 その反応を見て、私の胸にもしかしてという淡い期待が広がる。
「ただ……何です?」
勇気をもって尋ねると、翼の隙間から鋭い目を覗かせて、ルギアは低い声でつぶやいた。
『いろいろと……こちらを駆り立てるような姿だ、と』 「……いーやらしいんだルギアさんってば。普段は紳士っぽいくせして」 『本心を言ったまでだ。それとも、似合っておらぬと言ったほうがよかったか?』 「……ルギアさんの意地悪」 『どうとでも』
(20120815/25*la)
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