原型ポケモン
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人懐っこいとよく表されるとおり、◯◯のイワンコも、例に漏れず◯◯のことが大好きでした。ご飯のときも、寝るときも、浜辺で遊ぶときもいつも一緒。テンカラットヒルで迷子になって泣いていた◯◯に寄り添ってくれたあの日から、ふたりは片時も離れたことがありませんでした。
けれど、最近、変なのです。
「イワンコー?」
テーブルの下をのぞいてみても、ヤドンが大きなあくびをしているだけ。イワンコの姿はありません。
ベッドの布団をめくってみても、パッチールがすやすやお昼寝しているだけ。ここにも、イワンコの姿はありません。
◯◯は家を飛び出しました。メレメレの風にのって、海のにおいが胸いっぱいに広がります。細かい砂利たちが、サンダルの下で軽やかな音を立てています。
背高のっぽのヤシの木の合間をくぐり抜け、◯◯は小さなビーチにたどり着きました。ここはイワンコとお散歩をしていたときに偶然見つけた、ふたりだけの秘密の場所です。
◯◯が思ったとおり、イワンコはそこにいました。
「イワンコ!」
ぴくっと耳をふるわせて、イワンコは振り返ります。そして◯◯の姿を目にしたとたん、たっと走り去ろうとするではありませんか。
「待って、待ってよ!」
あわてて追いかけようとした◯◯は、足がもつれ、その場で転んでしまいました。擦りむいた手のひらや膝が、じんじん痛みます。
それでも、◯◯の頭の中は、他のことでいっぱいでした。──どうしてイワンコは離れていくんだろう。◯◯のことが、嫌いになったのでしょうか。毎日、毎日一緒にいました。かくれんぼをして、歌を歌って、疲れたらソテツの葉の影でくっついてお昼寝もしました。
もう、同じようには過ごせないのでしょうか。
「やだよぉ……」
悲しくて、寂しくて、◯◯はついに泣き出しました。ぽろぽろと溢れてくる涙をぬぐうこともできずにいると、◯◯の泣き声の向こうから、小さな足音が聞こえてきました。
イワンコは戸惑ったような表情で◯◯に鼻を寄せると、涙で濡れたほっぺをぺろっと一舐めしました。
「イワンコ……」
◯◯がイワンコに触れようと手を伸ばすと、イワンコはさっとその手を避けました。何がイワンコをそうさせるのでしょう。さっきはイワンコのほうから触れてくれたのに。
そのとき◯◯は、イワンコが◯◯のほっぺを不安そうに見つめていることに気がつきました。
遠目からでは目立ちませんが、◯◯の体には、細かな傷がたくさんあります。ほっぺや、腕、首、ふくらはぎなんかにも、その傷はありました。
それは、イワンコが首の岩を擦りつける際にできた傷でした。
「……もしかして、わたしに怪我させたくなくて、離れていったの?」
先日、ママが◯◯に言ったのです。「あーあ、女の子がお顔に傷なんか作っちゃって」と。きっとそれを、イワンコは聞いてしまったのでしょう。
◯◯の言葉に、イワンコはぺたんと耳を垂らしました。
「そんなの、全然、イワンコのせいだけじゃないよ! 見て!」
◯◯が指差したのは、さっき擦りむいたほうとは反対の膝です。実はそっちにも、真新しい傷がひとつ、ありました。
◯◯は活発な女の子です。ですのでかけっこしてる最中に転んだり、かくれんぼをしてるときおでこをぶつけたり、野生のヤングースやニャースに引っ掻かれるなんて、本当によくあることなのです。
「ね、わたしが怪我するのなんていつものことなんだから」
むしろイワンコがいてくれないと、余計な怪我が増えちゃうかも。
それに。
「怪我した体よりも、イワンコがそばにいてくれないほうがね、心が痛いの」
◯◯はすっと手を伸ばしました。その手は空振ることなく、今度こそイワンコの首元に触れました。ごつごつした岩がそこにはあります。イワンコは◯◯の手に、そおっと擦り寄りました。痛みなんて、これっぽっちも感じませんでした。
アローラの海がオレンジ色に染まり始めています。早く帰らないと、ふたりそろってママに怒られてしまいそう。けれども、◯◯は夕焼けに背中を押されながら、イワンコとゆっくり並んで歩きました。大好きな歌を歌いながら、ときどきイワンコの頭を撫でながら。
赤いほっぺでもないし、黄色いシャツも着てないけれど、イワンコは◯◯のベストフレンドなのですから。
わん!
(20230807/にこら)
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