原型ポケモン
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「わっ」
書庫の本棚を整頓していたら、動かした分厚い本の間にはさまっていたらしい写真が落ちてきた。とっさに掴もうとするも、ひらりはらりと舞い踊るようにかわされてしまって、結局私の手に触れる前にそれは床に落下した。こんなまぬけな姿誰にも見られていなくて本当によかった。セーフセーフ。
「あ、これ……」
表を向いて落ちた写真を拾いながら、私は幼いころを思い出していた。そうだ、昔はこの写真のようにバクフーンの背にまたがって、よくお馬さんごっこをやったものである。母のパートナーであった彼は第三の親のような存在で、時に優しく、そして時に厳しく私の成長を見守ってくれた。
こんな写真がはさまっていたということは、と先ほど手にした分厚い本のページをめくる。──ああ、やっぱり。思ったとおりアルバムだ。
赤ちゃんベッドから脱走して下に落ちそうになった私を受け止めたバクフーン。モモンの実の汁で口周りをべたべたにさせて笑う私と、汚れた手で触られたため同じくべたべたになった顔でむすっとしているバクフーン。丸まったバクフーンの上でお昼寝する私。新しく買ってもらった傘が嬉しくて、バクフーンに肩車してもらいながら晴れの日のお日さまに向かって傘をさす私。白いシーツを身体に巻きつけてバクフーンにキスを迫っている私──えっ嘘こんなことしたの!? 添付されたハート形のメモには「おませさんの結婚式ごっこ」と書かれていた。若気の至りすぎる。
「……あ」
アルバムの、一番最後のページ。黒いインクで押された手形。大きいのと、小さいの。
こんなこともしてたんだ、と小さい手形に今の自分のてのひらを重ねてみる。全然違うや、はは、そりゃそうだよね。
「……」
まわりを見回し、本当に誰もいないことを確認する。いや別にやましいことをするわけではないのだけど、何となく。
す、と紙面をすべらせて、今度は大きいほうの手形にてのひらを重ねた。昔はあんなに大きく感じたのになあ、今ではバクフーンより私のほうが少しだけ手が大きいみたいだ。
胸にじんわり広がる温かさと、ぎゅっとしめつけられるような切なさを同時に感じる。このアルバムを今日見つけたのは、けっして偶然なんかじゃないと思う。もう一度添えられたメモを見る。そこには今日と同じ日付。私の、誕生日だ。
アルバムを閉じて軽くほこりをはらい、本棚に戻す。これだけ自分の部屋に持っていこうかとも考えたけれど、ううんと思いとどまった。見たくなったらまたここに来ればいいのだ。バクフーンを誘って。
結婚式ごっこをしたの、覚えてるかなあ。意外と照れ屋さんだから、もしかして覚えてるけど忘れたふりをするかもしれない。ふふ。そしたらあの写真と同じようにキスを迫ってみようかな。
リビングの窓際でまどろんでいるであろうバクフーンが慌てふためく様子を想像しながら、書庫のドアを閉めた。
──ばたん。
(20191003/25*la)