原型ポケモン
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──ああああぁ……ああああぁ……
あ、まただ。もぞもぞと布団から起きあがり、部屋のすみにいるであろうあの子に声をかける。
「はいはい、わかったから」
あんまり大きな声だと近所迷惑になっちゃうよ、とは言わないけれど。起きぬけのぼんやりとした頭に、きい、きい、と家鳴りが響く。
「こっちおいで」
ほら、一緒に寝よう。だからもう泣かないでね。
よなきポケモン。それがムウマの分類名である。
人間の恐怖を栄養とするムウマは、真夜中にすすり泣くような声をあげて人間を怖がらせるいたずらっ子で、最初は私もよく肝を冷やされた。どこからともなく聞こえる声に悲鳴をあげて両親の部屋に逃げこむ幼い私、そしてそれを追いかけてけらけら笑うムウマ。まあ、それも今となってはいい思い出なのだけど。
さて、そんなことが夜ごと続いたおかげで、私は存外ずぶとく成長することができた。たいていのいたずらでは驚かないようになった私を見て、ムウマはとてもつまらなそうにしていた。そして次第に、私以外の町の人たちにいたずらをしかけるようになった。もう何年も前のことである。
ところが、だ。どうやら最近になって、ムウマはまたターゲットを私に戻したらしい。今一度私を怖がらせてやろうとでもいうのだろうか。しかしゴーストタイプの意地なのか何なのか知らないが、こっちとしては正直迷惑な話だ。子どものころと違って朝早く起きなければいけないのに、延々と泣き声を聞かされてはたまらない。なので夜泣きが聞こえはじめると私はムウマを呼んで、一緒に寝ることにしたのだ。──とはいったものの、私がうつらうつらしている間にまたどこかへ行ってしまうようで、朝目覚めても隣にムウマがいたことは一度もなかった。もしかしたら私がなかなか怖がらないからへそを曲げているのかもしれない。がんばっているところ大変申し訳ないけれどそろそろ解放してほしい。
そこで。
「よーしムウマ、今日は本を読んであげるからね」
大きな赤い猫目をぱちくりさせて、ムウマは私の手元をのぞきこんだ。世界中のむかし話やおとぎ話がまとめられた読み聞かせ絵本だ。色あざやかな装丁や可愛らしい挿絵を見て、ムウマは目をきらきらさせた。いいぞ、そうこなくっちゃ。
さあ、もうおわかりだろう。名付けて"夜泣きをする前に寝かしつけてしまえ作戦"、開始だ。
「海や川でつかまえたポケモンを──」
すうすうと寝息をたてて、ムウマは眠っている。どうやら大成功だったようだ。ひらひらしたその体に布団をかけてやり、私は絵本に意識をもどす。ムウマのために買った本だったが、思いのほか興味深くて私自身がハマってしまった。これは当たりだったかもしれない。
さて、続きは
──ああああぁ……ああああぁ……
「え」
思わず布団をめくって確認する。──いる。確かにムウマは私の隣で寝ている。じゃあ、あれは?
「うそ」
私は毎晩、誰にむけて声をかけていたのだろう。誰に一緒に寝ようなどと言ってしまったのだろう。
今、耳元で聞こえる夜泣きは、いったい誰のものなのだろう。
──ああああぁ……ああああぁ……
(20190617/25*la)