原型ポケモン
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うちのオノノクスは強くてまじめで仲間思いのとっても素敵な子なのだけれど、ときどき優しすぎるのがたまに傷だった。
たとえば昨日なんて、野生のドテッコツとバトルしていた際にうっかり彼の武器である鉄骨をご自慢のキバで一刀両断してしまったのだが、その瞬間オノノクスは大あわて、ひたすらドテッコツに謝りはじめるという出来事があったのだ。こうなってはもうバトルどころじゃない。対するドテッコツは豪快に笑って、鉄骨くらいまたすぐ手に入るさ、とふところの深さを披露していた。男前だ。
「ねえオノノクス……」
彼が入ったモンスターボールをつつきながら語りかける。優しいのはきみのいいところだけど、同時に弱点でもあるんだよ。昨日はあのドテッコツが引いてくれたからよかったけれど、もしこれがジム戦だったら、隙を見せた瞬間やられてしまうかもしれないんだ。
「優しさを捨てないといけない時もあるんだよ」
ボールはかたりとも動かなかった。
プラズマ団という妙な組織のうわさを聞いたのはそれからしばらくしてからだ。なんでも"ポケモンの解放"をうたってトレーナーからポケモンを奪っていくのだとか。解放だって? 何を言ってる、私たちはお互い一緒にいたいからいるのだ。──そうだよね、オノノクス?
「さあ、大人しくそのポケモンをよこせ!」
「誰が!」
レパルダスとワルビルを構えたプラズマ団たち。2対1か。女の子相手に卑怯な。腰につけたモンスターボールに手を伸ばそうとして──ためらう。
実はあの日以来、オノノクスはボールに閉じこもったままなのだ。いくら呼びかけても彼は答えてくれなかった。嫌な汗がこめかみを伝う。もし、もしオノノクスが私を嫌いになっていたら? もう私の顔すら見たくないと考えていたとしたら?
そしたら私は、彼を拘束していることになるのだろうか……?
「レパルダス、"きりさく"!」
「ッ!?」
眼前に迫っていたレパルダスのするどいツメをギリギリでかわす。だめだ、悩むのはあと。オノノクスが出てきてくれない以上、とにかく今は何としても逃げなければ。
プラズマ団に背を向けて走り出す。ここはリュウラセンの塔、そこらの瓦礫に身をかくしながら走ればまけるはず。
だが甘かった。
「う、わ!」
ぐらぐら足元が揺れたと思えば、目前の床からワルビルが飛び出してきた。しまった、"あなをほる"か──!
じりじりとこちらににじり寄ってくるワルビル、後ろには追ってきたレパルダス。左右はたおれた柱に囲まれていた。まずい、誘導されてたことに気づかないとは、なんてバカなんだ。
ひゅん、と音もなくレパルダスが躍動し、こちらにツメをふり下ろした。
「オノ──!」
瞬間、すさまじい音が響き、視界は光に包まれた。この音を、声を、私は知っている。これは、"げきりん"だ。
とっさにつぶっていた目をおそるおそる開くと、もう何年も見てなかったかのような黄金色の背中がそこにあった。
オノノクスは私をふり返ることなく、ただ目の前の敵だけをにらみつけている。追いついたプラズマ団が叫んだ。
「く、くそ! レパルダス、"つじぎり"だ!」
レパルダスは"げきりん"のダメージでよろよろしていたが、トレーナーの指示を受けこちらに飛びかかってきた。が、届かない。オノノクスがぶんとその尾をふり上げ、レパルダスの体にたたきつけたからだ。
「あっ」
レパルダスがはじき飛ばされた先を見て、思わず声をあげる。このリュウラセンの塔は古くからある建物のため、床が崩落している箇所がある。レパルダスの行き先はそこだ。このままでは落っこちてしまう!
走り出そうとした私より先に、オノノクスが動いた。"げきりん"をくりだしたせいで混乱しているはずなのに、レパルダス、目がけてまっすぐ走っていった。この子はなんで、いつもそう──でも……。
「っ、いいよオノノクス! そのまま!」
間一髪、レパルダスの後ろ足をつかんだオノノクスに走り寄り、一緒にレパルダスを引き上げる。死の危険にさらされたからか、レパルダスは震えながらこちらを見上げていた。
「レパルダス!」
プラズマ団が血相を変えて近寄ってきた。レパルダスと私たちを交互に見て、「お前……なんで……」と口ごもる。
「……」
なんでだろう。なんで私は、レパルダスの心配をしたんだろう。襲ってきた相手の、身を案じたのは──ああ……。
「この子が、教えてくれた、から」
レパルダスと、それからワルビルをボールに戻したプラズマ団たちは、「ありがとう」と小さな声でつぶやき、去っていった。残されたのは、私とふらふらのオノノクス。
「ごめんなさい」
彼の目を見て、気持ちを伝えた。優しさを捨てろだなんて、ひどいことを言ってしまった。私は勝つことだけしか頭になく、オノノクスのことを考えていなかった。とても、とても大事なものをなくすところだった。
オノノクスはぼろぼろと泣き出した私にぎょっとして、おろおろしながらも涙をぬぐってくれた。その手の温かさに私はまた泣いた。
きみの優しさは、確かに武器だった。
(20190603/25*la)