原型ポケモン
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◯◯は怒っていました。お母さんが、◯◯の大切なぬいぐるみを捨ててしまったからです。そのぬいぐるみは、◯◯の誕生日におばあちゃんが買ってくれた、大切な宝物でした。
「もう古くて汚くなっちゃったでしょう。また新しいのを買ってあげるから」
「いや! あのぬいぐるみさんじゃないとやだ! おかあさんなんてきらい!」
そう言って、◯◯は家を飛び出しました。後ろからお母さんが呼ぶ声が聞こえますが、知らんぷりをしました。友達の家も、よく遊ぶ公園も通りすぎて、◯◯はずっとずっと走り続けました。■□■
ふと気づくと、◯◯は見たことのないドアの前に立っていました。◯◯の背丈くらいの、小さなドアです。表札もかかっていました。
「『ごくろうさまでした』ですって」
「やあ、こんにちは」
◯◯が振り向くと、そこには1匹のポケモンがいました。黒い体に、赤い目が光っています。◯◯と目が合うと、そのポケモンはにっこり笑いました。
「あなたはだあれ?」
「ぼくはジュペッタだよ。君もここに入るのかい?」
「わたしははいっちゃだめなのかしら?」
◯◯は不安になって、ジュペッタに尋ねます。するとジュペッタは、腕をぱたぱたさせながら答えました。
「大丈夫。人間は珍しいけれど、きっとすぐに仲良くなれるさ」
ジュペッタは◯◯の手をとると、ドアをそっと開けました。
「わあ、すてき!」
そこは不思議な場所でした。あちこちでカゲボウズたちがおしゃべりしています。本を読んでいたり、お絵かきしていたり、ダンスをしている子もいました。
「ようこそ、ジュペッタ」
「ようこそ、人間の女の子」
カゲボウズたちは◯◯とジュペッタを見ると、みんなで歓迎の歌を歌ってくれました。◯◯は楽しくて、ジュペッタやカゲボウズたちと一緒に遊びました。
それからしばらくたった時、◯◯はみんなの輪から外れて1匹、すみっこでうずくまっている子に気がつきました。◯◯が近づくと、その子は顔を上げました。青い体をしていますが、その子はジュペッタと同じ姿をしています。
「あなたは、あそばないの?」
そう尋ねても、青いジュペッタはじっと◯◯を睨んでいるだけで何もしゃべりません。◯◯が困っていると、後ろから黒いジュペッタがやってきて言いました。
「◯◯、そいつに関わっちゃいけないよ」
「でも……」
「ほら、危ないからあっちに行こう」
ジュペッタは◯◯の肩に腕を回すと、カゲボウズたちのいるところへ◯◯を連れ戻そうとします。◯◯がちらっと振り返ると、青いジュペッタは怒っているような、今にも泣き出しそうな、不思議な顔で◯◯を見ていました。◯◯はあれ、と思いました。何かが変なのです。その『何か』はわかりません。しかし確かに変だな、おかしいな、と思ったのです。
◯◯は急に怖くなりました。そして、お母さんに会いたくなりました。
「どうしたんだい?」
うつむいてしまった◯◯に、ジュペッタが尋ねます。
「おうちにかえりたいの」
◯◯が小さい声で言うと、ジュペッタは慌てたように腕をばたばたさせました。
「もっと一緒に遊ぼうよ! ここは楽しいよ!」
「おかあさんにあいたい」
「君のぬいぐるみを勝手に捨てたのに?」
◯◯はハッとしました。
「あなた、どうしてしってるの? おかあさんがぬいぐるみをすてたことも、わたしのなまえも……」
「ぼくは◯◯のことなら何でも知ってるよ。君が生まれた時から、ずぅっとずぅっと見てきたんだから」
「あなた……もしかしてあのぬいぐるみさん? わたしのぬいぐるみさんなの?」
おそるおそる◯◯が問いかけると、ジュペッタはにっこり笑いました。◯◯はまた、あの変な『何か』を感じました。心臓の音が耳の中で大きく聞こえました。また会えて嬉しいはずなのに、大切な宝物だったはずなのに、何でこのジュペッタが怖いなどと思ってしまうのでしょう。
「ねえ、ここはどこなの?」
「ここは捨てられたぬいぐるみの国だよ。いらなくなったり、壊れちゃったりしたぬいぐるみは、みんなここに来るんだ」
それを聞いたとたん、◯◯はさっきお母さんに会いたいと思ったことを思い出しました。しかし◯◯は家を出る時、お母さんに嫌いと言ってしまったのです。もしかしたらお母さんは、もう◯◯のことがいらなくなったかもしれません。◯◯は悲しくて、しくしく涙を流しました。
「どうしたんだい◯◯、どこか痛いのかい?」
「もっと遊ぼうよ」
「ここで一緒に暮らそうよ、楽しいよ」
周りにいたカゲボウズたちも集まってきて、◯◯に声をかけます。しかし◯◯は泣き止みません。するとその時です。
「ついておいで!」
誰かが◯◯の手を握って、そのまま走り出しました。うつむいていた顔を上げると、涙でゆがんだ視界に青い影が映りました。◯◯を連れ出したのは、あの青いジュペッタでした。振り返ると、たくさんのカゲボウズたちと一緒に黒いジュペッタがこちらを睨んでいます。彼らは大声で何かを叫んでいましたが、はっきりと聞き取れはしませんでした。
「君はここにいてはいけないよ。自分の家に帰らなきゃだめだ」
◯◯はその言葉に何度もうなずきました。そして前を走る青いジュペッタに置いていかれないように、繋がっている手をぎゅっと握りしめました。
「お母さん、すごく心配しているよ」
「ほんとう?」
「もちろん。だから早くかえらなくちゃね」
「うん」
森の中を、海の中を、雲の上を、◯◯と青いジュペッタは走り続けました。やがてこのおかしな世界に入る前に通った、不思議なドアが見えてきました。
「さあ、このドアを開ければ、君の家だよ」
◯◯はドアノブに手をかけ、小さな声で言いました。
「あなたはいっしょにきてくれないの?」
「ボクはそのドアの向こうには行けないんだよ。ボクの役目はもう終わったんだ」
「わたし、あなたとまだあそびたかった」
「ボクもだよ。でもね、ボクは君と出会えて、本当に幸せだった」
「またあえる?」
「君が望むなら、いつでも」
◯◯はゆっくりとドアを開けます。隙間からはキラキラ太陽の光が漏れていました。
「さようなら、◯◯」
◯◯がハッと振り返ると、にっこり笑う大切な友達の姿が見えました。■□■
◯◯は気づくと、ベッドの上にいました。目を覚ました◯◯を、お母さんは優しく抱きしめました。
「おかあさん、ごめんなさい」
「お母さんこそごめんね、あのぬいぐるみは3歳の誕生日におばあちゃんがくれた、◯◯の宝物だったのに」
「ううん、だいじょうぶ」
目を閉じると、微笑む友達の顔が思い浮かびます。なぜすぐに思い出せなかったのでしょう。彼はいつだって、◯◯のことを心配してくれていたのに。
「わたしがおぼえているかぎり、あのこはずっといっしょにいる。そうでしょう?」
(眠れ 眠れ 可愛い子)
(ぼくといっしょに いつまでも)
(20120810/25*la)