原型ポケモン
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はじめは視線、その次は思考、最後は心──きらきらひかる、
その女性は毎日2回、決まった時間にこの9番道路を通った。朝ソウリュウシティからやってきて、道路の中ほどに建つショッピングセンターに入っていく。そして太陽が沈む少し前に、またソウリュウシティへと帰っていくのだ。何度か見かけるうちに、彼女はあのショッピングセンターで働いているということがわかった。
わたしの日課は洞窟の外の草むらに住む野生のポケモンに勝負を挑みにいくことだったのだが、いつしか外に出る目的は、朝夕通る彼女を見るために変わっていった。最初は戸惑った。しゃべったことも、ましてや目を合わせたことすらない人間の女性のことが、何故こんなにも気になるのか。何日も何日も考えた。そしてある日驚くべきことに──わたしはルカリオに進化してしまったのだ。そこでわたしはようやく気づいた。
ああ、わたしはこんなにも彼女のことが好きなのだなあ、と。
その日はいつもと違っていた。太陽が沈みきっても、彼女はショッピングセンターから出てこない。この道路は治安が悪く、夜は暴走族が行き交う危険な場所だ。もしものことがあってはならないと、わたしは修行が終わっても洞窟の外にい続けた。野生のポケモンたちもわたしの異様な雰囲気を感じ取ったのか、バトルをしかけてくることはなかった。
何時間経過しただろうか。彼女はまだ現れない。もしかすると、わたしが見逃しただけでもう帰宅しているのか? いや、いつも見ていた彼女の波導に気づかないほど、自分は未熟ではないはずだ。ならば何故、
「あ、あの、通してください……っ」
──声が、した。
言葉を交わしたことはないが、間違いない──彼女だ。
聞こえた方向に意識を集中させる。ショッピングセンターの入り口の前、女1人に男3人。ああ、くそ! ぬかった!
わたしは月下に躍り出る。こちらに背を向け彼女に迫る男たちの背後へ、静かに降り立った。
『主、こちらにいらっしゃったんですか』
突如響いた声に男たちは振り返るが、わたしは意に介することなくまっすぐ彼女だけを見つめる。男たちと同様、驚きで目を丸くする彼女。そんな素振りさえ愛しく感じる自分は、すでに末期かもしれない。
何やら喚いている男たちを素通りして、彼女の前に立つ。怖がらせぬよう、安心させるように、わたしは微笑んで言った。
『遅いので心配しましたよ。さあ、一緒に帰りましょう』
逸らされることのない視線。彼女はわたしの意図に気づいたのだろう、慌てて「う、うん、迎えにきてくれてありがとう!」と答え、わたしの手を握った。(予想外、だ)
そんなわたしたちにリーダー格の男がつっかかってこようとしたが、取り巻き2人が必死に抑えつけながら走り去ったので、事なきを得た。賢明な判断だ。どうせお前ら暴走族のことだから、手持ちはあくタイプが大半だろう。相性ではこちらが勝っている。まあ、彼女を守るためならたとえエスパータイプ相手でも負けるつもりはなかったけれど。
「……ありがとう、えっと……ルカリオ?」
『いえ……困っていたみたいでしたから』
「うん、助かったわ。いつもはもっと早く帰れるんだけどね、今日は残業が入っちゃって」
『ああ、だからか……』
「え?」
『え、あ、何でもありません』
焦った顔を隠すためうつむいていると、頭上から含み笑いが聞こえた。柔らかい手のひらで頭を撫でられる。おそるおそる顔を上げれば、優しく笑う彼女の姿。
『こんな時間に、女性の一人歩きは危険ですよ』
「そうねえ──あーあ! 頼もしいボディーガードがいてくれたらなあ!」
『……わたしに一つ心当たりがあるのですが、どうでしょう?』
「あら本当? じゃあ、お願いしようかしら」
(はじめは視線、その次は思考、最後は心を奪われた。)
(今はあなたの心が欲しい。)
(20120602/25*la)