原型ポケモン
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スズナちゃんとのバトルに勝てたのはラムパルドのおかげだった。もちろん他の子も頑張ってくれたのだけれど、彼女の切り札であるユキノオーは本当に手ごわくて、手持ちがほぼ全滅まで追い込まれてしまったのである。だからこそあのウッドハンマーを耐えてくれたラムパルドには感謝してもしきれない。粉塵が舞う中、ユキノオーの腕を頭で受け止めていたラムパルドがちらりと私に視線を投げ、力強く微笑んだ時は最高に格好良かった。
というわけで、
「今日の晩ご飯は、バトルで大活躍してくれたラムパルドくんのリクエストに何でも答えちゃうよ!」
おたまを片手に高々と宣誓すると、ラムパルドは首をゆるく傾げてこちらを見た。そんなによろしくない彼の頭では理解しきれなかったのだろうか。まあそんなところも可愛いのだけれど。
「好きなもの作ったげるから、遠慮しないで教えてね」
ラムパルドの鼻先をちょんとつついて簡単にそう言えば、3秒ほど遅れてようやく理解が追いついたのだろう、短い腕でバンザイをしながら部屋を走り回った。そんな姿に頬を緩ませていると、彼はキッチンへたったか駆けていき、小さな箱を両手で持って戻ってきた。
「あ、カレー?」
そう、ラムパルドが持ってきたのはカレールウの箱だった。ぐいぐいとそれを私に差し出してくるラムパルドから受け取ると、今度は背中をぐいぐい押されてあっという間にキッチンへ連行された。よーし、と腕まくりをした時、私はあることに気づいた。この箱の色は確か甘口のルウだったはず。うちのラムパルドは辛いものが好きだ。せっかくのご褒美なのだから、より喜んでもらえるよう辛口のルウにしようとラムパルドに伝えたのだが、彼は何故かかたくなに甘口の箱を押しつけてくる。
「え、えー……でも、ラムパルドは辛いのが好きでしょ?」
私が問いかければ、ラムパルドはこくんと頷いた。
「じゃあやっぱり辛口のほうがいいんじゃない?」
しかし彼はぶんぶんとかぶりを振る。困った、ラムパルドの言いたいことがいまいち分からない。こんな時言葉が通じないのは本当に不便だ。うなりながら頭を捻っていると、ラムパルドに突然手首を掴まれた。ぐんと近づいたせいで彼のとんがったツノが顔に当たりそうになってちょっとビクッとしたけれど、何かを伝えようと必死にギャウギャウ鳴いてるラムパルドを見てたら、そんなことどうでもよくなった。彼の目を見つめながら、もう一度きちんと考えてみる。ラムパルドは辛いものが好きで、でも今日は辛口じゃなくて甘口がよくて、って、ちょっと待て。そもそもだ、何故辛いものが好きなラムパルドがいるのにうちには甘口のルウもあるのかというと、それは私が辛いものが苦手だからだ。だから甘口と辛口、両方のルウが常備してあるのだけれど……
「ちょ、待って待って、えっ、もしかして私のため……だったり?」
ラムパルドはこくんと頷いた。つまり彼は、好きなものを作ってあげると言われたにも関わらず、私でも食べられる甘口のカレーをリクエストしたことになる。それから導き出される答えは──、
「一緒に食べていいの?」
こくこくと何度も頷くラムパルド。ああそうか、ようやく合点がいった。彼は私と一緒にカレーを食べたかったのだろう。自分の好きな辛口カレーよりも、私と食べる甘口カレーのほうがいい、と、そう言ってくれていたのだろう。
「……ありがとう、君は優しい子だねラムパルド」
握られっぱなしだった手首を上に回して、私もラムパルドの手首を握り返す。ぎゅうっと少し力を入れて握れば、彼は気恥ずかしかったのか、すっと視線を横に逸らしてしまった。ただ私の手首を握りしめた手だけは、決して放そうとはしなかったけれども。
(その夜ふたりで食べた甘口カレーは、今まで食べたどのカレーよりもうんとおいしく感じたのでした。)
(20150420/25*la)