原型ポケモン
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ドキドキ100倍返し
「今何て言ったの……」
そう言いつつも◯◯は右手に握った棒の先から視線を逸らせずにいた。3だ。何度見ても3としか書かれていない。たった今投下された衝撃的な言葉を、◯◯は理解できなかった。否、認めたくなかった。だから、もしかしたら突然自分の耳がおかしくなってたのかもしれない──そんな淡い希望を抱きながら返事を待った。あれを認めるくらいなら難聴になったほうが何倍もマシだ。
しかし、彼女の希望は黄色い小悪魔によって無残にも打ち砕かれるのであった。
『もー、ちゃんと聞いててよねぇ。1番とぉ、3番のひとがぁ、ポッキーゲームしてって言ったのぉ』
「うわあやっぱりっていうかそのポッキーどこから出したのユクシー!」
『念力でも使ったんじゃないかな』
「真面目か!」
◯◯はパニックに陥りながらも、真面目に説明してくれたアグノムにしっかりツッコミを入れるのを忘れない。確かに聞いたけど今はそれどころじゃないでしょうが! まったくこれだからマイペースは!
肩で息をする◯◯に、ユクシーは不満げに口をとがらせる。
『王様は何でも命令していーんじゃないのぉ?』
「いくない! そういう破廉恥系はいくない!」
『正確にはよくない、だ。言葉はきちんと使おうよ◯◯』
「だから真面目か!」
『◯◯だってさっき尻文字命令したじゃーん。ユクシーすごく恥ずかしかったんだよぉ?』
「う……っ」
『大体ポッキーゲームっていったら王様ゲームの王道でしょぉ?』
『最初に王様ゲームしようって言い出したの◯◯じゃないか、それなのに君が逃げるのか?』
『そこまで嫌がるってことは、◯◯がアタリくじ引いたんだよねぇ。ほらぁ、さっさとやっちゃいなよぉ』
「うう……っ」
2匹に責められ、完全に孤立無援した◯◯──とここで、ようやく先ほどから一言も発していない存在がいることを思い出した。いかに彼女が混乱していたかがうかがえる。
ちらりと視線を動かして、アグノムとユクシーの後ろに見えた桃色に向かって叫んだ。
「た、助けてエムリット! 君の友達が無理難題を!」
『……』
「……エ、エムリット……?」
じっと手に持つ棒を見つめ続けるエムリット。その瞳からは何の感情も読み取れない。本当に感情の神なのかと問いたい。まあ聞いたところで当たり前だろと頭をはたかれるのが目に見えているが。
「おーいエムリットやー」
『3番なのか?』
「い?」
『お前、3番なのかよ?』
「う……うん……」
『ふぅん』
それだけ言ってエムリットはふよふよと無言でユクシーに近づき、その手から赤い箱を引ったくると、無造作に封を切って中のポッキーを1本取り出した。そして躊躇う様子もなく口にくわえると、◯◯に向かって『ん』と差し出した。んって何だ。
『ほら早く』
「早くって……エムリットが1番!? えっ、やるの!?」
『王様の命令なんだろ』
「いやそうだけども……本当にやるの?」
『うるさいな! 早くしろってば!』
エムリットはポッキーをくわえたまま◯◯にぐいぐいと迫ってくる。どうしてこうなった。助けを求めたら余計窮地に陥ってしまった。アグノムとユクシーは、そんなふたりの様子をにまにまと笑みを浮かべながら見ている。何とも憎たらしい表情である。文句を言ってやろうと◯◯が口を開いた瞬間、痺れを切らしたエムリットが彼女の口に無理矢理ポッキーを突っ込んだ。
「んぐっ!?」
さくさくと軽快にポッキーを食べていくエムリット。◯◯といえば、咄嗟にくわえはしたものの、それから口も動かしていない。しかし彼女が何もせずともふたりの距離は縮まっていくわけで。
「(ちょっ、近い近い近い!)」
一体どこまで食べるつもりか。お互いの口はもう5センチも離れていない。それでもエムリットは食べるのをやめない。
◯◯はもう訳が分からなかった。何で? 何でやめないの?
「(……ええい! 女は度胸だ!)」
覚悟を決めて目を閉じ、◯◯がポッキーを一口、
『バーカ』
「……は?」
パキッと渇いた音が響く。
口の中に残された小さなかけら。
にやにやと笑いながらこちらを見つめるエムリット。
それらが導き出す答えは──
「──ッ、か、からかったの!?」
『あーはっはっは! 本気にしてやんの! おい見てたかお前ら、こいつの間抜け面!』
『笑ったら可哀想だよぉ……ふふっ』
『ユクシーだって笑ってるじゃないか!』
『だぁってぇ、◯◯可愛かったんだもん……んふふふっ』
『まったく』
けたけた笑い転げる2匹を尻目にし、アグノムが◯◯に近寄る。うつむいて表情は分からないが、わなわなと肩が震えているようだった。
『ごめん◯◯、エムリットは、その、悪気があったわけじゃないんだ……きっと、多分』
『そうそう、わたしは紳士だからな! ゲームなんかでキスしたりしねえのさ!』
『エムリット! せっかくぼくが庇ってあげてるのに、君はどうしてそう、』
アグノムの言葉はそれ以上続かなかった。◯◯が真っ赤な顔をあげたかと思うと、そのまま勢いよくエムリットに飛びついたからだ。
『あ』
『わーお』
「っ──お、お返しだバーカ!」
捨て台詞のようにそう言い、◯◯は3匹の前から走り去っていった。
残された3匹は呆然とその後ろ姿を見つめることしかできず。
『あンの、女ぁ……!』
口の端に押し当てられた柔らかい感触に、今度はエムリットが混乱する番なのだった。
(20141111/25*la)