原型ポケモン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
気づいたら、◯◯の前にはそいつがいた。そいつが巨大な翼を広げて地面に降り立った際に吹き上げた風のせいで、◯◯が差していた雨傘が後方に飛ばされた。しかし彼女は今それを気にかける余裕もないくらい驚いていて、言葉どころか動きすら止まってしまった。
「ど……どうしたの、その体」
渇いた喉からやっとこさ引っぱり出した声は、自分でも情けないほど震えていた。
紅玉のような瞳は、まっすぐと逸らされることなく◯◯に向けられている。何事だろう。気まずい沈黙が流れた。
『──◯◯』
「ひゃい!」
『何だ、その間の抜けた返事は』
クク、と喉の奥を震わせてそいつは笑う。赤い眼、紫色の体躯、鋭い爪先──にんまりと双眸を歪めるその姿は、やはり◯◯のよく知るものとは少し違った。ところどころ面影はある。だが、◯◯の全身をどろりと包む悪寒が、そいつを全力で否定していた。
「ぁ……あなた、誰なの?」
『それはお前もよぉく知っているはずだが?』
「違う。あなたは私の知ってるルギアじゃないわ」
『……ほう。存外、莫迦ではないらしい』
己を試していたのだということが言外にほのめかされ、◯◯は恥ずかしいやら悔しいやらで今まで感じていた恐怖心が一瞬にして吹き飛んだ。何なのだこいつは。初対面の女性に対して失礼極まりない。
「あなたっ」
『──◯◯!』
聞き慣れた声が脳内にこだましたのと同時に、◯◯の周りを再び突風が吹き荒れた。雨粒が勢いよく◯◯を襲う。しばらくしてから目を開ければ、そこには、
「ッ、ルギア!」
白銀の翼を大きく広げ、◯◯をそいつから隠すように遮る、海の神ルギアの姿があった。いつもの冷静さは失われ、その切れ長の瞳はさらに鋭く研ぎ澄まされている。◯◯が声をかけてもルギアは彼女に振り返りもせず、ただ一心に不気味な笑みを浮かべる目の前のそいつを睨み続ける。
『貴様、何の真似だ』
『風の噂で聞いたのだ。偉大な海の神が、下賤なヒトの子に現を抜かしているとな』
『何だと……?』
だが、と言葉を濁し、そいつはルギアの翼の端から顔を覗かせた◯◯を見やる。訳も分からないまま話に置いていかれた彼女は、必死にこの"ルギアとは似て非なる存在"を理解しようとしていた。そんな◯◯の姿にそいつはくつりと喉を鳴らし、より一層紅玉を歪ませた。
『臆することなく我と向き合う精神の強さはなかなか見所がある。良い拾い物をしたな』
『彼女を物扱いするな、下衆め』
口を大きく開いて口内に真空波を溜め始めたルギアを見て、そいつも禍々しい空気の渦を作り出す。2つの強大な気の塊がぶつかり合った衝撃で、◯◯の髪が激しく乱れた。
鼓膜が破れるかと思うほどの轟音の中で、◯◯はルギアの呻き声を聞いた。慌てて顔を上げると、体中至るところに切り傷を作ったルギアが地面に片膝をついている。
「る、ルギア……っ!?」
『莫迦が、我に勝てるとでも思ったのか』
両の翼を振り、いつの間にか生み出した竜巻を消し去ると、そいつはもう一度◯◯に視線を寄越した。血の色をしたその瞳の奥に底知れない闇を感じた◯◯は、思わず肩を震わす。
『──また会おう、神に魅入られた哀れな愛し子よ』
◯◯の耳に響いたその言葉は、彼女の脳内をどろりと溶かし、その後も◯◯を侵し続けるのだった。
翼に添えられた◯◯の手がわずかに震えているのが、ルギアにも伝わっていた。あれは元々、己と一つであった存在。あれが興味を持つもの、自分が心惹かれるもの……同じ存在であるのなら、それらが同じものであっても、何ら不思議ではないのだ。あれが本気で◯◯を奪おうとすれば、自分にはほとんど勝機はない。
──けれども、
「ルギア……ルギア、大丈夫……?」
◯◯が私を求めてくれるのならば、
『……ああ、何も心配はいらない』
抗ってやろうではないか。
君を守るために。
(20141008/25*la)