原型ポケモン
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9月。暦の上ではもう秋に入っているにも関わらず、ホウエン地方ではいまだ暑い日が続いていた。そこかしこで入道雲が競って背を伸ばし、太陽はそれらを応援するようにより燦々と輝きを増す。
見ているだけで日焼けしそうな外の景色を網戸越しにぼんやり見つめながら、主はたっぷりと氷を入れたグラスに口をつけた。彼女の隣には風量を強に設定した扇風機。夏といえば麦茶の印象が強いが、渋味の中にもほんのり甘味のある緑茶を主は好んだ。グラスを握っていた手のひらが濡れてしまっていたが、主は立ち上がることさえ億劫だったらしく、適当に服でぬぐうだけにとどまった。
「早く冬になればいいのに」
そんなことを言っているが、彼女のことだ、どうせ雪が降れば早く夏になれ~と愚痴るに決まっている。そう思っていると──じろり。主が「今失礼なこと考えたでしょ」とこちらを睨んだ。ぐぬぬ、こうも簡単に思考を見透かされるとは……しのびポケモンとしてまだまだ修行が足りぬということか……。
「何その『こんな小娘ごときに心読まれて悔しい』みたいな顔。ひどいなあ、どんだけ私を下に見てんの」
そ、それは誤解でござる! 拙者、決して主を侮っていたわけではなく、ただ己の弱さを痛感しもっと精進せねばと考えていただけであって、あの、その、信じてくだされ!
「うわあ嘘嘘ごめん! そんなこと思う子じゃないって分かってるから! ちょっとからかいたくなっただけ! 頭痛くなるから静かにしてー!」
な、なんと、ただの戯れであったか……主もお人が悪い……。
主の手持ちになってもう何年も経つが、彼女はいまだにどこか子どもっぽい嫌いがあった。からかわれるたび拙者はいつも肝を冷やす。だがその後、主は決まって拙者の頭を撫でてくださるのだ。そうら、今も。先ほどまで冷たいグラスを握っていた彼女の手は、ひんやりとして心地良かった。主の一挙手一投足に拙者は肝を潰し、また同時に胸を焦がすのである。
天高く盛り上がる入道雲。照りつける大陽。扇風機の無機質な音。拙者を見つめる、主の瞳。どれもこれも鮮明に記憶に焼きつけておきたいもの。何度も巡る夏ではあるが、同じ夏は二度とないのだ。
グラスの中に残った氷が、がらんと鳴いた。たまゆら
主と共に過ごす時間、ほんの一瞬でさえ忘れたくはない故。
(20140917/25*la)