原型ポケモン
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リビングに入ると途端にひやっとした空気が◯◯を包んだ。外とはまるで別世界、出かける前にクーラーのタイマーかけといて本当に良かった。ビニール袋をテーブルに置き、汗で体にぴったり張りついたTシャツと短パンを脱ぐ。うわあ、べったべた、気持ちわるっ。下着姿のままキッチンまで行き、冷蔵庫の中でキンキンに冷えたサイコソーダをラッパ飲み。くーっ最高! 口の端から零れた一筋をぐいっと拭う。
さあて、買ってきたヒウンアイスを食べようかな。この夏限定のカイス味、しかも普通のと違って1つ500円もした。値段は少々お高いが、今大人気の商品で、毎日昼頃には完売してしまうため、◯◯は今日朝一で買いに行ったのだ。ところが彼女がヒウンシティにつけばすでにそこには長蛇の列、列、列。その後炎天下の中、並びに並んでやっとこさ念願のアイスは手に入れたのだけれど、長時間立ちっぱなしだった足で自転車を漕ぐのは拷問に等しい。結局、◯◯が家に帰ってこれたのは昼近くになってしまった。
汗も適度に乾いたので、手近にあったワンピースを被る。保冷剤をたっぷり入れてもらったおかげで、アイスはまだ充分冷たいだろう。命懸けで手に入れたといっても過言ではない限定品ヒウンアイス、大事に大事に食べることにしよう。こんな贅沢なかなかできないよ。◯◯はむふむふと緩む頬をそのままにリビングへ戻った。
「……何してんのあんた」
『アイス食べてる』
平然とした顔でゾロアークは答えた。別に悪いことなんかしてないけど何か、とでも言いたげに目をぱちぱち瞬かせている。相変わらず暑っ苦しいたてがみである。剃れ、もしくは刈れ。
「は、え、いつ入ってきたのよ」
『◯◯が帰ってきてすぐ。つーか今気づいたのかよ。さっきリビング通ったじゃねえか』
「……見てたの?」
『見てたよ』
「……あー……まあ、特に恥ずかしいとかは感じないけどさ」
『俺も特に見てえとは思ってなかった』
「殴るぞ」
『キャーゴメンナサーイ』
相変わらずしれっとした顔で、仮にも嫁入り前の女の下着姿を「見たくなかった」とのたまうゾロアーク。たとえ彼らポケモンに着衣の概念がなくとも、言っていいことと悪いことがあるはずだ。そして今のは間違いなく後者である。謝罪の言葉も棒読みでまるで気持ちが込められていない。そんなゾロアークは既に視線も◯◯から逸らし、がふがふと手に持った可愛らしいカップにかぶりついている。そう、がふがふと──
「ちょっ、こら! 何勝手に食べてんのよ! それ私の!」
『けちけちすんなよ、ババくせえぞ』
「バ!?──ッあのねえ、それは私が朝からずーっと並んで、やっとの思いで」
『あー、んまかった』
「ああああ!」
べろんと口周りを一舐めし、ゾロアークは舌鼓を打つ。◯◯は彼が放したカップを覗きこんで呆然と立ちつくした。中はから。何度見ても、から。こいつ、マジで全部食べやがった!
「信じらんない! 何で食べちゃうわけ!?」
『あっちい中ここまで歩いてきたから喉渇いてたんだよ。いいだろ別に、アイスの1個や2個ぐれえ』
「だからそれは普通のアイスじゃないの! すっごく人気でなかなか手に入らないんだから! それなのに、それなのにあんたは」
『だーもう分かったよ、なら◯◯も食えばいいだろうが!』
叫ぶと同時に引き寄せられた腕。ゾロアークは胡座をかく自分の膝に倒れ込んだ◯◯の後頭部を反対の手でがっちり固定し、がぶりとその唇に噛みついた。つい先ほどまでアイスを舐め回していた余韻のある冷たい舌が、同じように◯◯の口の中を荒らした。奥に引っ込んだ彼女の舌と絡ませ、残る甘いカイスの味を移す。けれども冷たさが失われたゾロアークの舌は離れることはなく、まだ足りないとでも言うかのように◯◯を貪り続けた。体の一部を占領されているだけなのに、◯◯の頭の中はもうゾロアークのことで埋めつくされている。互いの舌は吐息と共に絡み合い、最早それは口移しとは呼べない、深い愛撫となっていた。
ずるりと◯◯の口から抜き取られた彼の舌は、ふたりの唾液が混じり合ってぬらぬらと光っていた。潤んだ視界でそれを見つめていれば、ゾロアークから「で?」と声をかけられた。
「でって……何が」
『アイスの味。美味かったかよ』
「あー……」
麻痺した頭で思い返してみるも、甘美だったろうアイスの味は、正直ぼんやりとしてよく覚えていない。思い出されるのは、無遠慮に自分を攻め立ててきた彼の熱い粘膜だけ。
「──うん……うまかった」
『そいつぁ良かった』
こちらを見てにやりと笑うゾロアークは、もしかしたら分かっているのかもしれない。心の内を読まれたようでばつが悪かったので、◯◯は乱れた髪を整えながら彼を睨みつけた。
「あんた、まさかこれで許されるとでも思ってんじゃないでしょうね」
『そんなわけねーし』
「……」
『まあ……許されたらいいなあ、とは』
「……明日、また買いに行くのついてきてくれたら、許してやる」
『えええー』
「文句あんの」
『……ナイデース』
首筋に張りついた髪を払いながら◯◯は誓った。次は必ず、先手を取ってやると。
(20140904/25*la)