原型ポケモン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
待雪草に願ふ
◯◯が知らないあいだに、秋はすうっと通りすぎていきました。頬をなでる北風に思わず肩をふるわせる◯◯を、隣にいたユキカブリが心配そうな目で見ています。
冬です。冬がきたのです。
◯◯は寒いのはあまり得意ではありません。けれどもこの季節が近づくと、◯◯のすむ町の近くにはユキカブリがやってくるので、ことさら冬が嫌いというわけではありませんでした。
ユキカブリは毎年、◯◯に会うために山をおりてきます。そしてまた◯◯も、ユキカブリに会うためにマフラーを巻いて、手袋をはめ、帽子をかぶって、毎日外へ遊びにいきました。とくに寒い日には、◯◯のお母さんが次々に服を◯◯に着せていくので、すっかり着ぶくれした様子の◯◯を、ユキカブリはきゃらきゃらと笑うのでした。
ある時、ふたりは雪だるまを作りました。◯◯が上の小さい玉を、ユキカブリが下の大きな玉を、それぞれ丸めました。ところが◯◯が張り切ってユキカブリよりも大きな雪玉を作ってしまったので、結局◯◯が体を、ユキカブリが頭を作ることになったのです。
町の子どもや他のユキカブリたちと一緒に、雪合戦もやりました。みんなとはしゃいでいると、◯◯は寒いのも忘れてしまいました。なので当たった雪玉が解け、ずぶ濡れになって帰ってきた◯◯を見て、お母さんはたいそう心配しました。そして次の日、◯◯はお母さんの思ったとおり、高い高い熱を出したのです。
◯◯がやっとベッドから体を起こせるようになったのは、寝込んでから1週間もあとのことでした。ふと窓の外に目をやった◯◯は、おや、と思いました。窓ガラスの向こう側に、何かが置かれていたのです。◯◯の手のひらほどの、小さな雪玉でした。雪玉には赤い実が2つ埋めこまれており、てっぺんには葉柄で2つに分かれた緑の葉の片方が刺さっています。もう一方の葉は、その横によりそうように置いてあった、ひと回り小さな雪玉に繋がっていました。
それは、雪で作られたチェリンボでした。ずいぶん長いことそこに置いてあったのでしょうか、窓のわくに解けた雪水がたまっていました。誰がこれを作ってくれたのか、◯◯にはちゃんと分かっていました。
それからさらに2日後、◯◯はようやく元気になりました。家の外に出た◯◯が真っ先に向かったのは、もちろんあのユキカブリといつも遊んでいた場所です。けれどその日、◯◯がどれだけ待っても、ユキカブリは来ませんでした。
次の日も、その次の日も、ユキカブリは来てくれませんでした。
あくる日は、久しぶりにのどかな天気になりました。◯◯はいつものようにマフラーを巻いてきたのですが、ちょっと暑くなって、マフラーをはずしました。手ごろな高さの木の枝にマフラーを引っかけようとした時です。
「わあ、芽が出てる」
枝の先に、小さな芽が生えていました。積もった雪をかきわけて、緑の顔をのぞかせています。◯◯があたりを見回してみると、あちこちの枝が芽吹きの時期をむかえていました。空を見上げればスバメのむれも飛んでいます。頬をなでるそよ風に乗って、ふとユキカブリの声が聞こえたような気がしました。
もうすぐ、春がやってきます。
(20140110/25*la)