原型ポケモン
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僕が幾千年の時を経て君の元に蘇ったのは、おそらく必然だったのでしょうね。
僕のご主人の話をします。
彼女は◯◯といって、とても臆病でどんくさい女の子です。何もないところで転ぶし、すぐ泣くし、何より極度の人見知りでもあります。他人の目を異常に怖がり、いつもびくびくしているせいで、◯◯は幼い頃からよくいじめられていたそうです。彼女がまだ化石だった僕を見つけた時も、実はネジ山に大切にしていた人形を隠されてしまい、それを探していた最中だったと聞きました。◯◯には申し訳ないけれど、僕は人形を隠したいじめっ子たちに感謝しています。だって彼らのおかげで、僕は◯◯と巡り会うことができたのですから。◯◯は最初それが化石だとは思っていなかったのですが、彼女の父親が炭鉱勤めだったらしくすぐ僕に気づいてくれました。そしてシッポウ博物館で僕は復元され、今日 まで◯◯の隣で二度目の生をうけているのです。僕は◯◯にとって生まれて初めての友達でした。また僕にとっても、彼女は何物にも代えがたい愛しい存在になっていったのです。おかしな話でしょう、ポケモンの僕が、ヒトである◯◯に恋をするだなんて。しかし僕は、愚かだと理解しつつも日に日に募っていくその苦痛にも似た思いに気づかぬフリをするなんてできませんでした。
さて、僕が復元されて◯◯の身を置く環境が変わったかといいますと、遺憾ながらほとんど変化はなく、依然として彼女はいじめられっ子のままでした。ああ、誤解しないでくださいね。僕は僕なりに彼女を守ろうとしてはいたのですが、何と運の悪いことにいじめっ子たちの手持ちがドテッコツやフリージオなど僕の弱点をついてくるポケモンばかりだったのです。悔しいですが、僕は一方的にやられてばかりいました。僕が倒れるたび、◯◯は泣きます。◯◯を泣かせてしまった己の無力さに、僕も泣きます。彼女は僕に腕を回し、僕は彼女に触手を巻きつかせ、ふたりして声が枯れるまで泣き続けた時もありました。
そして5年前のある日、◯◯と僕はついに外に出るのをやめたのです。
僕の頭をゆぅるりと撫でる◯◯の腕は、長年太陽に当たることを忘れたせいで雪のように白い。僕が伸ばされた手に擦り寄ると、◯◯はいつも決まってこう言います、「ごめんね」。ほら、今日も。
「ごめんねリリーラ。あの時私が見つけなければ、あなたは今でも静かに眠っていられたのにね……ごめんね……」
ああ◯◯、何を謝ることがありましょう。僕を復元させたこと? いじめられたこと? 引きこもったこと? 罪悪感を抱きながらも僕を手放せないこと?──どれも間違っています。僕は君と同じ時代を生き、同じ朝を迎え、同じ空気を吸えることにさえ感謝しているというのに。数知れぬ『リリーラ』の中から僕だけが君に出会えたことを運命と呼ばないとするなら、一体何をそれと呼ぶのですか。愛しい◯◯、僕だけの◯◯。僕たちは長い間ふたりだけでい過ぎた。きっと僕たちは死ぬまで互いに依存しあってなければ、呼吸することもままならないでしょう。けれど構わない。僕が◯◯以外何もいらないように、◯◯も僕以外のものを全部捨ててくれたのですから。家族も、世界も、何もかも。
あの日僕たちが選んだ答えが果たして正しかったのかは、今でも分かりません。しかし僕がこの先、彼女のそばにいることを後悔する日は一度たりとも来ないでしょう。そして◯◯が望む限り、◯◯が僕を必要としてくれる限り、彼女の良き『親友』であり続けようと、僕はそう思うのです。
(20111207/25*la)
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