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「「「「ありがとうございました!!!」」」」
喜び・悲しみ・怒り
様々な声が飛び交う体育館
またひとつ
少女達の青春が幕を閉じた
「やっぱりここか・・・探したぞ豊香。」
体育館裏の渡り廊下を抜けた先
そこには大きな楠木が
めいいっぱい枝を伸ばし
周りの草木を包み込むかのように生えている
中庭がある
奥まっているせいか
日中でもあまり人が来ることはなく
そもそもこの場所を
一体何人の人が知っていることか
そしてその楠木の下には
芝が生い茂り
一人の少女が膝を抱えて
座っていた
豊香と呼ばれた少女は
ゆっくりと顔をあげ
声の主である少年を見つけると
スっと立ち上がり
今まで我慢してきた涙を
ボロボロと零しながら
胸の中に飛び込んでいった
「え"ーじろ"ぉ"ぉ"ぉ"ー!!!」
豊香は切島の胸の中で
声を上げて泣くと
切島はそれに答えるように
強く抱きしめ
そして何度も頭を撫でた
「落ち着いたか?」
あれから数十分後
豊香の涙は止まり
落ちつきを取り戻したが
目は赤く腫れたままで
今は胡座をかく切島に
膝枕をしてもらいながら
冷たいタオルで目を冷やしていた
今日は豊香が所属する
バレーボール部の大会最終日
惜しくも僅差で準優勝という結果となり
主将であった豊香は
もっとやれることはあったのでは無いか
あの時こうしていれば勝てたのではないかと
自分自身を責めていたのだ
「あ"~なんで、あの時もっと攻められなかったんだろう・・・。あそこさえ攻め抜ければ、ワンチャン逆転あったかもしれないのに・・・。」
普段豊香は底抜けに明るく
傍から見ると悩みとは無縁のように見えた
だが本当は人一倍泣き虫で悩み多き女の子だが
周りには必死に隠していたのだった
遡ること2年前の夏
初めてレギュラーになるものの結果を出せず
自身のミスが原因で
先輩達の夏を終わらせてしまい
同じようにこの楠木の下で泣いている所を
切島に見られたのが始まりだ
「あたし・・・何のためにバレーやってたんだろ・・・意味なかったのかな、この3年間・・・。」
思考回路が落ちに落ちた豊香は
ついに自分否定にはいってしまった
するとそれを見ていた切島は
豊香の顔に手を伸ばすと
鼻を上に押し上げ
豊香の鼻は豚のように上に向いた
「ふがッッ!?・・・え、鋭児郎!!何するのさ!?」
豊香は勢いよく飛び起きると
自身の鼻を押さえ
切島に抗議する
「暗い顔してる豊香にお仕置。・・・なぁ、豊香。人生にいらない経験なんてないんだぜ。どんな些細な事でも、たとえ他人からしたら必要ない事でも、その人には必要な経験で、気づかないだけで何かしらを得てるんだ。それに、俺が憧れるヒーロー、クリムゾンライオットのXX年10月6日のインタビュー記事では
「「人生に無駄なんてひとつもねぇよ。だからこそ、後悔のねぇ生き方を俺は送る。」」
・・・なんだ、覚えてるんじゃねぇか。」
切島とともに
漢気ヒーロー
クリムゾンライオット
の名言を言う豊香
それもそのはず
付き合ってからの1年半
ほぼ毎日と言っていいほど
クリムゾンライオットのことを
切島から聞いていたのだ
よく世間では
耳にタコができると
表現されるけど
もうタコを超えて
クラーケンになりそうだよと
切島に伝え
ケタケタ笑い出す豊香
つられて笑う切島
すると切島は思い出したように
ポケットから箱を取りだすと
豊香に手渡し
そっとおでこにキスをした
豊香は上目遣いで切島を睨みつつ
片手でおでこを押さえると
手渡された箱に目線を移し
そして首を傾げた
「もうッッ!!///・・・ん?・・・カロリーメイト?」
不思議そうに見つめる豊香に
切島は言葉を残し
体育館の方に歩いていった
「試合後だから、腹減るだろ?一緒に食べなよ、主将。俺、体育館に忘れ物したから、取りに行ってくるから、ごゆっくり。・・・あとで連絡ちょうだい。」
片手を上げヒラヒラと手を振る切島の姿に
さらに首を傾げる豊香
するとカロリーメイトの箱の裏に
少し角張った文字で
"お疲れ様。素直になれよ"と
書かれている文字を見つけた
「なんだよ、素直になれって・・・クスッ。」
豊香は箱の裏を見ながら
少しだけ目を細めて笑っていると
誰かに声をかけられた
それは先程まで
一緒にコートに立っていた
2つ下の後輩だった
「先輩・・・本当に・・・すみません・・・で・・・し・・・た・・・。わ、私・・・の・・・ミスで・・・。」
そう言うと顔を両手で隠し
ボロボロと泣き始める後輩
あぁ2年前の私みたいだな
豊香は懐かしさとともに
スっと心が軽くなったような気がした
そして手に持っていた
カロリーメイトを開けると
1本を後輩に差し出した
「とりあえず、ここに座って一緒に食べよう?」
西日が差し込む時間
2人の少女の笑い声が
中庭に響き渡っていた