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「はぁ・・・今日もデク君に話しかけられなかった。」
文化教室棟 7階
非常階段踊り場にて
普通科 1-C 美術部
東雲 豊香は
踊り場の手すりに両手をつくと
深い溜息をつきながらうなだれていた
その原因は片思い相手
1-Aの緑谷出久に話しかけられなかったからだ
豊香が緑谷の事を好きになったのは
体育祭がきっかけだった
早々に出番が終わってしまった豊香
ボーッと試合を観戦していたが
最終種目 トーナメント
第1回戦、第2回戦での緑谷の気迫に
心を震わせる思いを抱き
友達の制止を振り切り
保健室まで会いに行ったのだ
だが向かっている途中
他のクラスの人とぶつかり
足を捻挫して困っていると
偶然、治療を終えた緑谷と遭遇した
緑谷は自身の怪我や
周りの目を気にすること無く
豊香をお姫様抱っこすると
保健室まで送っていったのだった
それから豊香は
緑谷の虜になった
だがヒーロー科と普通科
教室も違ければ
授業も被らない
辛うじて接点があるとすれば
登下校とランチタイムの食堂だけだった
だが夏休みが終わると
ヒーロー科の合宿で起きた事件がきっかけで
雄英高校は全寮制となり
今では食堂だけが接点の場となった
「はぁ・・・もっと早くに声かければよかった。せめて、共通の知人さえいれば・・・。」
本日二度目のため息
豊香はくるりと向きを変えると
背中を手すりにつけたまま
ズルズルと座り込み膝を立てると
そこに頭をくっつけた
「・・・具合悪いの?大ジョウbuッッッ!?!?!?!?・・・。」
人が来るはずないと思い
非常階段の踊り場にいた豊香だったが
急に人の声が聞こえ
慌てて頭をあげる
すると物凄い衝撃に襲われ
自身の頭を抑える
そして今度はぶつからないように
ゆっくりと上を確認してから向いた
そこには後ろ姿ではあったが
同じように強い衝撃のせいで
顎を押える緑谷の姿があった
「ご、ごご、ご、ごめん!!あの、僕・・・ミッドナイトに、し、し資料た、たの、たのまれて、で、あ、うん、こっちに来たことなくて、通って、み、み、みようかなっ、て、思ったら、君が・・・いたか・・・ら・・・。あ、ぼ、僕、み、み、緑谷・・・出久!!って・・・い、言います。」
緑谷は急いで豊香の方に向くと
ぶつかった謝罪と
なぜか自身の経緯と自己紹介をしてきた
豊香はぷッと笑うと
自身も自己紹介をする
「東雲さんだね・・・あれ?」
緑谷は豊香の名前を聞くと首を傾げ
そして思い出したように話す
「!・・・東雲さん、体育祭の時に足を捻挫してるよね?お、覚えてないと思うけど・・・運んだの・・・その・・・僕なん・・・だ・・・よ・・・ね・・・。」
緑谷の声は段々と小さくなり
最後の頃には聞き取るのもやっとなぐらい
小さな声でボソボソとしゃべる
豊香は今こうして
緑谷と話していることにも驚いたが
何より体育祭での出会いを
覚えていてくれていたことに
とても驚き感動した
そして緑谷の両手を取ると
目を見て興奮気味に話し始めた
「忘れるはずない!!覚えてるよ!自分も怪我をしているのに、そんなの顧みず、私を保健室まで連れてってくれたこと!それにあの時、私は熱い思いで試合をしていたデク君に会いに行ったんだよ!忘れない、デク君のこと!本当にありがとう!」
豊香は自身の気持ちが
高ぶったまま
緑谷に思いの丈をぶちまける
そして気づいてしまった
この何ヶ月間
緑谷を見る度に
クラスメイトが緑谷を
デク君と呼んでいて
豊香自身も心の中でデク君と呼び
それを口にしてしまったことを
「あ、い、いや、デ・・・緑谷君の、こ、こ、事はわ、忘れ、な、ないよ。あっ!これ!記念に!ね!ね!ね!」
豊香は緑谷からの返事を聞くことなく
たまたまポケットに入っていた
カロリーメイトを緑谷の胸に押し付けてきた
「え?か、カロリーメイト?あっ、だ、ダメだよ、貰えないよ。貰う理由がないし・・・ぶつかったのは僕なんだから、逆に僕が何かあげないと!!」
双方共にテンパっているせいか
話がおかしな方向にむかっている
一生懸命ポケットの中を探す緑谷
緑谷の胸に力いっぱいカロリーメイトを
押し付ける豊香
お互いに一歩も引かない両者だったが
緑谷が何か思いついたように動きを止めると
豊香からカロリーメイトを受け取り
箱と袋を開けて2本とも取り出すと
そのうちの1本を豊香に差し出した
「ごめん、僕、何も持ってなくて・・・でも、今、東雲さんにカロリーメイトもらったから・・・その・・・半分こしない?もらったものを返すようで・・・悪いんだけど・・・。」
頭をフル回転させた緑谷は
ほんのりピンクがかった頬をしていた
豊香は自身のあげたものではあるが
緑谷からのプレゼントということで
高鳴る鼓動を抑え
震える手でカロリーメイトを受け取った
その場で両者無言で
カロリーメイトを一口食べる
豊香には甘いはずのメイプル味が
ほんのり甘酸っぱく感じていた
「あの・・・デ・・・緑谷君「デクでいいよ。」」
言い直した豊香に
緑谷は優しく伝える
「デ、デク君・・・その・・・よかったら・・・お、おお、お友達・・・に・・・なってもらえないかな?友達・・・に・・・なってくれる・・・なら・・・豊香って・・・呼んでもらいたい・・・。」
豊香は精一杯の思いの丈を伝えると
緑谷は優しく微笑み片手を差し出した
「僕で・・・良ければ、こちらこそ、よろしく・・・豊香さん・・・///」
豊香は差し出された手を握り返し
優しい温もりをいつまでも噛みしめていた