92、暴君

─ んぐｯｯ！？ ─

















"なぜだ？人質は全員、確認したのに"



豊香は少し前にやりとしたことを思い出す

数十分前に紙織にお願いして
人質達のプロフィールを
見てもらっていた

どの人質達も怪しい点はなく
目の前にいる女性スタッフも
例外ではなかった


頭の中で何度も思い返してみるものの
目の前で起きていることを
ただただ受け入れるしか無かった








｢はぁぁぁ。この服、動きづらいのよねぇ〜。クロークにいい服ないのかしら？｣


Missガーベラ達が出ていった後
部屋の中は緊張感が溢れていたが
女性スタッフに扮していた犯人は
そんなことはお構いなく
胸元をはだけ
バタバタと仰ぎ始めた


｢おい！！や、やめろよ、それ！！｣


小太りの男が
顔を真っ赤にして
女性スタッフに怒り始めた

女性スタッフは
不快感を露にすと
目の前のテーブルを蹴り
うぜぇと言いながら
当たりを物色する

すると視界の端に
豊香が入ると
ニタァと笑い
足早に近づいてきて
目の前で座った





｢･･･ねぇ、あんたのその服、あたしに頂戴？それ、高級ブティック街にある服でしょ？1度でいいから、そういうの着たかったんだよね〜♡｣





女性スタッフは
ニヤニヤしながら
豊香を上から下まで
舐めまわすように見ると
自身の腕を突き出し
豊香の首を絞める


｢んぐｯｯ！？･･･ｯｯ･･･かｯｯ･･･ぁｯｯ･･･！！｣


抵抗することも出来ず
豊香の首はどんどん閉まっていく

突然のことに
隣にいた紙織は顔が青ざめ
口をパクパクと上下に開閉させる

爆豪は目を見開き
そして手首がちぎれるのではないかと
思うぐらい
手首をワイヤーに擦り付け
大声で怒鳴り散らした


酸素が薄くなってきたのか
豊香の意識が段々と
朦朧としてきた矢先
女性スタッフは
パッと手を離した


急に大量の酸素が
肺に入った豊香は
その場に崩れ落ち
ゲホゲホと咳き込んだ


｢うっそー笑今殺したら、お金減っちゃうじゃんー！それに、アタシの肌、クズに見せたくないし。まぁ見せたい相手はいるけど笑･･･さ、着替えに行こう？早くして？｣


見せたい相手と言う瞬間
舌なめずりをしながら
横目で爆豪を見る女性スタッフ

そしてまるで友達と
これからショッピングを楽しむかのように
軽い足取りで歩き始めると
犯人達にしっかり他の人質を見ているように
釘を刺す



そしてやっと意識が正常になり
ヨタヨタと立ち上がった豊香に対して
メイク道具も持ってきてと伝えると
豊香の腕のワイヤーを外し
自身はスタスタとトイレへと
消えていった

豊香は指示されるがままに
自身のバックを持つと
おぼつかない足取りで
トイレへと向かおうとする

だが途中バランスを崩し
爆豪にぶつかってしまう


｢豊香！！｣


身体は前に出るものの
腕を縛られてるため
手が出なかった爆豪

ぶつかった豊香は
爆豪の身体を支えに
ゆっくり起き上がると
耳元で何かを囁き
トイレへと向かった






豊香達がトイレに行ったあと
爆豪は犯人達に悟られないように
密かに動き始める

女性スタッフがいなくなった事で
緊張の糸が切れたのか
愚痴を言い合う犯人達を横目に
人質の男性に近づき
なにやら耳打ちをする爆豪

そして紙織にも同じように耳打ちをすると
犯人達に向かって話し始めた


｢おい･･･トイレに行きたい。｣


爆豪は感情を抑え
極力端的に物事を伝えた

すると紙織や人質の男性も
口々にトイレに行きたいと言うと
犯人達は愚痴の言い合いをやめ
顔を見合わせると
小太りの男がはぁとため息をついて
3人を連れてトイレに行った