75、購入

─ 経費では落とせないので ─











｢ふぁ〜。疲れた･･･。｣


豊香は案内された客間に入ると
すぐさまヒールを脱ぎ捨て
ベットに倒れ込んだ



あれから紙織の家に着くと
メイド達によって
先程購入したドレスとは
違うドレスと
少し高めのヒールに
着替えさせられた豊香


そしてダイニングに通されると
紙織と紙織の父であり
今回の依頼人である
書記 一(ﾊｼﾞﾒ)氏と共に
きっちりとした
フォークとナイフでの
ディナーを堪能させられた






｢失礼しまーす。千代でございます。｣



ノックとともに
聞こえる千代の声


豊香は返事をすると
すぐさまベットから起き上がり
散らかったヒールを履いた



｢本日はお疲れ様でしたー！明日のご予定ですが、AM7時からダイニングで朝食。AM9時より本日購入したドレスを使ってドレスアップチェック。PM1時より言葉・動作のマナーチェック。PM5時よりマリンフォールホテルにて書記家が経営しております出版社のパーティに参加となっております。なお、僭越ながら私がドレスアップ、マナーチェックと担当させて頂きます。至らぬ点もあるかと思いますが、何卒よろしくお願い致しますー！｣


長い台詞を
よく噛まずに話せるなぁと
内容ではない所に
注目している豊香

だが豊香は
妙な違和感に襲われた



｢･･･ん？俺はボディーガードでここに居るはずですが･･･。｣



まるで豊香の予定のように
話す千代に
豊香は確認のため
聞いてみた


｢はい、お嬢様の予定でもありますが、マナーチェックは疾風様にもご参加頂きます。パーティには疾風様はボディーガードも兼ねて参加して頂きますので、一通りのマナーが出来るかどうか確認させて頂く予定です。｣



そういうことか

豊香は先程購入したドレスや
マナーチェックは
全てパーティのためだったのだと
理解出来た


｢･･･え？俺、女性として参加ですか？｣


納得して
終わりそうだったが
豊香は肝心なことに
気づいた


あくまでも東雲 豊である今
女性として参加はまずい

ましてや知り合いに遭遇した場合
男として転んでも
女として転んでも
大惨事である


今後の生活に支障をきたす
恐れがあるとして
豊香は千代に直談判した


｢大丈夫ですよー！疾風様にはドレスに似合うウイッグをご用意しました。髪型ひとつで印象もガラッと変わりますよー！それに来場者名簿にもご学友の方のお名前も無かったですし！｣


安心して女性になってくださいと
自身の胸を叩く千代

それにと一言
嫌な言葉を発した


｢ドレス等々買っちゃいましたよー？もし使わないってなると、経費では落とせないので、疾風様に買取してもらうようになってしまうかもしれないですよー？｣



豊香は
自身の背中が凍るような
感覚に襲われた

ドレスやバッグ、ヒールなど
ある程度自分で選ぶも
紙織に一部押されたこともあり
それなりの値段がしていた


万が一買取などという話になると
とてもでは無いが
バイトもしていない豊香には
今すぐは払えず
何十年先まで
返済していくようになる


豊香が渋々了承すると
千代はニコッと笑い
おやすみなさいと言って
部屋を出ていった



｢あぁ･･･とんでもない所に来てしまったようだ･･･。｣



豊香は履き直したヒールを
再度脱ぎ捨て
ドレスを脱ぎながら
バスルームに消えていった