1
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次の週から始まった合宿は目まぐるしい速さで進んでいった。
毎日の練習が刺激的で、日々たくさんのことを学んで、成長していることを自分でも手に取るようにわかるのでとても楽しい。
もちろん辛いこともたくさんあった。今まで以上に自分と、自分の病とも向き合わなければならないし、テニスとの自分の関わり方についても、今まで考えてこなかったわけではないが、見つめ直さざるを得なかった。
ただ、この先に何が待っているかを考えると、とてもワクワクした。どんなに辛くても、最後には前向きな考えになるのが気持ちいい。
彼女からのメールは毎日夜の7時ごろにきた。図書館で一緒にとっていた休憩時間のタイミングで送って来ているようだった。
内容も、その日の天気や海の様子、学校での出来事、ご家族のことなどほんの些細なことばかりだった。彼女から勉強のことについて送られてくることがないのをみると、息抜きとして活用していることがわかる。そしてそんな風に彼女の役に立てているのがとても嬉しかった。
俺も四六時中テニスのことを考えてばかりなので、こうして彼女とのメールのやり取りをしていると心が休まるし、休んだ後の方がよりテニスに打ち込みやすく感じた。何事もバランスなんだろうな。
「幸村くんはこの時間いつもメールをしてるけど、誰とメールをしているの?」
そう質問して来たのは同室の不二くんだった。
この合宿は他校の生徒と合同で行っていて、部屋の分け方も全てまぜこぜになっている。
「それ、俺も気になっててん。」
そう関西弁で話しかけて来たのは同じく同室の白石くんだ。
どちらも同じ3年生で、趣味が似ていることもあり、部屋では非常に和やかに過ごせている。周りのみんなには和やかと認識されていないのがとても不思議なくらいに。
「ああ、これは...そうだな、今は友達、かな。」
「ほー付きおうてるわけではないんやな。でもそんなに相手もマメに返してるっちゅーことは、その子も幸村くんのこと好きなんやろなあ。」
白石くんがにこやかに答える。
「ふふ、だといいんだけどな。」
「相手はどんな子なの?」
不二くんがさらに質問を重ねてきた。
「そうだね、素直で可愛い子だよ。」
「幸村くんも大概素直やけど、その幸村くんがそう言うっちゅーことはかなり素直なんやろうなあ。でも意外やな、幸村くんが好きな子ってキレーな年上のおねーさんみたいなタイプかと思ってたわ。」
「見た目も幼いんだけど、歳は上の人だよ。今高校3年生。」
「へえーさすが幸村くんやな。」
白石くんが椅子に寄りかかりながら感嘆するように言う。
「ふふ、俺が中3っていうことは伝えてないけどね。」
そう答えると「マジでか。」と言う白石くんと、うっすらと目が開く不二くんがいた。
「…本来なら歳なんて気にしなくてもいいんだし、それが足枷になるなら伝えなくてもいいのかもね。それに幸村くんなら後からでもその辺上手に伝えられそうだし。」
一呼吸置いて不二くんが答える。表情は先ほどのにこやかな笑顔に戻っていた。
「まあそやなあ。でも相手は幸村くんのこと何歳かとおもてるんやろな。」
「多分同い年と思ってるんじゃないかな。」
不二くんと白石くんがすかさず、なんで?という表情になる。
確かになぜ彼女は勘違いしたのか、自分でも考えたことがなかった。何か高3と思われる要素があったのか…最初に会った時はぶつかっただけだし、2回目に会った時は確か…
そこまで考えてふふ、とこみ上げてきた笑いをおしとどめられずに吹き出す。
ますます二人がきょとんとするので、こう答えた。
「それは…最初に会った時真田と一緒だったからかな…」
そこまで伝えると二人とも一緒に笑い始めた。
「それ聞いたら、次真田くんにおうた時笑ってまうやん!」
そういう白石くんはだいぶツボにはまってしまったらしくヒーヒー言っていた。
不二くんはというとふるふると震えながら笑っていた。
こんな風にテニス以外のことも話せるのがこのメンバーの魅力なのかもしれない。
そのあとも色々話したり、逆に二人の話を聞いたり和気藹々とした雰囲気の中で過ごす。そして好きな人に送るなら、なんの花を贈る?という話が一番盛り上がったのは言うまでもない。もちろん、不二くんはサボテン、白石くんは毒草の一種をチョイスしていたけれど。どちらも棘があったり毒があるのに花言葉が美しくて、少しバラの花に似てて帰ったら育ててみたいと思った。
***
そうして12月、U17ワールドカップが終わると共に遂に日本に帰ることとなった。
毎日テニス漬けだった日々が終わると思うと少し寂しいような悲しいような気分だったが、今回の合宿で見えた課題をこれからどう向き合って行くかを考えるとそれはそれで楽しみにも感じた。
そしてずっとメールをしていた彼女に会うのが待ち遠しかった。
今も彼女はあの図書館で一人で勉強しているのだろうか。
「で、幸村くんは彼女になんの花を贈るんだい?」
メルボルンの空港での待合スペースで不二くんが声をかけてきた。
遠くの方でさっきまでのんびりスマホを眺めていた白石くんも、気づくと隣で聞いていた。
あの夜は結局なんの花を贈るか答えずに寝てしまった。
贈る相手が定まってるから答えるのは気恥ずかしいだろう?
「不二くんは緋牡丹、白石くんはイソトマだったよね。どちらも可愛らしい花をつけるから俺も育ててみようと思って。」
少し悪あがきを試みて話をそらそうとする。
「イソトマの紫で可愛らしい花をつけるから、おすすめやで。ただし食べたり素手で触ったりはせんといてな。」
「それで、なんの花だい?」
どうやら不二くんは答えるまで返してくれないようだ。
「そうだな…ピンクの薔薇を5本、かな…」
答えるとほーという表情で白石くんが答える。
「ピンクの薔薇か…ベタやけどめっちゃ喜びそうやな。」
「薔薇は愛と美の象徴だしね。ピンクってことは可愛い人、か。いいね、彼女っぽい。」
二人はそう口々に言ってすっきりとした表情になった。
そう、ピンクと言っても濃いピンクの薔薇を5本渡したい。
出会えたことの感謝と俺のこの気持ちを込めて。
メルボルンの夏の日差しが、今のすがすがしい気持ちを代弁しているようだった。
どうか彼女にこの気持ちを伝えられる日がきますようにと、燦々とてる太陽に最後に願った。
毎日の練習が刺激的で、日々たくさんのことを学んで、成長していることを自分でも手に取るようにわかるのでとても楽しい。
もちろん辛いこともたくさんあった。今まで以上に自分と、自分の病とも向き合わなければならないし、テニスとの自分の関わり方についても、今まで考えてこなかったわけではないが、見つめ直さざるを得なかった。
ただ、この先に何が待っているかを考えると、とてもワクワクした。どんなに辛くても、最後には前向きな考えになるのが気持ちいい。
彼女からのメールは毎日夜の7時ごろにきた。図書館で一緒にとっていた休憩時間のタイミングで送って来ているようだった。
内容も、その日の天気や海の様子、学校での出来事、ご家族のことなどほんの些細なことばかりだった。彼女から勉強のことについて送られてくることがないのをみると、息抜きとして活用していることがわかる。そしてそんな風に彼女の役に立てているのがとても嬉しかった。
俺も四六時中テニスのことを考えてばかりなので、こうして彼女とのメールのやり取りをしていると心が休まるし、休んだ後の方がよりテニスに打ち込みやすく感じた。何事もバランスなんだろうな。
「幸村くんはこの時間いつもメールをしてるけど、誰とメールをしているの?」
そう質問して来たのは同室の不二くんだった。
この合宿は他校の生徒と合同で行っていて、部屋の分け方も全てまぜこぜになっている。
「それ、俺も気になっててん。」
そう関西弁で話しかけて来たのは同じく同室の白石くんだ。
どちらも同じ3年生で、趣味が似ていることもあり、部屋では非常に和やかに過ごせている。周りのみんなには和やかと認識されていないのがとても不思議なくらいに。
「ああ、これは...そうだな、今は友達、かな。」
「ほー付きおうてるわけではないんやな。でもそんなに相手もマメに返してるっちゅーことは、その子も幸村くんのこと好きなんやろなあ。」
白石くんがにこやかに答える。
「ふふ、だといいんだけどな。」
「相手はどんな子なの?」
不二くんがさらに質問を重ねてきた。
「そうだね、素直で可愛い子だよ。」
「幸村くんも大概素直やけど、その幸村くんがそう言うっちゅーことはかなり素直なんやろうなあ。でも意外やな、幸村くんが好きな子ってキレーな年上のおねーさんみたいなタイプかと思ってたわ。」
「見た目も幼いんだけど、歳は上の人だよ。今高校3年生。」
「へえーさすが幸村くんやな。」
白石くんが椅子に寄りかかりながら感嘆するように言う。
「ふふ、俺が中3っていうことは伝えてないけどね。」
そう答えると「マジでか。」と言う白石くんと、うっすらと目が開く不二くんがいた。
「…本来なら歳なんて気にしなくてもいいんだし、それが足枷になるなら伝えなくてもいいのかもね。それに幸村くんなら後からでもその辺上手に伝えられそうだし。」
一呼吸置いて不二くんが答える。表情は先ほどのにこやかな笑顔に戻っていた。
「まあそやなあ。でも相手は幸村くんのこと何歳かとおもてるんやろな。」
「多分同い年と思ってるんじゃないかな。」
不二くんと白石くんがすかさず、なんで?という表情になる。
確かになぜ彼女は勘違いしたのか、自分でも考えたことがなかった。何か高3と思われる要素があったのか…最初に会った時はぶつかっただけだし、2回目に会った時は確か…
そこまで考えてふふ、とこみ上げてきた笑いをおしとどめられずに吹き出す。
ますます二人がきょとんとするので、こう答えた。
「それは…最初に会った時真田と一緒だったからかな…」
そこまで伝えると二人とも一緒に笑い始めた。
「それ聞いたら、次真田くんにおうた時笑ってまうやん!」
そういう白石くんはだいぶツボにはまってしまったらしくヒーヒー言っていた。
不二くんはというとふるふると震えながら笑っていた。
こんな風にテニス以外のことも話せるのがこのメンバーの魅力なのかもしれない。
そのあとも色々話したり、逆に二人の話を聞いたり和気藹々とした雰囲気の中で過ごす。そして好きな人に送るなら、なんの花を贈る?という話が一番盛り上がったのは言うまでもない。もちろん、不二くんはサボテン、白石くんは毒草の一種をチョイスしていたけれど。どちらも棘があったり毒があるのに花言葉が美しくて、少しバラの花に似てて帰ったら育ててみたいと思った。
***
そうして12月、U17ワールドカップが終わると共に遂に日本に帰ることとなった。
毎日テニス漬けだった日々が終わると思うと少し寂しいような悲しいような気分だったが、今回の合宿で見えた課題をこれからどう向き合って行くかを考えるとそれはそれで楽しみにも感じた。
そしてずっとメールをしていた彼女に会うのが待ち遠しかった。
今も彼女はあの図書館で一人で勉強しているのだろうか。
「で、幸村くんは彼女になんの花を贈るんだい?」
メルボルンの空港での待合スペースで不二くんが声をかけてきた。
遠くの方でさっきまでのんびりスマホを眺めていた白石くんも、気づくと隣で聞いていた。
あの夜は結局なんの花を贈るか答えずに寝てしまった。
贈る相手が定まってるから答えるのは気恥ずかしいだろう?
「不二くんは緋牡丹、白石くんはイソトマだったよね。どちらも可愛らしい花をつけるから俺も育ててみようと思って。」
少し悪あがきを試みて話をそらそうとする。
「イソトマの紫で可愛らしい花をつけるから、おすすめやで。ただし食べたり素手で触ったりはせんといてな。」
「それで、なんの花だい?」
どうやら不二くんは答えるまで返してくれないようだ。
「そうだな…ピンクの薔薇を5本、かな…」
答えるとほーという表情で白石くんが答える。
「ピンクの薔薇か…ベタやけどめっちゃ喜びそうやな。」
「薔薇は愛と美の象徴だしね。ピンクってことは可愛い人、か。いいね、彼女っぽい。」
二人はそう口々に言ってすっきりとした表情になった。
そう、ピンクと言っても濃いピンクの薔薇を5本渡したい。
出会えたことの感謝と俺のこの気持ちを込めて。
メルボルンの夏の日差しが、今のすがすがしい気持ちを代弁しているようだった。
どうか彼女にこの気持ちを伝えられる日がきますようにと、燦々とてる太陽に最後に願った。