1
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
10月最終週。来週からはU15合宿が始まる。
この2週間はあまりにも楽しくて飛ぶような速さで過ぎていった。
全国を目指していた時のように、いやそれ以上にテニスの練習も取り組みやすかった。体が軽くてどんどん動けるのが不思議なくらいだった。
図書館では、合宿前の課題があっという間に片付いてしまい、今はその日の授業の復習と、それも終わってしまった時はボードレールの詩集を読んだりして過ごしている。
相変わらず彼女との距離は変わらない。
というより、変えないことにしたという方が正しいだろうか。
やはり今は受験勉強に集中させてあげたいと思ったからだ。夢や目標を追いかけてる人の邪魔は絶対にしたくないからね。
ただ、今日は合宿前に図書館に行く最終日なので、当分会えないことと、応援していることは伝えようと思った。
ー…
「精市はそれでいいのか?」
蓮二に聞かれて、「ああ。」と答える。
「俺が理由で彼女の邪魔をしたくないんだ。」
そう告げると蓮二は少し考えた様子をとった。何かを言おうか、言わまいか悩んでいるようだった。
「…そうか。それでお互いが納得しているのであればいいんじゃないか?」
お互いに納得?
その言葉が気になったが、すでに予鈴が鳴った後だったので、詳しくは聞けず仕舞いだった。
ー…
そして図書館の終了時刻になり、いつも通り二人で連れだった自習室をでた。
「今日も疲れたーーー!」
彼女が伸びをしながら答える。
「今日もよく集中してたね。」
「うん!最近は前にも増して集中しやすくて。幸村くんと休憩してるからかな。」
相変わらず可愛いことをさらっというものだから、本当に困る。最近は彼女に触れてみたくなる衝動にかられるものだから、抑えるのに精一杯だ。
「ふふ、そう?それなら良かった。」
なるべく理性的に保つべく、いつもの笑顔で返す。
うまくいってるだろうか?
「そうだ、玲奈、来週から何だけど合宿に行くから図書館には顔を出せなくなるんだ。」
なるべく普段の会話に混ぜるように彼女に合宿のことを伝える。
するとさっきまで笑顔だった彼女の顔が一瞬凍りつくが、すぐにいつもの表情に戻った。
「そういえば前にも言ってたよねー!すごい合宿なんだよね、応援してる!どれくらい行くの?」
「ああ、1ヶ月くらいかな?もしかしたら世界大会にも行くかもしれないから、そうすると二ヶ月かな。」
そう答えて隣にいるはずの彼女を見ると、そこにはおらず、後方で立ち止まったようだった。
「玲奈?」
急いで引き返して彼女の元に行くと、とても寂しそうな表情でこちらを見上げて言った。
「…そんなにいなくなっちゃうの?」
こんな表情の彼女はみたことないし、そもそもこんな風になることは想定していなかった。「そっか、頑張ってね!私も頑張る!」と言われるくらいにしか考えてなかった。
「あ…困らせるようなこと言ってごめんね。早く帰ろう。」
そう言って彼女がすかさず歩き出すが、表情は暗いままだ。
「え…ちょっと、待って、」
そう言葉にするよりも早く、俺は彼女の手をとっていた。
振り返った彼女は今にも泣きそうだった。
その瞬間、もういろんなものがどうでもよくなって、繋いでいた手を引き抱き寄せる。ふわりと甘い香りが鼻をかすめた。
「幸村くん、ごめん…」
そう謝りながらうずくまる彼女の背をポンポンとなだめる。おでこを寄せるように俺の中で俯く彼女は思ってた以上に小さくて、愛しかった。
「一緒にいるのを当たり前に感じて…寂しくなっちゃった…」
「…いきなり伝えてごめん。そんな風に思ってもらえると思わなかったんだ。」
「ううん、私も、合宿行くの知ってたのに…本当はずっと、合宿の期間を聞くのが怖かったんだ…週を重ねるごとに怖くなって聞けなくなって…」
彼女はふぅ、と一息つき、俺から一歩だけ下がると、まっすぐに視線を合わせる。
「私、テニスを一生懸命やってる幸村くんの、その姿勢がすごく好きなの。だから合宿に行くのとっても応援してる。でも、でもこれからも…また一緒に会って話したりしたい…だから、終わったらまた会えませんか。」
あまりにも真剣に言うものだから、俺はつい、ふふ、と笑いがこぼれてしまった。
「もちろん、喜んで会いに行くよ。それに、合宿中もメールでの連絡くらいなら取れるよ。」
そう言うや否や今度はかーっと顔が赤くなっていく。
「そっか、スマホで連絡すればよかったね。根性の別れかと思っちゃった。」
照れ臭そうに答えて微笑んだ。
ころころと忙しく表情を変える彼女に自然とこちらも笑顔になる。
「これでお別れにするのは俺だって嫌だよ。…最後まで受験を応援したいし、もっと玲奈のことを知りたい。」
そう真剣に答えると、彼女はふわっと笑って「ありがとう。」と答えた。
***
その後連絡先を交換して、いつもの分かれ道までくると彼女は普段みせるはにかんだ笑顔で言った。
「またね。私幸村くんのこと応援してるから!」
「またね玲奈。俺も応援してる。」
別れを告げて、お互い別々の方向に歩き出す。でも足取りは軽く、少し冷たい夜風は火照った頰に心地よかった。
応援しあえる相手がいて、それが自分の好きな人というのはなんて幸せなことなのだろう。今まで感じたことのない気持ちを噛み締めながら、来週からの合宿に対して希望で胸が膨らむ。
道に咲く金木犀の香りと彼女の残り香が甘く柔らかに香る、気持ちの良い夜だった。
この2週間はあまりにも楽しくて飛ぶような速さで過ぎていった。
全国を目指していた時のように、いやそれ以上にテニスの練習も取り組みやすかった。体が軽くてどんどん動けるのが不思議なくらいだった。
図書館では、合宿前の課題があっという間に片付いてしまい、今はその日の授業の復習と、それも終わってしまった時はボードレールの詩集を読んだりして過ごしている。
相変わらず彼女との距離は変わらない。
というより、変えないことにしたという方が正しいだろうか。
やはり今は受験勉強に集中させてあげたいと思ったからだ。夢や目標を追いかけてる人の邪魔は絶対にしたくないからね。
ただ、今日は合宿前に図書館に行く最終日なので、当分会えないことと、応援していることは伝えようと思った。
ー…
「精市はそれでいいのか?」
蓮二に聞かれて、「ああ。」と答える。
「俺が理由で彼女の邪魔をしたくないんだ。」
そう告げると蓮二は少し考えた様子をとった。何かを言おうか、言わまいか悩んでいるようだった。
「…そうか。それでお互いが納得しているのであればいいんじゃないか?」
お互いに納得?
その言葉が気になったが、すでに予鈴が鳴った後だったので、詳しくは聞けず仕舞いだった。
ー…
そして図書館の終了時刻になり、いつも通り二人で連れだった自習室をでた。
「今日も疲れたーーー!」
彼女が伸びをしながら答える。
「今日もよく集中してたね。」
「うん!最近は前にも増して集中しやすくて。幸村くんと休憩してるからかな。」
相変わらず可愛いことをさらっというものだから、本当に困る。最近は彼女に触れてみたくなる衝動にかられるものだから、抑えるのに精一杯だ。
「ふふ、そう?それなら良かった。」
なるべく理性的に保つべく、いつもの笑顔で返す。
うまくいってるだろうか?
「そうだ、玲奈、来週から何だけど合宿に行くから図書館には顔を出せなくなるんだ。」
なるべく普段の会話に混ぜるように彼女に合宿のことを伝える。
するとさっきまで笑顔だった彼女の顔が一瞬凍りつくが、すぐにいつもの表情に戻った。
「そういえば前にも言ってたよねー!すごい合宿なんだよね、応援してる!どれくらい行くの?」
「ああ、1ヶ月くらいかな?もしかしたら世界大会にも行くかもしれないから、そうすると二ヶ月かな。」
そう答えて隣にいるはずの彼女を見ると、そこにはおらず、後方で立ち止まったようだった。
「玲奈?」
急いで引き返して彼女の元に行くと、とても寂しそうな表情でこちらを見上げて言った。
「…そんなにいなくなっちゃうの?」
こんな表情の彼女はみたことないし、そもそもこんな風になることは想定していなかった。「そっか、頑張ってね!私も頑張る!」と言われるくらいにしか考えてなかった。
「あ…困らせるようなこと言ってごめんね。早く帰ろう。」
そう言って彼女がすかさず歩き出すが、表情は暗いままだ。
「え…ちょっと、待って、」
そう言葉にするよりも早く、俺は彼女の手をとっていた。
振り返った彼女は今にも泣きそうだった。
その瞬間、もういろんなものがどうでもよくなって、繋いでいた手を引き抱き寄せる。ふわりと甘い香りが鼻をかすめた。
「幸村くん、ごめん…」
そう謝りながらうずくまる彼女の背をポンポンとなだめる。おでこを寄せるように俺の中で俯く彼女は思ってた以上に小さくて、愛しかった。
「一緒にいるのを当たり前に感じて…寂しくなっちゃった…」
「…いきなり伝えてごめん。そんな風に思ってもらえると思わなかったんだ。」
「ううん、私も、合宿行くの知ってたのに…本当はずっと、合宿の期間を聞くのが怖かったんだ…週を重ねるごとに怖くなって聞けなくなって…」
彼女はふぅ、と一息つき、俺から一歩だけ下がると、まっすぐに視線を合わせる。
「私、テニスを一生懸命やってる幸村くんの、その姿勢がすごく好きなの。だから合宿に行くのとっても応援してる。でも、でもこれからも…また一緒に会って話したりしたい…だから、終わったらまた会えませんか。」
あまりにも真剣に言うものだから、俺はつい、ふふ、と笑いがこぼれてしまった。
「もちろん、喜んで会いに行くよ。それに、合宿中もメールでの連絡くらいなら取れるよ。」
そう言うや否や今度はかーっと顔が赤くなっていく。
「そっか、スマホで連絡すればよかったね。根性の別れかと思っちゃった。」
照れ臭そうに答えて微笑んだ。
ころころと忙しく表情を変える彼女に自然とこちらも笑顔になる。
「これでお別れにするのは俺だって嫌だよ。…最後まで受験を応援したいし、もっと玲奈のことを知りたい。」
そう真剣に答えると、彼女はふわっと笑って「ありがとう。」と答えた。
***
その後連絡先を交換して、いつもの分かれ道までくると彼女は普段みせるはにかんだ笑顔で言った。
「またね。私幸村くんのこと応援してるから!」
「またね玲奈。俺も応援してる。」
別れを告げて、お互い別々の方向に歩き出す。でも足取りは軽く、少し冷たい夜風は火照った頰に心地よかった。
応援しあえる相手がいて、それが自分の好きな人というのはなんて幸せなことなのだろう。今まで感じたことのない気持ちを噛み締めながら、来週からの合宿に対して希望で胸が膨らむ。
道に咲く金木犀の香りと彼女の残り香が甘く柔らかに香る、気持ちの良い夜だった。