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「例の子には会えたか?」
朝練後の授業始業前の15分間、もはや蓮二と話すのがお決まりになっていた。
「早速会えたよ。ありがとう蓮二。」
蓮二はそうか、特に表情を変えずに言う。
昨日図書館で会えるのはわかっていたかのようだった。
「どうして図書館で会えるとわかったんだい?」
「…この前、落し物の筆箱を見ていただろう?中には学生の割にHBやBの鉛筆が数本入っていたのと、わざわざ筆箱にお守りをつけていたことから受験生だと思った。一緒に白菊女学院のエンブレムの入ったペンがあったことから、彼女が塾に通っていないことがわかったと言うわけだ。あそこの学校は学校で受験対策をすることで有名だからな。」
「なるほどお見通しだったってことなんだね。」
「まあ90%くらいの確率だったがな。それで会えなければ学校のことを伝えようと思ったが、女子校に行くのは抵抗があるだろう?」
「ふふ、そうだね。それは勘弁してほしいや。」
そのあとも少し談笑をしていると、予鈴がなる。
ふと外を見ると、花壇にはコスモスが風に気持ちよさそうに揺られていた。なんとなく今の自分の気持ちに似ているように感じた。
***
あの日以降、俺はなんとなく図書館を訪れるようになっていた。と言っても練習が早めに終わる水曜日と金曜日だけだけど。U17合宿までの課題をこなすと言う名目の元に通い出したわけだが、本当はまた彼女、と話して確認したいことがあるからだ。
彼女を見ている時に感じる不思議な心地よさがどこから来るのか、自分でもまだ気づけないでいるのは、とてもむず痒かった。
今日も練習終わりに図書館の自習室へ行くと、いつもの席に彼女が座り懸命に問題集を解いている。その姿はとても真剣で、邪魔は絶対にしたくはなかった。
彼女に気づかれないようにそっと斜め前の席に腰を下ろし、カバンから静かに課題をとりだす。ちらりと彼女の方を見るが、どうやらこちらには気づいていないようだ。
胸をなでおろし、早速課題に向き合う。
彼女のピリッとした空気は俺までも勉強をやる気にさせた。
***
「幸村くん」
彼女の小声が聞こえる。なんだか耳がくすぐったくなる声だった。
「私休憩するし、これあげる。」
差し出された手にはイチゴの飴があった。
時計を見ると、あれから1時間半も経っていた。通りで疲れているわけだ。
「俺も少し休憩しようかな。」
「やった!少し話そ。」
そう言って席を立ち、この前も利用した休憩スペースに向かう。
「どうしても2時間以上は机にいられなくて。」
ベンチに腰掛け気持ちよさそうに伸びをする彼女は少し疲れているようだった。
「人の集中力は1時間半以上は続かないって言うしね。それくらいで休憩するのが理想的なんじゃないかな?」
「そうかなー。全国の受験生がそうなら安心なんだけどな。しかも明後日は推薦の合格発表なんだ。だから余計に疲れちゃって。」
なるほど、目の下のクマはそれが理由か。
「推薦受けてたんだ。それじゃあ集中し辛いね。」
「そうなの。受かってるといいな…」
そう答える横顔は切実だった。
「そんなに行きたい学校なの?」
なんとなく質問して見ると、彼女は目を輝かせて答える。
「そうなの!どうしても行きたい学校なの!でも…試験の日…」
途中まで答えてハッとした顔になる。
「…いや、なんでもないや!とにかく行きたいんだー」
本当に目まぐるしく変わる表情に、毎回驚かされる。でも今回のハッとした表情には少し引っかかった。質問をしようかと思ったが、彼女の方が早かった。
「そういえば幸村くんはなんの勉強してるの?」
「ああ、俺?俺は課題やってるよ。今月末からテニスの合宿で。」
「合宿??」
「そう。全国から優秀なプレイヤーが集められて切磋琢磨するんだ。そこで選抜メンバーに選ばれればテニスのU17ワールド杯にも出れる、かなり大きな合宿なんだ。」
少し自慢げに話してしまっただろうか。不安になってを見ると、目ですごいと訴えていた。素直な彼女にはいらぬ心配だったようだ。
「そんなにすごい合宿に行くなんて、幸村くん何者?!すごいなー、きっと幸村くんがテニスをしているところ、かっこいいんだろうなあ。」
「ふふ、ありがとう。」
そう感謝を述べはしたものの、かっこいいなんて言われてどきりとしたことは言うまでもない。屈託のない笑顔で発していることから、本心で言っているのだろうけど、それが余計に俺をドキドキさせた。ドキドキ?
「さあて、幸村くんと話して元気も出たことだし、そろそろ勉強に戻ろうかな。幸村くんは?」
「俺はもう少しゆっくりしてから戻るよ。」
「わかったー!じゃあ、また後でね。あ、そうそう、さっきあげた飴、疲れた脳にちょうどいいから食べてね。」
そう言って彼女は自習室に戻っていった。
ここの照明が暗くてよかった。そうでなければ彼女にこの火照りがバレてしまっていただろう。
この感情は今までに感じものとは違った。手術を受ける前日も緊張はしたが全く異質だったし、テニスの試合の高揚感とはまた違った。
座っていたベンチを立ち上がると、かさりとさっきの飴が音を鳴らす。これも本当なら今食べるべきなんだろうけど、食べずにとっておこう。
そうしてまた自習室へと戻った。
朝練後の授業始業前の15分間、もはや蓮二と話すのがお決まりになっていた。
「早速会えたよ。ありがとう蓮二。」
蓮二はそうか、特に表情を変えずに言う。
昨日図書館で会えるのはわかっていたかのようだった。
「どうして図書館で会えるとわかったんだい?」
「…この前、落し物の筆箱を見ていただろう?中には学生の割にHBやBの鉛筆が数本入っていたのと、わざわざ筆箱にお守りをつけていたことから受験生だと思った。一緒に白菊女学院のエンブレムの入ったペンがあったことから、彼女が塾に通っていないことがわかったと言うわけだ。あそこの学校は学校で受験対策をすることで有名だからな。」
「なるほどお見通しだったってことなんだね。」
「まあ90%くらいの確率だったがな。それで会えなければ学校のことを伝えようと思ったが、女子校に行くのは抵抗があるだろう?」
「ふふ、そうだね。それは勘弁してほしいや。」
そのあとも少し談笑をしていると、予鈴がなる。
ふと外を見ると、花壇にはコスモスが風に気持ちよさそうに揺られていた。なんとなく今の自分の気持ちに似ているように感じた。
***
あの日以降、俺はなんとなく図書館を訪れるようになっていた。と言っても練習が早めに終わる水曜日と金曜日だけだけど。U17合宿までの課題をこなすと言う名目の元に通い出したわけだが、本当はまた彼女、と話して確認したいことがあるからだ。
彼女を見ている時に感じる不思議な心地よさがどこから来るのか、自分でもまだ気づけないでいるのは、とてもむず痒かった。
今日も練習終わりに図書館の自習室へ行くと、いつもの席に彼女が座り懸命に問題集を解いている。その姿はとても真剣で、邪魔は絶対にしたくはなかった。
彼女に気づかれないようにそっと斜め前の席に腰を下ろし、カバンから静かに課題をとりだす。ちらりと彼女の方を見るが、どうやらこちらには気づいていないようだ。
胸をなでおろし、早速課題に向き合う。
彼女のピリッとした空気は俺までも勉強をやる気にさせた。
***
「幸村くん」
彼女の小声が聞こえる。なんだか耳がくすぐったくなる声だった。
「私休憩するし、これあげる。」
差し出された手にはイチゴの飴があった。
時計を見ると、あれから1時間半も経っていた。通りで疲れているわけだ。
「俺も少し休憩しようかな。」
「やった!少し話そ。」
そう言って席を立ち、この前も利用した休憩スペースに向かう。
「どうしても2時間以上は机にいられなくて。」
ベンチに腰掛け気持ちよさそうに伸びをする彼女は少し疲れているようだった。
「人の集中力は1時間半以上は続かないって言うしね。それくらいで休憩するのが理想的なんじゃないかな?」
「そうかなー。全国の受験生がそうなら安心なんだけどな。しかも明後日は推薦の合格発表なんだ。だから余計に疲れちゃって。」
なるほど、目の下のクマはそれが理由か。
「推薦受けてたんだ。それじゃあ集中し辛いね。」
「そうなの。受かってるといいな…」
そう答える横顔は切実だった。
「そんなに行きたい学校なの?」
なんとなく質問して見ると、彼女は目を輝かせて答える。
「そうなの!どうしても行きたい学校なの!でも…試験の日…」
途中まで答えてハッとした顔になる。
「…いや、なんでもないや!とにかく行きたいんだー」
本当に目まぐるしく変わる表情に、毎回驚かされる。でも今回のハッとした表情には少し引っかかった。質問をしようかと思ったが、彼女の方が早かった。
「そういえば幸村くんはなんの勉強してるの?」
「ああ、俺?俺は課題やってるよ。今月末からテニスの合宿で。」
「合宿??」
「そう。全国から優秀なプレイヤーが集められて切磋琢磨するんだ。そこで選抜メンバーに選ばれればテニスのU17ワールド杯にも出れる、かなり大きな合宿なんだ。」
少し自慢げに話してしまっただろうか。不安になってを見ると、目ですごいと訴えていた。素直な彼女にはいらぬ心配だったようだ。
「そんなにすごい合宿に行くなんて、幸村くん何者?!すごいなー、きっと幸村くんがテニスをしているところ、かっこいいんだろうなあ。」
「ふふ、ありがとう。」
そう感謝を述べはしたものの、かっこいいなんて言われてどきりとしたことは言うまでもない。屈託のない笑顔で発していることから、本心で言っているのだろうけど、それが余計に俺をドキドキさせた。ドキドキ?
「さあて、幸村くんと話して元気も出たことだし、そろそろ勉強に戻ろうかな。幸村くんは?」
「俺はもう少しゆっくりしてから戻るよ。」
「わかったー!じゃあ、また後でね。あ、そうそう、さっきあげた飴、疲れた脳にちょうどいいから食べてね。」
そう言って彼女は自習室に戻っていった。
ここの照明が暗くてよかった。そうでなければ彼女にこの火照りがバレてしまっていただろう。
この感情は今までに感じものとは違った。手術を受ける前日も緊張はしたが全く異質だったし、テニスの試合の高揚感とはまた違った。
座っていたベンチを立ち上がると、かさりとさっきの飴が音を鳴らす。これも本当なら今食べるべきなんだろうけど、食べずにとっておこう。
そうしてまた自習室へと戻った。