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筆箱を渡した後、俺は正直後悔していた。
学校の行きの道で会えるだろうと考えていたが、何度同じ時間に家を出て向かっても一向に会えない。あそこで駅に向かう彼女に会ったということは、最寄駅が学校の最寄りということには間違いないはずだ。でもそれでも会えないのだ。
帰り道もすれ違えるかと思って何度か時間を調整してみたが、会えなかった。
あの後ろ髪引かれる思いはなんだったのか、それすらもうやむやにしたまま別れて消化不良な気分だ。あの時感じた気持ちはなんたっだのか、今となっては確認する術もない。
ふう、と息を吐く。
名前くらい聞いておけばよかった。
「精市が物憂げとは珍しいな。」
顔を上げるとそこに蓮二がいる。
「ああ。ちょっとくたびれてしまってね。」
「季節の変わり目で疲れやすいのかもしれないな。だが無理は良くないぞ。…そういえばこの前の筆箱は無事渡せたのか?」
さすが蓮二だ、勘が鋭い。
「実はその日の内に返すことができたんだ。でもなんとなく気になってしまって。」
ほう、と相槌をうつも少し微笑んでいるように見えた。
「まあ返せたからいいんだけどね。」
「ならもう一度会ってみればいいんではないか?この前は駅に行く途中で会ったのだろう?この辺に住んでるのではないか?」
「一週間同じ時間帯に家を出てるんだけど、一度も見かけないんだ。」
いつの間にか彼女に会いたいことを蓮二に相談している形になっていた。少し気恥ずかしい気がしたが、隠したところで何もかもお見通しなら相談しておくべきだ、と自分に言い訳をつける。
「では…この辺の図書館などに赴いてみたらどうだろう?」
なるほど、それは名案かもしれない。
「ありがとう、そうしてみるよ。」
確かに、それなら会えるかもしれない。
****
その日の練習後、図書館に赴いてみることにした。
このあたりの図書館は夜遅くまで開いているようで、18時でもそれなりに人がいた。また、自習スペースも完備されているようだった。
U15合宿に参加するために出された課題をするのにも丁度いいかもしれない。
そんなことを思いながら一通り本棚を見て回るが、彼女らしき姿は見当たらなかった。
まあ今日すぐ見つかるだろうと思っていなかったので、こんなもんかなと思いながらざっと見回し、彼女らしき姿はなかったので自習スペースへと向かう。
そこにはずらりと長机が並べられており、学生から社会人まで勉強したり仕事をしているようだった。
せっかくだからここで少し課題をしていこう。
そう思い開いてる席に腰を吸えると、早速課題に取り組んだ。
「あの。」
少し小声の、クリアな声が聞こえる。
顔を上げると、そこには探していた彼女が立っていた。
驚いて見上げると、見覚えのある幼げな表情の彼女がはにかみながら俺の方を見て喋りかけていた。
「この前筆箱を拾ってくださった方ですよね。」
ふわりと微笑みながらこちらを見ているので、少しドギマギしてしまった。
「ああ、この前の。」
そう言って微笑むのが精一杯だった。
「実はちゃんとお礼ができなかったのがずっと気になってたんです。もしもお時間よろしければ少しお話できませんか。」
願ったり叶ったりのお誘いに落ち着いて返事をする。
さすが蓮二の予想だ、まさか初日から当たるとは。
****
「これ、どちらがいいですか。」
そこにはストレートティーとアップルジュースのペットボトルがあった。俺はなんとなしにストレートティーを選び受け取る。
「ありがとう。」
「こちらこそ、これはこの前のお礼です。」
そう言ってニコッと笑った彼女を見て胸がキュッとなった。
「立海大付属の方ですよね?何年生ですか?」
「ああ、そうだよ、今3年生。」
「じゃあ私と一緒だ!私も今3年生なの。」
どうやら同じ学年だったようだ。同じと知るや否や敬語がなくなったのが嬉しい。
同時に同い年だったのかと少しだけ驚いた。表情までも幼かったので下かと思ったが、どうやら違うらしい。
「そうしたら、えっと、あ...名前まだ聞いてなかったんだった....。」
そう言って少しだけ彼女が頬を染める。確かに名前を聞くのは恥ずかしいな、なんて思った。
「俺は幸村精市。」
そう言うと彼女がまたパッと華やぐ。表情が変わると、丸い目がくりくり動くのが見ていて退屈しなかった。
「私は井崎玲奈。白菊学園の3年生なの。」
白菊とは確か有名な女子校で立海同様中高大まである学校だったな、なんて考えてると、彼女がさらに質問を投げかけてきた。
「3年生ってことは幸村君も受験生なの?」
「ああ、俺は内部進学だから受験生ではないかな。井崎さんはそうなの?」
そう言って筆箱についていたお守りが頭をよぎる。
「そうなの。内部でもよかったんだけど、どうしても行きたい学校があって...」そう言ってちょっと真剣な顔をする。
本当にくるくる変わる彼女の表情に目が離せなかった。
「幸村君、私のことちょっと今笑ったでしょっ。」
どうやらあまりにも忙しい彼女の表情に、ふふっと笑ってしまっていたらしい。
「そんなことないよ。ただいろんな表情するなーと思って。」
「ならいいけど、周りの友達もすぐそうやって私のこと子どもっぽいって笑うの。確かに顔は童顔だけどさっ。」
そう言ってむくれている彼女に自然と笑みがこぼれてしまう。
「そうかもね、お友達の気持ち少しわかる気がするよ。」
「ひどーい!まだそんな会って間もないのに!」
彼女のむくれた表情も、全て新鮮だった。今までにこんな気持ちを感じたことがあっただろうか。穏やかで、人さじの癒しのような、不思議な気持ちだった。
一通り談笑をした俺たちは、彼女がまた勉強に戻ると言うことで終わった。
終わりがけに、
「私ここでよく勉強してるから、また息抜きがてら話そう。」
と、にっこりとした彼女に言われたのがたまらなく嬉しかった。
そして
ここに来ることを勧めてくれた柳に心から感謝した。
学校の行きの道で会えるだろうと考えていたが、何度同じ時間に家を出て向かっても一向に会えない。あそこで駅に向かう彼女に会ったということは、最寄駅が学校の最寄りということには間違いないはずだ。でもそれでも会えないのだ。
帰り道もすれ違えるかと思って何度か時間を調整してみたが、会えなかった。
あの後ろ髪引かれる思いはなんだったのか、それすらもうやむやにしたまま別れて消化不良な気分だ。あの時感じた気持ちはなんたっだのか、今となっては確認する術もない。
ふう、と息を吐く。
名前くらい聞いておけばよかった。
「精市が物憂げとは珍しいな。」
顔を上げるとそこに蓮二がいる。
「ああ。ちょっとくたびれてしまってね。」
「季節の変わり目で疲れやすいのかもしれないな。だが無理は良くないぞ。…そういえばこの前の筆箱は無事渡せたのか?」
さすが蓮二だ、勘が鋭い。
「実はその日の内に返すことができたんだ。でもなんとなく気になってしまって。」
ほう、と相槌をうつも少し微笑んでいるように見えた。
「まあ返せたからいいんだけどね。」
「ならもう一度会ってみればいいんではないか?この前は駅に行く途中で会ったのだろう?この辺に住んでるのではないか?」
「一週間同じ時間帯に家を出てるんだけど、一度も見かけないんだ。」
いつの間にか彼女に会いたいことを蓮二に相談している形になっていた。少し気恥ずかしい気がしたが、隠したところで何もかもお見通しなら相談しておくべきだ、と自分に言い訳をつける。
「では…この辺の図書館などに赴いてみたらどうだろう?」
なるほど、それは名案かもしれない。
「ありがとう、そうしてみるよ。」
確かに、それなら会えるかもしれない。
****
その日の練習後、図書館に赴いてみることにした。
このあたりの図書館は夜遅くまで開いているようで、18時でもそれなりに人がいた。また、自習スペースも完備されているようだった。
U15合宿に参加するために出された課題をするのにも丁度いいかもしれない。
そんなことを思いながら一通り本棚を見て回るが、彼女らしき姿は見当たらなかった。
まあ今日すぐ見つかるだろうと思っていなかったので、こんなもんかなと思いながらざっと見回し、彼女らしき姿はなかったので自習スペースへと向かう。
そこにはずらりと長机が並べられており、学生から社会人まで勉強したり仕事をしているようだった。
せっかくだからここで少し課題をしていこう。
そう思い開いてる席に腰を吸えると、早速課題に取り組んだ。
「あの。」
少し小声の、クリアな声が聞こえる。
顔を上げると、そこには探していた彼女が立っていた。
驚いて見上げると、見覚えのある幼げな表情の彼女がはにかみながら俺の方を見て喋りかけていた。
「この前筆箱を拾ってくださった方ですよね。」
ふわりと微笑みながらこちらを見ているので、少しドギマギしてしまった。
「ああ、この前の。」
そう言って微笑むのが精一杯だった。
「実はちゃんとお礼ができなかったのがずっと気になってたんです。もしもお時間よろしければ少しお話できませんか。」
願ったり叶ったりのお誘いに落ち着いて返事をする。
さすが蓮二の予想だ、まさか初日から当たるとは。
****
「これ、どちらがいいですか。」
そこにはストレートティーとアップルジュースのペットボトルがあった。俺はなんとなしにストレートティーを選び受け取る。
「ありがとう。」
「こちらこそ、これはこの前のお礼です。」
そう言ってニコッと笑った彼女を見て胸がキュッとなった。
「立海大付属の方ですよね?何年生ですか?」
「ああ、そうだよ、今3年生。」
「じゃあ私と一緒だ!私も今3年生なの。」
どうやら同じ学年だったようだ。同じと知るや否や敬語がなくなったのが嬉しい。
同時に同い年だったのかと少しだけ驚いた。表情までも幼かったので下かと思ったが、どうやら違うらしい。
「そうしたら、えっと、あ...名前まだ聞いてなかったんだった....。」
そう言って少しだけ彼女が頬を染める。確かに名前を聞くのは恥ずかしいな、なんて思った。
「俺は幸村精市。」
そう言うと彼女がまたパッと華やぐ。表情が変わると、丸い目がくりくり動くのが見ていて退屈しなかった。
「私は井崎玲奈。白菊学園の3年生なの。」
白菊とは確か有名な女子校で立海同様中高大まである学校だったな、なんて考えてると、彼女がさらに質問を投げかけてきた。
「3年生ってことは幸村君も受験生なの?」
「ああ、俺は内部進学だから受験生ではないかな。井崎さんはそうなの?」
そう言って筆箱についていたお守りが頭をよぎる。
「そうなの。内部でもよかったんだけど、どうしても行きたい学校があって...」そう言ってちょっと真剣な顔をする。
本当にくるくる変わる彼女の表情に目が離せなかった。
「幸村君、私のことちょっと今笑ったでしょっ。」
どうやらあまりにも忙しい彼女の表情に、ふふっと笑ってしまっていたらしい。
「そんなことないよ。ただいろんな表情するなーと思って。」
「ならいいけど、周りの友達もすぐそうやって私のこと子どもっぽいって笑うの。確かに顔は童顔だけどさっ。」
そう言ってむくれている彼女に自然と笑みがこぼれてしまう。
「そうかもね、お友達の気持ち少しわかる気がするよ。」
「ひどーい!まだそんな会って間もないのに!」
彼女のむくれた表情も、全て新鮮だった。今までにこんな気持ちを感じたことがあっただろうか。穏やかで、人さじの癒しのような、不思議な気持ちだった。
一通り談笑をした俺たちは、彼女がまた勉強に戻ると言うことで終わった。
終わりがけに、
「私ここでよく勉強してるから、また息抜きがてら話そう。」
と、にっこりとした彼女に言われたのがたまらなく嬉しかった。
そして
ここに来ることを勧めてくれた柳に心から感謝した。