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月日は足早に過ぎてゆき、気づけば2月の初旬になっていた。
最後に彼女と図書館であった時からひと月以上たち、暖かいコートをしっかりと着込まないと寒くて仕方がないくらいだった。
とはいえこの辺りは海が近いので、雪がちらつくことはあっても積らないことから、内陸よりはいささか暖かいのだと思われる。寒いことにはかわりないのだが。
彼女とは変わらずメールは続いていたが、あれ以来彼女とはあっていなかった。もちろん俺自身が部活に勤しんでいるのもあるが、彼女の邪魔をしたくなかったからだ。図書館に行ってしまえばどうしても彼女の時間を取らざるを得ないのが心苦しく感じたためだ。
ただ、直接会いに行ってはいないが、ほんの数回図書館の外から自習室をこっそりのぞいて彼女の姿は確認している。見るたびに目の下にクマを作っている彼女には少し心配になったし、応援することしかできないのが歯がゆくも感じたが、俺のリハビリを見てぐっと堪えるような表情を時折見せた両親の気持ちが少しわかった気がした。
そして今日はそんな彼女にとってとても大切な日で、俺も少し、いやだいぶ緊張していた。今日は彼女の本命大学の合格発表日だった。
合格発表は朝の10時に行われるらしく、携帯で合否が見れるそうだ。結果がわかったら連絡をくれるそうだが、それまではなんとなくソワソワとしてしまう。
彼女のことだから大丈夫だと信じているが、かなり難しい大学と聞いているため気持ちが落ち着かなかった。
学校内でスマホを使うことは許されていないが、今日ばかりはこっそりと机に忍ばせ、じっと待つ。
「ほう、精市がスマホを机に忍ばせるとはよっぽどのことがあるのかな?」
そう言って空席の前の椅子に腰かけたのは蓮二だった。
時刻は10時前。ちょうど1つ目の授業が終わって中休みになったところだった。
「ああ、おはよう蓮二。今日はどうしても確認したいことがあってね。」
「確認したいこと?...ああ、その様子だと図書館の君から連絡があるのか。この時間に連絡が来るとしたら…大学の合格発表か何かか?」
「正解。蓮二にはなんでもお見通しだね。今日は彼女の本命大学の合格発表日なんだ。」
「それは一大事だな。…くくっ、おかしいな。」
「何がだい?」
「全国大会や世界大会で誰が戦っていてもあんなに毅然としていた精市が、彼女のこととなるとこんなに落ち着かないことがあるのだな。」
そう言われてハッとしつつ、つられて微笑んでしまう。
「フフッ、本当だね。彼女のことを信頼していないわけじゃないんだけど、落ち込んだり悲しんで欲しくないんだ。」
「…精市は彼女に甘くなるタイプだな。」
「まあ、まだ彼女ではないんだけどね。」
そうにこやかに返すや否や携帯の画面がつき、彼女からの通知が入る。
背中にひやりとした感覚を覚えつつ、通知内容を確認しようとロック画面を開け、メッセージを確認した。
「どうだったんだ?」
蓮二が先ほどとあまり表情を変えずに質問する。
「…受かったって。よかった。」
息を吐きながら答えるも、蓮二はそうか、とだけ微笑みながら返してきた。あたかも最初からこの結果がわかっていたようだ。
「どうして蓮二は受かったのがわかったんだい?一度も彼女にはあったことがないだろう?」
すると蓮二は不敵な笑みでこちらを見つめ返す。
「まあ、精市の彼女なら大丈夫だとわかっていただけだ。」
「フフ…さすが蓮二だね。」
そう返し、彼女にもおめでとうのメールをすかさず送った。
***
お昼にもう一度携帯を確認すると、彼女からお礼のメールと共に「今日は図書館にくる?」という質問が添えられていた。
会って話はしたいと思っていたが、まさかこんなに早く会えるとは思っていなくてメールの文面に釘付けになってしまう。3年生は1時間くらいで部活を切り上げる日だったので、17時には学校を出れそうだ。
そのことをメールで伝えるとすぐに返信がきて、17時半に図書館で待ち合わせすることになった。
久しぶりに彼女と会えるのことに胸が高鳴る。会って、合格を祝って、心置きなく好きなことを喋れると思うと今から楽しみで仕方がない。
そして、この2ヶ月間、ずっと考えてたお願い事を聞き入れてもらえるか、少しだけ緊張が走った。
***
時刻は17時10分、「今日は図書館で勉強していくから。」と伝えていつもの帰り道とは逆の方向へ行く。
「幸村くんは真面目だなあ。」「さすが幸村だ!!!」なんて言ってる仲間を尻目に横を見ると、蓮二だけは全てを悟ったかのような笑みを浮かべていた。
冷たい風を体で切りながら歩を進めるが、全然寒さは感じずはやる気持ちを抑えるのに精一杯だった。
10分もすると図書館に到着する。約束よりも少し早い17時20分に到着し、まっすぐ自習室に向かう。いつもの席に行くと彼女が座る場所にはクリーム色のふんわりとしたニットを羽織る小柄な女性が座っていた。早く到着したので、彼女はまだ来ていないのだろうと思い自分も腰掛けると、その女性がこちらを見て見覚えのある笑顔を浮かべる。
「幸村くん」
「えっ…玲奈?」
「??...ああ、今日私服だから気づかなかったのか。」
その通りで、私服姿の彼女はいつもよりも大人っぽくて、本当に高校生だということを改めて実感してしまった。クリーム色のオーバーサイズのニットに茶色のコーデュロイのペンシルスカート、黒のタイツにグレーのショートブーツを履いた彼女は、髪もゆるくカールさせていて、一瞬誰かわからなかった。前から可愛いとは思っていたが、服装によってこんなにも雰囲気が変わると思わず面食らってしまう。
「幸村くん?」
「ああ、ごめんごめん。一瞬大人っぽくて誰だか全然わからなかったんだ。」
「本当!大人っぽかった??私顔が幼すぎるでしょ?だからそういってもらえて嬉しい!」
「フフ、そんなことないよ。でも喜んでもらえたようならよかった。」
そう言って彼女が少し頰を赤らめたように見えるがすかさず話し出す。
「そうだ、今日はお勉強する予定だった?」
「いや、特になにも考えてなかったけど…」
玲奈と話す以外は、と心の中で付け足す。
「そうしたら、話したいこともいっぱいあるし、近くのカフェに行かない??」
「もちろん、いいよ。」
まさか彼女からゆっくりと話す提案が出るとは思っておらず、嬉しいお誘いに二つ返事で返す。
「よかった!実はよく使うカフェが商店街にあってね…」
そう彼女が言いながら一緒に自習室を後にする。
こんな風に彼女とたくさん話せるなんて夢のようで、でも彼女へのお願いは必ず伝えようと決心をしながら図書館のエントランスをくぐる。
外は日が落ちかけて風も冷たいが、前よりも少し日が伸びたのを感じる夕暮れだった。
最後に彼女と図書館であった時からひと月以上たち、暖かいコートをしっかりと着込まないと寒くて仕方がないくらいだった。
とはいえこの辺りは海が近いので、雪がちらつくことはあっても積らないことから、内陸よりはいささか暖かいのだと思われる。寒いことにはかわりないのだが。
彼女とは変わらずメールは続いていたが、あれ以来彼女とはあっていなかった。もちろん俺自身が部活に勤しんでいるのもあるが、彼女の邪魔をしたくなかったからだ。図書館に行ってしまえばどうしても彼女の時間を取らざるを得ないのが心苦しく感じたためだ。
ただ、直接会いに行ってはいないが、ほんの数回図書館の外から自習室をこっそりのぞいて彼女の姿は確認している。見るたびに目の下にクマを作っている彼女には少し心配になったし、応援することしかできないのが歯がゆくも感じたが、俺のリハビリを見てぐっと堪えるような表情を時折見せた両親の気持ちが少しわかった気がした。
そして今日はそんな彼女にとってとても大切な日で、俺も少し、いやだいぶ緊張していた。今日は彼女の本命大学の合格発表日だった。
合格発表は朝の10時に行われるらしく、携帯で合否が見れるそうだ。結果がわかったら連絡をくれるそうだが、それまではなんとなくソワソワとしてしまう。
彼女のことだから大丈夫だと信じているが、かなり難しい大学と聞いているため気持ちが落ち着かなかった。
学校内でスマホを使うことは許されていないが、今日ばかりはこっそりと机に忍ばせ、じっと待つ。
「ほう、精市がスマホを机に忍ばせるとはよっぽどのことがあるのかな?」
そう言って空席の前の椅子に腰かけたのは蓮二だった。
時刻は10時前。ちょうど1つ目の授業が終わって中休みになったところだった。
「ああ、おはよう蓮二。今日はどうしても確認したいことがあってね。」
「確認したいこと?...ああ、その様子だと図書館の君から連絡があるのか。この時間に連絡が来るとしたら…大学の合格発表か何かか?」
「正解。蓮二にはなんでもお見通しだね。今日は彼女の本命大学の合格発表日なんだ。」
「それは一大事だな。…くくっ、おかしいな。」
「何がだい?」
「全国大会や世界大会で誰が戦っていてもあんなに毅然としていた精市が、彼女のこととなるとこんなに落ち着かないことがあるのだな。」
そう言われてハッとしつつ、つられて微笑んでしまう。
「フフッ、本当だね。彼女のことを信頼していないわけじゃないんだけど、落ち込んだり悲しんで欲しくないんだ。」
「…精市は彼女に甘くなるタイプだな。」
「まあ、まだ彼女ではないんだけどね。」
そうにこやかに返すや否や携帯の画面がつき、彼女からの通知が入る。
背中にひやりとした感覚を覚えつつ、通知内容を確認しようとロック画面を開け、メッセージを確認した。
「どうだったんだ?」
蓮二が先ほどとあまり表情を変えずに質問する。
「…受かったって。よかった。」
息を吐きながら答えるも、蓮二はそうか、とだけ微笑みながら返してきた。あたかも最初からこの結果がわかっていたようだ。
「どうして蓮二は受かったのがわかったんだい?一度も彼女にはあったことがないだろう?」
すると蓮二は不敵な笑みでこちらを見つめ返す。
「まあ、精市の彼女なら大丈夫だとわかっていただけだ。」
「フフ…さすが蓮二だね。」
そう返し、彼女にもおめでとうのメールをすかさず送った。
***
お昼にもう一度携帯を確認すると、彼女からお礼のメールと共に「今日は図書館にくる?」という質問が添えられていた。
会って話はしたいと思っていたが、まさかこんなに早く会えるとは思っていなくてメールの文面に釘付けになってしまう。3年生は1時間くらいで部活を切り上げる日だったので、17時には学校を出れそうだ。
そのことをメールで伝えるとすぐに返信がきて、17時半に図書館で待ち合わせすることになった。
久しぶりに彼女と会えるのことに胸が高鳴る。会って、合格を祝って、心置きなく好きなことを喋れると思うと今から楽しみで仕方がない。
そして、この2ヶ月間、ずっと考えてたお願い事を聞き入れてもらえるか、少しだけ緊張が走った。
***
時刻は17時10分、「今日は図書館で勉強していくから。」と伝えていつもの帰り道とは逆の方向へ行く。
「幸村くんは真面目だなあ。」「さすが幸村だ!!!」なんて言ってる仲間を尻目に横を見ると、蓮二だけは全てを悟ったかのような笑みを浮かべていた。
冷たい風を体で切りながら歩を進めるが、全然寒さは感じずはやる気持ちを抑えるのに精一杯だった。
10分もすると図書館に到着する。約束よりも少し早い17時20分に到着し、まっすぐ自習室に向かう。いつもの席に行くと彼女が座る場所にはクリーム色のふんわりとしたニットを羽織る小柄な女性が座っていた。早く到着したので、彼女はまだ来ていないのだろうと思い自分も腰掛けると、その女性がこちらを見て見覚えのある笑顔を浮かべる。
「幸村くん」
「えっ…玲奈?」
「??...ああ、今日私服だから気づかなかったのか。」
その通りで、私服姿の彼女はいつもよりも大人っぽくて、本当に高校生だということを改めて実感してしまった。クリーム色のオーバーサイズのニットに茶色のコーデュロイのペンシルスカート、黒のタイツにグレーのショートブーツを履いた彼女は、髪もゆるくカールさせていて、一瞬誰かわからなかった。前から可愛いとは思っていたが、服装によってこんなにも雰囲気が変わると思わず面食らってしまう。
「幸村くん?」
「ああ、ごめんごめん。一瞬大人っぽくて誰だか全然わからなかったんだ。」
「本当!大人っぽかった??私顔が幼すぎるでしょ?だからそういってもらえて嬉しい!」
「フフ、そんなことないよ。でも喜んでもらえたようならよかった。」
そう言って彼女が少し頰を赤らめたように見えるがすかさず話し出す。
「そうだ、今日はお勉強する予定だった?」
「いや、特になにも考えてなかったけど…」
玲奈と話す以外は、と心の中で付け足す。
「そうしたら、話したいこともいっぱいあるし、近くのカフェに行かない??」
「もちろん、いいよ。」
まさか彼女からゆっくりと話す提案が出るとは思っておらず、嬉しいお誘いに二つ返事で返す。
「よかった!実はよく使うカフェが商店街にあってね…」
そう彼女が言いながら一緒に自習室を後にする。
こんな風に彼女とたくさん話せるなんて夢のようで、でも彼女へのお願いは必ず伝えようと決心をしながら図書館のエントランスをくぐる。
外は日が落ちかけて風も冷たいが、前よりも少し日が伸びたのを感じる夕暮れだった。