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ジェイドリーチと男装監督生の秘密

次の日の夕方、人気のない温室裏。
学園の喧騒から外れたその場所で、私は一人、草花のスケッチをしていた。
ペン先が紙に擦れる音が静かに響く。

「んふふ〜、小エビちゃん、な〜にしてんの〜?」

背後から、ぬるりとした声が落ちてきた。
その声を聞いた瞬間、肌がひりつく。フロイドだった。

「フロイド先輩…えっと、スケッチをしてます。」

「ふぅん、小エビちゃん、なんか今日は“監督生くん”って雰囲気じゃないねぇ」

彼の目が、どこかじっとりと私を観察するように見てくる。勘が鋭い。
たぶん今日、私は少し気が緩んでたんだ。
シャツのボタンを一つ外したままだったり、仕草が甘くなっていたり。

「さ〜て、ジェイドはあんなに優しくしてるけど、オレはどうしよっかな〜」

距離が近づく。
肩が触れそうな位置で、フロイドがしゃがみ込む。

「ほんっと、へんなの〜。ずっと“男のフリ”してんの、大変じゃない?」

そう言いながら、顔を近づけてくる。
目が合う。砕けたいたずらっぽい笑み。しかし、獲物を狩る猛獣の瞳でもあった。

「女の子って触ったら、すぐ壊れんのかな」

その指が、私の頬に伸びた瞬間。

「そこまでですよ、フロイド」

空気が割れるように、低く冷たい声が差し込んだ。

私もフロイドも、一瞬で動きを止める。
振り返ると、温室の入口にジェイドが立っていた。
笑っている。いつも通りの穏やかな表情。けれどその笑みに、刃が混じっている。

「僕の大切なものに手を出すなら、フロイド、貴方でもそれなりの“覚悟”が必要ですよ」

フロイドがニヤリと笑う。

「うわ〜、ジェイド、マジじゃん。顔こわ〜。
…でもやっぱりねぇ、アタリだったんだ」

ジェイドは近づいてきて、私とフロイドの間に、壁のように立った。

「この人に触れていいのは、僕だけです」

その言葉に、私の心臓が跳ねた。

「ふぅん…」

フロイドは笑っていた。
面白そうに、でもどこか名残惜しそうに立ち上がる。

「まあいーや。小エビちゃんと遊べるの、楽しみにしてたんだけどな〜」

そして、くるりと背を向けた。

「じゃあね、ふたりとも。
小エビちゃん、ジェイドに壊されないようにねぇ〜」

そう言ってフロイドはあっさり去っていった。

温室に残された静寂。風が抜ける音だけが耳に残る。
ジェイドが、ふっと振り返った。

「……怖くは、なかったですか?」

「うん。大丈夫です。ちょっと、緊張したけど」

「…すみません。放っておけば、貴方はきっと良くないことをされてしまう気がして」

ジェイドが、初めて私の前で“怒り”を見せた。
感情の火種を押し殺して、それでも“奪われたくない”という本音が、あふれていた。

私は、小さく首を振った。

「うれしかったです、止めてくれて」

すると彼は、そっと私の手を取った。

「…貴方に手を伸ばされることが、こんなにも怖く感じるとは思っていませんでした。」

もう片方の手で私の頬に触れながら、ジェイドは囁く。

「…僕は貴方が欲しい。僕だけのものにしたいんです。
もっと深く。誰にも壊されないように、僕が貴方を守ります」

静かな告白。
穏やかな雨のように、優しく、それでいて確実に、心に染み込んでいく。

私は、彼の手を取って唇に寄せた。

「うん、どこにも行きません。ずっと先輩の傍にいます。
だって、先輩がちゃんと守ってくれるって知ってるから。」

ジェイドはその言葉を聞いて安心したように微笑んだ。
秘密と独占の狭間で、
恋はさらに深く、海の底へ沈んでいった。
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