せないずみ
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言うべきか。
言わないべきか。
散々、悩んだ結果……
「瀬名先輩」
「なに……って誰かと思ったらなまえか。どうし……」
「失礼します!」
「は?」
三年の教室がある廊下にて、振り返った先輩のネクタイを掴んで引き寄せた。途端に周りがざわめき出す。
当然だ。
引き寄せた勢いのままキスをしたのだから。
「おぉっ!!大胆だな!!なまえ!!」
「嘘でしょ……なまえちゃんから瀬名っちに……」
近くに居た守沢先輩と羽風先輩らしき声が聞こえるなか、ゆっくり唇を離せば驚いてる顔と目が合う。
「……面白い事してくれるじゃん」
直ぐ様、にやりと笑ったかと思えば向かい合って腰を引き寄せられた。
途端に、また周りがざわめき出す。
これもまた当然だと思う。
何故なら、今度は瀬名先輩からキスをしてきたのだから。
「んんっ……」
触れるだけのものじゃなくてしっかりとした本気のやつ。
しかも、角度を変えながらの長めの。
離れようとすれば、首の後ろに手を添えられて離れられない。
当然ながら頭の中はパニックに。
何してくれてんの!?と怒られると思っていたから想定外の展開だ。
「おやぁ~?うふふ~はれんちですね~」
「なっ、何してるんだっ!貴様らはっ!」
「やるねぇ、瀬名くん。ふふっ」
「……そこの外野うるさい。ちょっと黙ってて」
唇が離れたかと思えば、蓮巳先輩達に顔を向けて「邪魔しないでよね」と微笑んだ横顔も格好良かったりして、見惚れていると目と目が合い、キスがまた始まった。
えっ、まだ続けるの?と焦るも思わず目を閉じてしまう。
予想外過ぎる状況に、瀬名先輩の言い方を真似すれば外野がどんどん増えていく。自分からしたとはいえ、これは流石にやばいかと。だけど、離してくれる気配はなく。
「じゃあね」
そう言ってキスが終わったのはチャイムが鳴ったあと。
にっこり微笑み、ひらひらと手を振って教室へと戻っていく。
その場に残された私はもう思考が回っていなくて、気付けば自分の教室にいた。
「ちょっと聞いたわよ~!」
ハッと意識が現実に戻ったのは「さっきの休み時間、泉ちゃんとキスしたんですってね♡」という鳴上くんの嬉しそうな声で。
「ふーん……戻って来てからずっと上の空だなぁと思ってたけど、わざわざせっちゃんのところへキスしに行ってたんだ~?やぁらし~♡」
「熱烈なのかましてたらしいわよ!2回も!」
にやにやする朔間くんと、やるわねェ♡とほっぺをつんつんしてくる鳴上くんに返す言葉はなく、何となく視線を感じて周りを見渡せば教室内のありとあらゆる視線がこちらに。
「大胆だねぇ。なんでキスしに行っちゃったの?」
「瀬名先輩、もうすぐ卒業しちゃうしフィレンツェ行くから」
「餞別的な感じ?」
「や、そんなつもりは……」
「こっそり呼び出して告白しちゃえば良かったのに?人前でキスする度胸があるんならさ」
「呼び出して待ってる間に勢いがなくなっちゃうだろうし……告白も出来なかったと思う」
「で、結果的に色々とすっ飛ばしてキスになっちゃったわけだ」
「それなら仕方ないわァ」
ウフフ♡と微笑む鳴上くん。
仕方ないねぇ、とにやにやしっぱなしな朔間くん。
仕方ないで済むのだろうか、という疑問も湧いたけど勢いとはいえやってしまったのだから今更だ。恥ずかしさもあるけれど自分からした事なのだし、もう気持ちも伝わってるはずだ。
「それで、せっちゃんとどうなりたいの?」
「……特には」
「告白もなしにわざわざキスだけしに行っといて?嘘でしょ?」
「泉ちゃんが可哀想だわ、キスのやり逃げだなんて」
「可哀想……というか哀れだよね。人前でキスされて恥かかされただけって」
「うっ……」
キスのやり逃げ……
恥かかされただけ……
ぐさぐさ言葉がささる。
確かにそうだ。
それに、瀬名先輩の気持ち何も考えてなかった。
2回目は先輩からだったけど、嬉しそうにしてたような気もするけど……
これじゃあ、ただキスしたかっただけと思われてるのでは……?
勢いで突っ走ってしまったけど、瀬名先輩からすれば迷惑だったかもしれない。そう思ったら、謝りに行くべきなんだけど会いに行くのが気不味くなってきた。
「……消えたい」
「ダメよ、そんなの。ちゃんと気持ち伝えなきゃ」
「ゆうくんにしか興味ないからって言われる」
「うわー、言いそう」
「でも、伝えてみないと分からないでしょ」
「そうそう。何事もやってみなきゃ分からないからね」
「じゃあ、泉ちゃん呼びましょうよ!まだその辺に居ると思うし」
「いいね~俺達が見届けてあげる♡」
「むっ、無理ぃ……」
鳴上くんはスマホ取り出して、朔間くんは「練習相手になろうか?」なんて頬杖つきながらにやにや。やだやだやだ、と反抗してると教室のドアが開いた。
「……なんだ居るじゃん。出ないから帰ったのかと思った」
耳に当てていたスマホを操作しながら教室に入って来る人物に「ナイスタイミングよ♡」とか「流石だねぇ」と声を掛ける二人。
「何がナイスタイミングなの。流石って?つーか、まだ残ってたんなら着信に出なよ。さっきからずっと鳴らしてるんだけどぉ?」
「えっ!?」
何?どういう事?と慌ててスマホを取り出せば着信の通知が何件も……
「サイレントにしてたから気付きませんでした……」
「プロデューサーとしてやっちゃダメな事でしょ。いつ何時でも直ぐに出られるようにしとかないと。なんかあった時、どうするの?」
「すみません……」
「まぁまぁ、お説教は今度にしてあげて♡」
「せっちゃんは何しにわざわざ二年のところまで来たの?」
わざわざを強調していう朔間くんに「こいつに用があるからだけど?用がなけりゃ来ないでしょ?」と。
「なら、ちょうど良かったわ♡なまえちゃんも泉ちゃんに用があるみたいだから」
「えっ」
鳴上くんと朔間くんに「チャンスよ♡」「がんばれ~♡」と両サイドから耳打ちされ、チラッと見た目の前にいる瀬名先輩の表情はいつもより険しかった。
無言だけど、ちょ~ウザいって顔が語ってる。
「へぇ~……それはオレもちょうど良かった。聞きたい事もあるから場所変える?別にここでもいいけど」
「私は瀬名先輩に何の用もございません!ので、聞きたい事があるのでしたならスマホにご連絡ください!それではさようなら!ごきげんよう!」
「はっ?え、あっ、ちょっ……!」
目も合わせず、隙を付いて一目散に走って教室から出る。
あんな事しといて告白なんて出来るわけがない!
ほんと今更なんだけども!
いざ、本人を目の前にするとキスした事を思い出して恥ずかしさが一気に込み上げてきた。このまま先輩が卒業するまで逃げ切ってやる!
と、思ってたら。
「ちょっとぉ!?どこ行く気!?」
「知りませんっ!!」
瀬名先輩が追い掛けて来た。
「とにかくっ!!もう瀬名先輩とは会いません!!さようなら!!」
我武者羅に当てもなく走る。
瀬名先輩もまだ追い掛けてくる。
途中、トリスタのみんなと擦れ違ったけど止まる事なく走った。
「あっ、なまえだ!やっほやほ~☆」
「凛月から聞いたぜ?大変なことになってんな!」
「そうなの!だから、今、逃げてるの!」
「待ちなって言ってるでしょ!!」
「ちゃんと前を見て走れ。転けるぞ」
「頑張って~!なまえちゃん!」
「ちょっとゆうくん!応援してないで、そこのバカ捕まえて!」
「ごめんね、泉さん!僕はなまえちゃんの味方だから!」
そんな会話を背中で聞きながら、どこか隠れられるところを探す。
少しして、隠れるにはもってこいな場所が浮かんでそこを目指した。逃げ切れるなんて思ってないけど、今はとにかく逃げたいという一心で走った。
キスのヤリ逃げ犯でいいし。
どうせ先輩はフィレンツェで美女とよろしくどうぞするだろうから。
それは嫌だけども。
瀬名先輩の事だから、よろしくどうぞなんてしないとは思うけど。
むしろ、私がよろしくどうぞする相手でありたいですけどぉ!!
着いたのは図書室。
今の時間は誰も居ないのを思い出した。
息を切らしながら椅子に座り、気持ちと呼吸を落ち着かせていく。
ここなら見つかる事はないと思う、多分。
瀬名先輩が図書室へ行くなんて聞いたことないし、私もあまり来る事はないから選択肢に浮かぶ事もないだろう。
はぁ……なんか疲れた。
自業自得だけど、とても疲れた。
久々に全力疾走した気がする。
「……これから、どうしよう」
逃げたのはいいけれど、今後の事は何も考えてない。
後先考えずに行動したのは間違いだったな。
多分、怒られるんだろうなぁ。
聞きたい事って、なんでキスしたのかだろうし。
だったら、私も聞きたい。
なんであんなキスを返してくれたのか。
いや、聞けないよ。そんなこと。
「……………」
なんであんなキス……
数時間前の出来事を思い出して、ぼっと顔が熱くなる。
初めて見たもん、瀬名先輩のあんな表情。
二回目のキスの直前、目と目があった時……
まるで、遊木くんを見てるような愛おしそうな。
だから、人前だというのにキスを受け入れてしまえた。
そこには自分達だけしかいないようにも思えた。
あのままチャイムがなければ、うっかり零していたかもしれない。
「好き……」
と、こんな風に。
良かったよ、あの時チャイムが鳴って。
「……誰が?」
ひとりごとに返答があった。
声に振り向くと、そこには瀬名先輩。
「なんで……」
「あんたがここに入ってくのを見たって教えてくれたんだよねぇ」
誰が?と聞きたいけど、先輩が隣に座って来たから顔を背けるしかなかった。
「で、今のは誰に向けての言葉?」
「黙秘件を行使します」
「却下。あんたには答える義務がある」
「ありません」
「あんなところでキスして来といて、ありませんはないでしょ?」
そう聞きながら、同時に手が握られる。
振りほどこうにも指の間までしっかり捕まって。
「じゃあ、答えなくていいからこっち見てよ」
「……嫌です」
「先輩の言う事は絶対なんだから聞きな」
「遠慮するのも後輩の勤めです」
「ほんと生意気……あーだこーだ言うならキスで塞いであげるしかないかな」
「だっ、だめです!」
するり、と後ろから指で顎を触れられて思わず振り向いてしまった。
「やっと見たね」
「っ……」
机に頬杖ついて微笑む先輩。
何だか嬉しそうに見えるのは気のせいであって欲しい。
「なまえ」
いつもよりも柔らかく聞こえる優しい声も、どうか気のせいであって欲しい。
「なんでキスしてくれたの?」
「……先輩こそ」
「質問してるのはこっちなんだけど」
絶対に言わないって決めたのに。
「ちゃんと応えたでしょ、オレは」
余裕ありげな笑みを唇に浮かべていて。
「えっ?」
「伝わってないとか言わないでよ」
「や、だって……そんな事ありえな……」
「なんだ、伝わってるじゃん」
「嘘だ……」
「嘘じゃない」
ぐいっと近付く顔。
「だから、今度はなまえが答えて」
ずっと向けられてたままの視線。
初めて見た、今にも溶けてだしてしまいそうなほど甘く煌めいた瞳の色にもう逆らう事は出来なかった。
「なんでオレにキスして来たのかな?」
「……どうしても言わなきゃダメですか?」
「言わなきゃもうしてあげないよ?」
そんな優しい顔で言うのは狡い。
「……好き、だからです」
「へぇ~……オレの事好きなんだ?」
「好きですよ、悪いですか」
「全然。見る目あんだね、あんた。実はオレもなんだけど」
「……なんなんですか、この茶番は」
「なんだろうね?」
お互いにクスッと笑って見つめ合ったまま、どちらからともなく静かにそっと唇が重なった。
「先輩こそ、なんで2回目してくれたんですか?」
「あんただけがしてたら、今頃変態のレッテル貼られてるところだよ」
「変態……ですよね、やっぱり。ごめんなさい」
「オレは嬉しかったからいいんだけどね」
おいで、と膝の上に座るように促されたから素直に座るとそのまま横から抱き締められた。
「嬉しかったんですか……?」
「嬉しいに決まってるでしょ。本当はもっとしたかったぐらいなんだから」
「えっ……」
「まぁ、時と場所が悪かったよね。今みたいに2人の時にして来てくれたらもっと凄いのしてあげられたんだけど?」
小首傾げてる先輩。
する?って聞かれてる気がして、
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