これも続かない
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「ちゃーっす!隣に引っ越して来た天城でーすっ!」
休日の朝。
普段は鳴らないインターフォンの音で目が覚めて、誰だろ?とまだ開かずにいる瞼を擦りながらドアを開けるといかにもチャラそうな赤髪のお兄さんが「これ良かったら。めちゃくちゃ美味いらしいので」と有名なケーキ屋さんの紙袋を渡されたのだった。
「はよ……」
お隣さんが引っ越して来てから数日。
くぁ、と欠伸をしながらドアを閉める姿は引っ越して来た日とは違い、とてもテンションが低い。これが彼にとって本来の姿らしい。朝は弱いんだとか。
だったらあの日の元気なパリピみたいなノリはなんだったんだ?という話なのだけれど、あれは前日あまり眠れなくて何故だか気分がハイになってしまっていた、らしい。
「ばんちゃっす!」
お隣さんが朝は弱いと知ってから一週間ほど過ぎた頃。
仕事終わりに近所のスーパーで買い物をしていたら声を掛けられた。誰だ?と思う事なく「こんばんは」と返す。多分、こんばんはの挨拶だろうな。こんな挨拶の仕方をするのは私の知ってる人の中では1人だけだから誰かすぐに分かった。
「おネェさんも買い物?あ、親子丼だろ?」
「正解です」
「ニキが言ってたんだけどよォ、これ入れるとスゲェー美味くなるらしいぜ」
そう言いながら何故か私の持つカゴに油揚げを入れる。後は卵と鶏肉だけだな!なんて言いながら私からカゴを奪いお肉コーナーへ。
にきさん、とは?流石にその人が誰なのかは推理出来なかったけれど、鶏肉のパック、卵をカゴに入れて「汁モンも要るっしょ」とお湯を注ぐだけで出来るインスタントのお吸い物も追加で。
「うまかったァ!」
きつね親子丼を食べ満足気なお隣さんは私の部屋にいる。レジで会計待ちの時に「俺っちも食いてェんだけどいいか?」と言われて、答えるよりも先に会計が済まされた上に袋詰めまでの流れがあまりにも当たり前のように自然で早くて気付けばスーパーを後にしていた。
アパートに着くまで袋を持ってくれていたし、出して貰っている会計分を返そうとするもタダ飯は悪いからとか言って受取を拒否されてしまい、そうなれば二人分の親子丼を作るしかなかったのだ。部屋まで持って行けばいいかと聞けば、自分の部屋はまだ諸々揃ってないから私の部屋でよろしくと。
でも、満足してくれたようなので良かった。
ただ、初めて男性を部屋に招いた事、その男性と2人っきりという事だけを除けば。
「ニキのも美味いんだけど、おネェさんのも最高に美味いなァ!また作ってくんね?」
だから、誰なのだろう?にきさんとやらは。気にはなるけれど変に聞くのは嫌かもしれないと思い聞かずに、次は何を作ろうかと考える。次っていつの話なのだけれど。
「ちわーっす。昨日はご馳走さんでした」
「こんにちは。はい」
「めちゃくちゃ天気いいよなァ」
眩しそうに目を細めて空を見上げるお隣さんと私はベランダにいて、どうやら今日は友達数人と出掛けるらしく夜は居ないんだとか。聞いてもいないのだけれど何故か教えてくれた。
「俺っち、次は生姜焼きが食いてェ♡」
生姜焼き、か。ここ最近作ってないからありかも。こんなやり取りをしたのがきっかけで、週末の金曜日は私の部屋で晩御飯を食べる事になったのだった。
「そう言えば、なまえチャンは恋人とか居ねぇの?」
「居たら、天城さんを部屋に入れてませんしご飯も作ってません」
「マジ?奇遇だなァ!俺っちも恋人居ないんだよ」
親子丼をご馳走してから3回目の金曜日。2回目はリクエスト通り生姜焼きを作ると、めちゃくちゃ喜んでくれて。次はオムライスがいいと言われたので、玉子で包んでいる時に恋人の有無を聞かれたのだけど。
嘘だ。そんな訳ない。顔が良い人には決まって恋人が居る。現にうちの兄がそうだ。堅物だ石頭だとかなんだかんだ言われているけれど、顔が良い上に声も良くて頭も良いと来たものだから彼女が途切れた事はない。常に取っ替え引っ替えしてる訳ではないけれど、別れたとしてもすぐに新しい恋人が出来ていた。
だから、信じられるはずがない。高身長で顔も良くてイケボで気さくな天城さんに彼女が居ないだなんて。
「つーか、居た事すらねェしな」
「はい?」
「なんだ?信じられませんってか?」
「閻魔様に舌を抜かれても知りませんからね」
「嘘じゃねーよ。野郎同士で居る方が楽しいまま来ちまったからなァ……まぁ、なまえチャンは言っちゃあなんだが居ないって言われて納得するつうか……」
「天城さんが好きだって言ってた焼き林檎作ってみたんですが、デザートに出そうかと思ってたけど止めます」
「ウソウソウソ!冗談だよ、ジョーダン!」
冗談。そう、冗談。いつの間にか私達は冗談も交えて会話出来るほどになっていた。これは天城さんのコミュ力なのだろう。私は自分から話に行けるようなタイプではないので、ずっと友達と呼べる存在が居ないのだから。会社での昼休みも1人だし、仕事終わりに誰かとご飯を食べに行ったり呑みに行ったりなんてない。
「……そう言えば、明日の夜何か予定あったりする?」
「寝るという予定があります」
「だったら、どっか飯食いに行こうぜ」
ウメェ~!と焼き林檎を食べ終わった後、思い出したように聞かれたので答えればご飯のお誘いだった。まさか2人っきり?と思ったのだけど天城さんのご友人達と、らしい。男しかいないから嫌なら断ってくれていいしと配慮までしていただけたのだけれど、男性の集団には耐久性があるので大丈夫だ。逆に私なんかが行って迷惑ではないのかを訊ねると、どうも天城さんのご友人達が私に会いたがってるだとか。
何故……?
*
「ンじゃ、また後でな」
ご飯のお誘いを受けた翌日、土曜日。今日もご友人達と遊びに行くとかでご飯食べに行く時間くらいに連絡したいからと連絡先の交換をした。身内以外の男性の連絡先が登録されたこと、いつか兄に自慢してやろうと思う。
休日にベランダで洗濯物を干していると、隣から必ず天城さんが出て来るようになっていた。そこで、次の金曜日に何が食べたいかリクエストされたり会社での出来事を話すようになるまでの仲にもなっていた。
「あっ、食いたいモンあんだったらメッセージ送っといて」
そう告げたあと、天城さんは部屋へと戻っていった。
食べたいものか……自分も部屋に入り、食べたいものを考えながら掃除を始める。途中、隣から玄関のドアが閉まる音がしたので行ってらっしゃいと心の中で声を掛けて掃除を再開する。
外食は久し振り過ぎて食べたいものが何も浮かばない。
ただ、ここ最近は朝晩がしっかり冷え込むからお鍋食べたいなぁと思っていたけども果たしてお鍋でいいのだろうか?と不安に襲われる。
いや、流石にお鍋はないか。男性ばかりならやっぱり焼肉とかの方がいいのでは?とかあれこれ考え過ぎて、食べたいものがあればなのだから別に連絡する必要はない事に気付いて考える事を止めた。
掃除が終わり、完全にやる事がなくなってしまったのでふと近くにあった雑誌を読む事にした。何故買ったのか理由すら忘れたのだけど、偶々開いたページに絶句する。
男性が居る食事会には必ずバチバチにお洒落して参戦!そう書かれたインタビューの文字に、嘘でしょ!?と慌てる。兄を含めた男性達との食事にすっぴんで行ってたのだけれど、それは兄の友人達だったから良かっただけで天城さん達となると事情が変わってくるのでは?
急いでシャワーを浴びて、出掛ける用意を始める。流石にバチバチには出来ないけれども普段の仕事着よりかは明らかにお洒落なのを……ってそんな服ありませんけど?お出かけなんて大それた場所に行った事もなく、外出は近所のスーパーか通勤だけという如何にも寂しい女ですからお洒落着なんてあるわけないですよね!
まぁ、別にデートするわけでもないし普段着でも……や、でも、やっぱり少しくらいは……
うーん……と頭を捻って考えた結果。
「……これなら大丈夫でしょう、多分」
鏡に映る自分は、普段より少しだけアイラインやチークが濃かったり滅多にしない簡単な(と書いてたが結構難しかった)ヘアアレンジをしてみたり。こんな姿、兄が見たらけしからん色気付いてと眉間に皺を寄せるかもしれない。上等だ。もっと寄せるといい。
ほんの少しいつもと違う自分になったところで、けたたましく地響きのような音が鳴る。ミニテーブルの上に置いてたスマホが着信により震えているせい。慌てて着信に出ると……
『ちょりーっす!』
「ちょ、り……?」
天城さんの声ではなかったので間違い電話かと画面を確認するも、そこにはしっかり天城燐音の文字。じゃあ、この声の主は誰なんだ?
『燐音くんは今運転中なので、代わりに僕が掛けてるっす!』
「……にきさん、ですか?」
代わりという事は、つまりこういう事だろう。天城さんの口から何度か聞いた名前を出して見ると『えぇっ!?なんで僕の名前知ってるんすか!?』と驚いていた。天城さんからよく話を聞いてる事を伝えると『僕の事好き過ぎるでしょ、燐音くん!』と何やらスマホの向こうで会話が始まる。
『またまた~……って僕達の話はいいんすよ!問題はなまえちゃんっす!もうすぐそちらに着くんすけど、準備とかどうっすかね~?』
「あ、え、あ、はい。いつでも出られる感じにはしてます」
『了解っす!着いたら燐音くんから連絡入れるんで!』
それじゃ!と通話が切れた。
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