続かない
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「……明日は雨が降るかもしれませんね」
美味しい椎名先輩のプリンを堪能したり、一彩くんや桜河くんがクレープをちょっとくれたり、先輩に呼ばれて返事をしながら振り返ればパンケーキを口に入れられたりして全員が頼んでいたのを食べられてなんだかんだ幸せいっぱいになっていた帰り際。
ヒメル先輩が先輩を驚いた顔で見ていた。
「違うっす、ヒメルくん!雨じゃなくて雪っすよ!」
椎名先輩までもがこんな事を言い出す始末。
隣で藍良くんも「ねぇ……燐音先輩ってこんな優しかったの?」と一彩くんに耳打ちしている。
「兄さんは、いつも優しいよ!」
「多分、格好付けたいだけや思うけどな」
藍良くんの問い掛けにいつも通りの声量と笑顔で答える一彩くん。耳打ちの意味がないね。桜河くんもヒメル先輩みたいに少し驚いたような表情で天城先輩を見ていた。
「なんだよ、みんなしてそんな信じられねぇみたいな顔で俺っちの事見てくれちゃって」
「そりゃあ驚くっすよね!?いつも大体無銭飲食なあの燐音くんがお金を払うなんて!!しかも、全員分!!」
そう、先輩は奢ってくれたのだ。
会計時に一人一人並ぶのは面倒くさいからまとめて払う、と。
奢って下さるならばとは言ったけど、その場のノリで言っただけで自分で払う気でいたからお金を渡そうとしたら「要らねぇよ」と拒否された。それは私にだけじゃなくて、藍良くんや桜河くんヒメル先輩までもがだ。
家に戻ったら返すよ、と財布を忘れた弟の一彩くんにでさえも「いいって言ってんだろ」と。
「その代わり、お前らにはちゃーんと協力して貰うかんな」
「……やはり、そちらの方でしたか。別に構いませんが」
「なんとなぁく、そんな気はしてましたけどねぇ。いいですよ、プリン美味しかったし」
「自分だけで頑張られへんのはちぃと情けないっちゅーか……まぁ、えぇけど」
「兄さんが困ってるなら協力するよ!」
先輩の言動の意図を察知したのか賛同をするから、私も意味が分からないけれど「微力ながら助太刀致します!」と伝えれば「真面目ちゃんはいいんだよ」と仲間外れにされた。
男同士の友情に女は入るな、ということか。
だったら、私には奢って貰う理由がなく返さなければ。慌てて財布を開けて千円札を先輩に差し出すと「奢るって約束だろ」と何故か受け取り拒否。
約束……?と思ったけれど、さっきの慰める対価の
話か。ならば、やはり返さないと駄目だ。慰めるどころか勉強を教えて貰ったのだから。あれこれ理由を付けなければ理由もないのに、奢って貰うなんて貸しを作ったみたいで嫌だから引き下がる事はせず受け取れと言わんばかりに千円札は差し出したままに。
「俺っち、女から金取る趣味ねぇって言っただろ。だから、これは仕舞っとけ」
無言で見続けると、やれやれと呆れたような表情で「じゃあ、次は真面目ちゃんが奢るってのでどうだ?」と提案してきた。奢られたなら奢り返すのが一番揉めなくて良いと思う。でも、流石にこの人数分を奢るとなると厳しいかもしれないけど、そうしなければ先輩は受け取ってくれそうにない。
「その方向でお願いします」
「よし、決まりだな。んじゃあ、行くぜ」
「へ?何処に?」
「帰るに決まってんだろ?どっか用事あんのか?」
「い、いや、帰るだけですけど」
何故か私の手をとって「じゃあな~」と皆に手を振り歩き出す先輩。えっ、どういう事?と意味が分からず戸惑いつつも皆に見送られながら先輩に着いていった。
これが、数分前の出来事。
今も手を繋がれたまま先輩の隣を歩いている。
椎名先輩のバイト先は、もうすっかり見えなくなっていた。
「美味かったか?ニキのプリン」
「……へ?あっ、はい!めちゃくちゃ美味しかったです!」
「だろ?アイツの作るやつは何でもうめぇんだけど、中でもプリンは格別なんだぜ」
急にこっちを見るから何事かと思えば……
先輩は私の答えを聞いて自慢気に、ふふんと笑った。
「一彩くんも言ってましたけど、もう他のプリンを食べようって気にならないです。でも、意外でした。先輩が甘いモノ食べるなんて」
「それ、良く言われんだよなぁ……そんなに俺っち甘いモン食いそうにねぇの?」
不思議そうに聞いて来るから、食べそうになくて辛いものが好きそうで、玉子焼きは砂糖より塩派ってな感じですねと伝えると「ん?玉子焼き?まぁ……玉子焼きは両方派だけどよ」と。
「欲張りさんですね、両方だなんて」
「真面目ちゃんはどっちなんだよ」
「勿論、砂糖ですね。甘い玉子焼きは最強です」
「だろうと思った。甘いモンすげぇ好きそうな顔してるしな」
「どういう顔なんですか、甘いモノが好きそうって。お肉付き放題のぶくぶく顔って事ですか?」
良い意味でないだろうから、ムッと睨むと先輩は何も言わずに少し目元を綻ばせて微笑んでいた。一彩くんを見る時とは、また少し違った優しい顔。
初めて見るその表情に、思わずときめく。
先輩は、顔も含めて悪そうな雰囲気とかも相まって兎に角格好良い。そんじょそこらのアイドルや俳優よりも遥かに。黙っていれば格好良さは更に増すから、ファンだという人達の中に男の子も居たりするくらいだ。
一彩くんは格好良いより可愛い要素が強くて、同じ感じなのかなって勝手に思っていたから、いざ本人を目の当たりにするとあまりにも格好良い要素が多くて緊張しっぱなしだった。
今日の昼休みの時も、間近で見た先輩の顔があまりにも良くて固まるしかなかった。そんな先輩に微笑まれて、ときめかない人は先ず居ないと思う。
「ぶくぶくより、ぷくぷくだろ?」
そう言って、私の片頬を抓む。
顔のお肉付き放題に関しては否定してくれないのか。
「ほんと柔けぇよな。何処まで伸びんだよ、これ」
むに、と両頬を引っ張られたかと思うと何故か顔が両手で包まれて先輩の顔が近付いてくる。澄み切った空の色をした瞳が、真剣に私だけを捉えていた。
多分、キスをされるのかもしれない。
天城先輩はキスしたい気分なのかな?
誰とでもする人とはしないって思ってたのに、いざこうやって見つめられてしまったら拒否出来ないってのをたった今知った。
初めてなんだけどなぁ……
初めてはもっと素敵な雰囲気でしたかったなぁ、と思いながらもその瞳を見つめ返し、ゆっくりと近付いて来る空色から逃げるように瞼を伏せ、ドキドキする中で唇の表面にほのかに温もりを感じた途端……
「もしや、そこに居るのは天城さんとみょうじさんでしょうか?」
何処からか聞こえた声に、さっと唇からも頬からも温もりが離れていった。二人一緒に声のした方へ振り向くと微笑む男の人が。
「か、風早先輩……こんにちは」
「こんにちは。お二人は、こんな場所で何をしようとなさっていたんです?」
「なんだっていいだろ、別に……」
何やらブツブツ言いながら頭を掻いて、風早先輩から目を反らす先輩。何をしようとしていたのかなんて、誰が見たってキスしようとしていたようにしか見えないと思う。
実際に、そうだったのだから。
先輩と私は確実にキスをしようとしていた。
「そうですね。お二人が何をしようとしていたのかは問いませんが、人目につくようなところでするのは止めていただきたいですな。ここは小学生も通る場所なんですから」
そう指摘されて顔へ一気に熱が集まる。
言われてみれば、ここは何処にでもある普通の歩道。隅っこであろうと、電柱の影であろうと、間違いなく公然の場だ。
「それよか、マヨイちゃんはどうしたんだ?夫婦みてぇに、いつも一緒に居んだろうが」
「例え夫婦であろうと、個人の時間は大切ですからな。マヨイさんは用事があるんですよ」
「んじゃあ、一人寂しく帰ってる最中に俺っち達を見つけたから声をかけたってか?」
「まさか。発情してる狼が幼気なウサギを襲おうとしていたので」
「お前もセコムだったな、そう言えば……」
はぁ……と溜息を吐く先輩と笑顔の風早先輩。
私にはセコムという人達が居る。
藍良くんと一彩くん、そして風早先輩らしいのだけど、先輩の言うセコムって一体何のことなんだろう。今まで良く分からず流して来たけど、ちゃんと意味を調べてみよう。
「……ったく……別にいいけどよ」
くそっ……とむくれ顔の先輩が、チラッと私に視線だけを寄越す。
「じゃあ、帰りましょうか」
先輩と私の間に割って入り、手を繋いで来た風早先輩。先輩も手を繋がれて「……マジかよ」と片手で顔を覆って絶望してたけど、離せと言わないし、離そうとしないところはやっぱり優しいんだなと思った。
「何を調べているのかな?」
「セコムの意味だよ」
家に帰ってから、セコムの意味を調べたけどセキュリティーコミュニケーションや警備会社の事しか出て来なくて本当に意味が分からず、学校に来てからも休み時間に検索結果を隈なく閲覧したけども、やっぱり分からない。
真面目ちゃんセコム。
私のセキュリティーコミュニケーション、私の警備会社って何のことなんだ!と頭を抱えていたら一彩くんが不思議そうな顔をしていた。
「セコム……とは兄さんが最近良く言ってるあれだね。藍良と僕と風早先輩にマヨイ先輩がそうらしいけど、何の事なのかは僕も良く分からないや」
礼瀬先輩もだったのは初耳ですけど。
いくら調べても分からないから先輩に直接聞けばいいか。多分、後で来るだろうし。教えてくれなかったら藍良くんに聞いてみよう。
