続かない
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「いらっしゃいませ~……って、こはくちゃんじゃないっすか!」
桜河くんの案内で辿り着いたのは、如何にもカフェ!というお洒落なお店だった。
店内は、学生服で入るには場違いのような気がする内装で入っても大丈夫なのかとヒヤヒヤしていると、黒いエプロンをした椎名先輩が出て来た。
「どうしちゃったんっすかー?揃いに揃って」
「椎名先輩がここでバイトしてるって聞いたから、来ちゃいました」
「椎名先輩の手作りプリンが美味しいと聞いたので!メニューにありますか?」
最早、頭の中はプリンの事しかなかった私に椎名先輩は一瞬きょとんとしてから「プリンはメニューにないっすね」と。
「な、ない……」
がくん、とあからさまに落ち込んでいると「あ、でも今作ってるとこっすよ!」と慌てる椎名先輩。
「燐音くんが食べたいって五月蝿いから、ちょうど今作ってたところで」
「という事は、まさか……」
「そのまさかだぜぇ!カノジョくん!」
キャハハ、とあの独特の笑い声が聞こえた方へ向くと「ハローハロー、ヒヨコちゃ!」と近くのテーブル席から手を振ってる天城先輩。その手前にはこちらに振り返っているヒメル先輩が。
「兄さん!やっぱり来ていたんだね!」
「まぁな。ちぃーっとばかり頭を使ったもんだから甘いモノが食べたくなってよ、食うならニキのプリンだなって事でメルメルを誘って来たわけ。こはくちゃんも誘ったけど無視されてるみたいだしな……」
「あ、ほんまや。メッセージ来てた事に気付いてへんかったわ」
スマホを確認した桜河くんに「俺っち、めちゃくちゃ傷付いたんだけどよ……どうしてくれんの?」なんて言葉とは裏腹に鋭い目つきでこちらを見る。
「別にどうもせんわ。あ、ニキはん。あっち座ってもえぇ?なんやここにはごっつ面倒くさいのが居るから」
「いいっすよ!なんだったらヒメルくんもこはくちゃん達と同じテーブルにしちゃうっすか?」
「それは助かりますね。ヒメルもちょうど天城の相手は面倒くさいと思っていたところなので」
「おいおーい。そんな露骨に仲間外れされたら燐音くん泣いちまうぜぇ?」
「兄さん、僕が居るから大丈夫だよ!」
「おー、そうだな。それに真面目ちゃんも居るし」
頬杖ついて「な?」と、私にニヒヒッと笑う。
「勿論、心優しい真面目ちゃんなら傷心な燐音くんを癒やしてくれんだろ?」
「奢ってくださるならば」
「えー、金取んのかよ。ま、いいけど……じゃあ、真面目ちゃんはココな」
「はーい」
座れ、とポンポンと叩いて指定されたのは先輩の隣。先輩が居る時点で、隣へ来るよう言われるんだろうなというのは察していたから言われた通りに従う。
結局は、二つのテーブルをくっつけてみんなで座る事に。もう内装がオシャレカフェで、いつもみたいに騒げない感じだなと畏まっていたら先輩が何を頼むのか聞いてきた。
「椎名先輩の手作りプリンですね」
「おっ、真面目ちゃんも食った事あんのか?ニキのプリン」
「ないです。美味しいって一彩くんから聞いたんですけど」
「じゃあ、ラッキーじゃね?俺っちが居なかったら食えなかったんだからな」
感謝しろよ~?なんて言いながら、わしゃわしゃと頭をボサボサにされたけど無抵抗。逆らうだけ無駄な事を知っているから。
「いつも思うんですが、嫌がらないのですね」
「嫌がったところで止めてくれないと思うんです」
「確かに……天城は、そういうとこありますから」
「でも、ちょっとは嫌がってぇ?燐音先輩のやる事なすこと受け入れてるから調子に乗って今日みたいにセクハラされちゃうんだよぉ」
お願いだからぁ、と抱き着いて来る藍良くん。
「藍ちゃんのそれも充分にセクハラなんじゃねぇの?」
「おれは燐音先輩と違って、下心なんてないからセクハラになりませんよ~だっ!」
「俺っちも下心なんかありませぇん」
べーっと両目を瞑って舌を出す藍良くん。
へへーんっと同じように舌を出す先輩。
そんな二人に挟まれながらお水を一口。
向かいでは、静かに珈琲を飲むヒメル先輩。
その隣でメニューを一緒に見てる一彩くんと桜河くん。
「つうかよ、こはくちゃんも一緒って珍しいじゃねぇか。いつもお前ら三人だけでぴよぴよ集まってんのに」
「兄さん!聞いて欲しいんだ!桜河くんが友達になってくれたんだよ!それで連絡先も交換したんだ!あ、交換の仕方も藍良に教えて貰いながらしたんだよ!」
一彩くんが嬉しそうに報告している。
先輩が居ると急に弟な一面を出して来るから、微笑ましい。
「それは良かったじゃねぇか」
そんな一彩くんを適当にあしらってると見せかけて、頬杖をついたその表情は態度や言葉とは違って優しいからびっくりである。ちょくちょく見かけるお兄ちゃんな顔だ。
「ん?どうした?真面目ちゃん。俺っちの事、見つめちゃって。キスしたいってか?して欲しいんならしようぜ。今日、し損ねたしな」
「そう思ってる女の子達は沢山居るでしょうけど、その中に私が入ってるとは思わないで欲しいです。あと、いつプリン来ますか?」
「つれねぇな……他の子ならさせてくれんのによ。プリンなら、もうすぐ来るんじゃねぇの?」
だったら、その他の子とすればいい。
想いを伝える気がない理由には、これもある。
天城先輩はモテるからちょこちょこ女の子達とも居るところを見るし、その女の子達が可愛かったり綺麗だったりするから告白したところで私みたいなちんちくりんは、相手にされないのが目に見えている。キスしようなんて言ってるのもただ揶揄かってるだけだろうし。
「ご注文は決まったっすか~?」
「わしはクレープやな。このチョコバナナちゅーやつ」
「おや、桜河。珍しいですね」
「ずっと、気になってて食べてみたかったんや」
「僕も桜河くんと同じやつで、フルーツのをお願いするよ!」
「おれはパンケーキ!」
各々、頼んでるのを聞きながらお母さんに晩御飯は少なめでとメッセージを送ってお願いしようとスマホを操作していると「そのアイコン、真面目ちゃんなんだな」と先輩が画面を覗いてきた。
「プライバシーの侵害で訴えますよ」
「さっき見たら、このアイコン表示されててよ。知らねぇ名前だし、誰かと思ってたんだよな」
そう言いながら自分もスマホを出して何やら操作していて、その数秒後にはあなたを友達追加しました、なんて通知が。
「勝手に追加しないで下さい」
「別にいいじゃねぇかよ。どうせ、何れはするんだしよ」
「なんでする事が前提なんですか」
「ウサギ、好きなのか?」
話を聞かない人だな、と思いつつ好きだと伝えると「ふーん」とだけ返されてそっぽ向き、ヒメル先輩と話を始めた。私のアイコンがウサギだから好きなのか聞いておいて興味がないのなら聞かないで欲しい。
プリンはまだかな、とそわそわしながらも何気なく何となく一彩くんを見ると先輩を見つめていて、本当にお兄ちゃんが大好きなんだなと思うとやっぱり微笑ましい。実は、密かに天城兄弟を推していたりする。
「そう言えば、あの問題はもうえぇん?」
「あの問題とはなんです?」
「……あぁっ!!全然、良くないんだけどぉ!!」
「すっかり忘れていたよ!」
「あの問題ってなんだ?」
「昼休みのやつです」
「あー……あれか」
先輩が教えてくれなかったから、桜河くんに教えて貰う事になったと説明すると「うるうるの上目使いでお願いしたのか?」なんて聞いてくる。
「私がうるうるの上目使い出来ない事、あの時知ったじゃないですか」
「やっぱり出来ねぇのかよ」
「あの問題を教えて貰う変わりに、桜河くんのお願いを三つ聞くという事になりました」
「その一つ目の願いが、僕達の仲間に入れて欲しいだったんだ!」
「で、おれ達はマブダチになったっていうわけでーす!」
説明する私達を見て、小馬鹿にしたように鼻で笑う天城先輩。
「マブダチ……ねぇ。そんな浅そうな仲で、マブダチなんて言えんのかよ」
ちょっと嫌な感じがして、ムッとしていると静かに珈琲を飲んでいたヒメル先輩が「男の嫉妬というのは醜いと思いませんか?天城」なんて言うから嫉妬?何に?誰が?と色んな疑問を持ちながら先輩を見つめると、はぁ?と言いたげに顔を顰めていた。
「何だよ、メルメル。俺っちが嫉妬してるとでも言いてぇの?」
「さぁ?聞いただけですし、貴方が何かに嫉妬していようともヒメルには何の関係ありませんから」
チラッとこちらを見て微笑んだヒメル先輩は、持っていたままのカップに口付ける。この二人は仲が良いのか悪いのか良く分からなくなるけど、しょっしゅう一緒に居る時点で仲は良いんだと思う。
さて、それよりプリンはまだか!と気にしながらもまだ分からないでいる問題を、先に教えて貰ってる藍良くんと一彩くんに早く混ざらねばとノートとペンケースを出して参加しようとしたのだけど。
「仕方ねぇから、俺っちが教えてやるよ」
なんて言いながら、私からノートを取り上げて勝手に開く。うるうるの上目使いしてないのに良いんですか?と見つめると「まぁ、早くニワトリさんになって貰いてぇしな」と。
結局、私だけ天城先輩に教えて貰う事になったのだけど……
「でっ、できた……!!」
あんなに悩んだ昼休みはなんだったのかと脱力感を覚えるほど、あっという間に解けてしまった。真剣に教えて貰えないだろうなと思っていたのだけど、先輩は丁寧に分かりやすくしっかりと教えてくれた。
「天城先輩、凄いです!」
あまりにもすんなり解けた事にキラキラと尊敬の眼差しを向ける私に、鼻の下を人差し指で擦りながら得意気な先輩。
「燐音くんは、こう見えて頭めちゃくちゃ良いっすからね~」
お待たせっす!と、プリンを持って来てくれた椎名先輩に「こう見えてってどういう意味だよ」と絡む先輩。あぁん?と大変ガラの悪い顔をしてらっしゃる。
「不良でしょう。つまり、頭も悪い」
「賢い不良もいんだろうが。それを言うならメルメルもって事だぜ?俺っちとつるんでる時点で同じように思われてんだからな」
「いやぁ、ヒメルくんとこはくちゃんに関してそれはないっすよ。とてもお利口さんなんで。ボクなら、燐音くんと同じように思われてる可能性はありえるっすけどね~」
コトン、と先輩と私の前に置かれたミルクボトル型のプリン。その可愛らしいプリンに私の中にある乙女な部分が爆発してしまい、興奮さながらに「椎名先輩、素敵です!素晴らしい!」と伝えると椎名先輩は「そ、そうっすか?」と片頬を指で掻きながら、なははぁと嬉しそうにしつつも照れていた。
「椎名先輩のセンス、ちょ~ラブいんですけどぉ!ねぇ、早く食べてみてよぉ~!」
「うんっ、食べるっ!」
スプーンを持って、手を合わせていただきますをしてからプリンを一口入れた途端、お口の中は一瞬にして幸せが広がっていった。
固過ぎず柔らか過ぎず、程よい甘さが体に染み渡る。あまりの美味しさに言葉が出なくて、顔の筋肉はゆるゆる、きっとだらしない表情になってると思う。
「藍良くん、どうしよぉ~!めちゃくちゃ美味しい~!」
「なまえ、周りに小さなお花が咲いてそうなくらいちょ~幸せそうだねぇ♡ね、おれにも一口ちょーだいっ?」
「うん、食べてみて!美味しい過ぎて、もう他のプリン食べられないよ!」
プリンを一口掬って、あーんと口を開けている藍良くんへ持って行こうとした私の手は後ろから伸びて来た手に掴まれて、そのプリンは藍良くんではなく先輩の口の中へと消えて行った。
「んー……やっぱりニキのプリンはうめぇな」
「もうっ、燐音先輩!今のはおれのだったのに!」
「何だよ。食いてぇなら俺っちのやろうか?まだ手付けてねぇからな。ニキのプリンはな、表面から食べてくのが一番うめぇんだぜ?」
「なんでそういうところで変に優しさ出してくんの……食べたいけど」
「じゃあ、ほらよ」
自分のプリンとスプーンを藍良くんの前に置くと天城先輩は「遠慮なく食って、藍ちゃんも立派なニワトリさんになっちまえ」と。
「でも、おれパンケーキ頼んじゃったし……」
「それは俺っちが貰うっつー事で」
「良いんですか……?」
「いつも弟クンが世話になってるしな」
先輩がそういうと、ぱぁっと顔を明るくさせて「今だけ燐音先輩が神に見える!ありがとうございます!」と目をキラキラと輝かせながら自分の前に置かれていたパンケーキを先輩の前へと運んだ。
「どないしてんな、燐音はん。えらい優しいやん。どういう風の吹き回しや?」
「別に~?可愛い後輩が食べたそうにしてるなら譲ってやるのが先輩ってやつっしょ」
「兄さん、僕もそのパンケーキ食べてみたいよ!」
「しゃーねぇな。だったら、半分こしようぜ。俺っちもパンケーキ食いてぇから」
「自分が食べたかっただけでしたか」
「最初からそう言えばいいのに。てっきり、なまえちゃんと藍良くんが間接キ……ひぃぃっ!」
天城先輩が持っていたフォークの先を椎名先輩の喉元へ。
「おっと、ワリィな!ニキ!手が滑っちまったぜ!」
手が滑った、とは言えないほどしっかりと狙って伸ばされた腕。椎名先輩が「器用な滑り方するんすね、燐音くんの腕は!」とか言ってるけど、突っ込むところが違うというか……
今までのやりとりの全てに挟まれていたけど、特に会話に混ざる事もせず藍良くんと同時にプリンを口に入れて、美味しい!と感動を分かち合う。
それを見ていたであろうヒメル先輩は「自由ですね」と微笑んでまた珈琲を飲んでいるし、一彩くんはクレープとパンケーキを半分ずつに分けていて、桜河くんはそわそわとクレープを見つめていた。
確かに自由だな、この空間は。
