しきうつり、紡ぐ。4
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儀式が始まって早々、二人のサバイバーを見付けた。発電機を一緒に直しながら二人は軽く雑談を交わしている。呑気だなあ、なんて思いながらゆっくりと彼女たちとの距離を詰めていくと、一人のサバイバーが何かに気付いたらしく、此方に一瞬だけ視線を向けた。
「…ねぇ、やっぱりこの発電機は私が一人で直すからネアは固有の発電機、直してきてくれない?後、出来れば二人で直した方がいいかな」
「え、いいけど…一人で任せて大丈夫?まだ二人で直した方がいいんじゃない?」
「ううん、固有も早く直った方がチェイスポジションで使いやすいからここは任せて」
一人が的確に指示をすると、もう一人のサバイバーは頷いて固有の建物の方に向かって行った。
…残念なことに一人逃げてしまった。折角、二人同時に殺れるチャンスだったのに。
仕方なく残った女に目を向ければ、女はすでに発電機から手を離して、ある程度離れたチェイスポジションに移動していた。
短いため息が出る。さっきの指示のタイミングといい、チェイス場所に行くタイミングといい、完璧だった。彼女はそういう女なのだ。
「……やってくれたね」
さっきの視線からして彼女には自分の居場所はバレていたことはわかっていたし、こうなると無理に隠れる意味もない。大人しく、彼女と対面する形になる。彼女は嬉しそうににこりと笑った。
「…何のことですか?」
「……俺に気付いたタイミングで彼女を安全な方に逃がした上に固有に行くように指示してたでしょ?…しかも、この発電機の場所は近くにはチェイスポジションがないから早めに移動してたし」
「…それくらいは普通にしますよ。だって相手がゴスフェさんとなると、全滅させられる可能性が高いですから打てる手は早めに打たないと」
「…食えないなあ」
こうやって呑気にお喋りしていたって、彼女はパレットがいつでも倒せる場所にいる。前みたいには簡単には殺させてはくれない。
「…ごめんなさい。私、やっぱりずっと考えていたんですけど、ゴスフェさんのことが好きです。諦められません」
「……はあ、またその話?この前の流れで終わったのかと思ってたけど」
「…終われません。なんならエンティティに内緒でお付き合いしませんか?バレたら罰は私が受けますから」
相変わらず彼女は俺の気持ちは無視して一方的な話を持ち掛ける。たかが恋愛ごときでエンティティの罰は自分が受けるだなんて、よくそんな気になるなと感心して鼻で笑う。
「それは無理だよ。エンティティは今もこの儀式を観てる。全部、筒抜けだよ」
「……なら、エンティティの許可が貰えればいいと?」
「エンティティが禁止にしてるのに貰える訳ないでしょ」
「…しつこくお願いすればわからないかもしれないですよ?」
「ないない」
俺は手を横に振って呆れたように返す。こんな下らないことに面白いくらい試行錯誤して懸命に抗おうとしている彼女がおかしい。今も何かを考え込む様に顎に手を当てて唸っているものだから、チャンスと思い、然り気無く距離を詰める。しかし、考え事をしていても無意識になのか彼女も一歩身を引いた。
そして、ややあって不満そうな顔を彼女は俺に向けた。
「……正直、エンティティがとか関係ないですよね?ゴスフェさんが私のこと好きになれないから理由をつけては断ってるだけでしょう?」
「…まあ、正直に言うとそれはそうだね」
「……」
「…キラーとしてはサバイバーの君は好きだよ」
彼女が明らかに悲しそうな顔をしているのがわかって思わず要らないフォローをしていた。とはいえ、恋愛対象には見れなくとも、狩りの対象としては好きなサバイバーというのは事実だ。嘘は言ってない。
「…それはそれで嬉しいですけど…。……どうしたら好きになってくれますか?好みのサバイバーの女の子は?」
「好みのサバイバーとかはいないかな。…どうしたら好きになってくれるかの質問にも答えられない。俺は本気で誰かを好きになったことなんてないからね」
「…恋をしたことがないってことですか?」
「そうだね。…彼女とかならいたことあるけど好きではなかったし、全部上辺だけだった。可愛いねとか好きだよとか適当な言葉で誤魔化してね。…そんな奴、嫌でしょ?」
「……私は、あなたをそんないい人だなんて思って好きになっていません」
はっきりとした口調で彼女はそう言った。
……そういえば彼女には何度も好意を告げられていたけど理由は一度も聞いたことがなかった。今までは一切、気にならなかったけど聞いてみるのもありかもしれないなんて何となく思った。ただの暇潰しの質問にしか過ぎないし、いい答えなんて全く期待してないけど。