しきうつり、紡ぐ。3
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「少しは気が変わりましたか?」
あれから例の女サバイバー、華紗音は相変わらず飽きもせずに儀式で俺と当たる度に好意を伝えてくる。発電機を修理しているタイミングで背後から奇襲を掛けたつもりだったのに、早くも彼女に気付かれ、奇襲は失敗に終わった。前よりも明らかに俺に対する耐性がついている気がする。
「いや、全く変わってないから安心して俺に殺されていいよ」
ナイフを指先でくるりと回し、構え直す。
彼女は俺を警戒してパレットがある場所で、いつでも倒せる距離を保って会話を続ける。会話途中でどうにか油断した隙に殺してやろうと考えるが、日に日に女の警戒心は強くなっていくばかりで中々、隙を見せてはくれない。
「殺される気は更々ありません。…それでは儀式が終わった後にデートでもしてくれませんか?」
彼女の予想外の言葉に思わず鼻で笑ってしまった。今度は何を言い出すかと思えば、キラーとサバイバーでデートなんて馬鹿げてる。そもそも、こんな血生臭い森にはデートスポットなんてロマンチックなものあるはずもない。まあ、ただ、儀式外で会って話したいって意味なんだろうけど。
「……デート?何で俺が儀式外でわざわざ君と会わなきゃいけない訳?冗談でしょ」
「…だって私達、儀式でしか会ったことないですしデートすれば、もっとお互いのこと知れて仲良くなれるかなあって」
「別に俺は君のことを知りたいとは思わないし、キラーとサバイバーが仲良くする必要性もない」
俺が至極真っ当なことを淡々と述べれば、女は寂しそうに眉を下げた。そんな顔をされたとしても、俺に情が沸くことはない。何を言われたとしても俺にとって目の前に居るサバイバーは狩って処刑しなければならない対象、という事実は変わらない。
こうして儀式中にする会話だって本当は時間を無駄に食うだけの無意味なものでしかない。…それでも、聞く耳を持たずに殺していた時に比べればまだ話を聞いているだけ優しいものだろう。
「……こういう話をするときくらい一端、キラーとサバイバーという話は置いときませんか?」
「無理だね。…それにさ、君は知らないかもしれないけど、キラーとサバイバーの恋愛は禁止されてるんだよ。エンティティが決めたルールで」
彼女が何故、俺に好意を抱いているのかは知らない。その言葉が本心からくるものなのか、それとも単なる興味本位のみでふざけているのかを知る術もない。
だけど、確かにわかることもある。嘘か本当か、一番それを簡単に見極められる部位は眼だ。口よりも、手の動きより、立ち方より、そこは全てを明確にする。初めこそどうでも良かった為に彼女の眼を真剣に見ることは無かったが、好意を伝えてくる女の眼は真っ直ぐに俺に向けられていた。彼女が俺に好意を告げる時の眼はいつも彼女が真剣に儀式に挑んでいるときと全く同じ眼をしている。それだけは毎回、変わらない。
まあ、だから何だと言われればそれだけだが、彼女は少なくとも俺と同じ儀式に当たった時に手を抜いたりはせずに全力で挑んでいることは知っていた。
…それでも儀式中に浮わついている発言はしている為に、隙をつかれたりはしているが、線引きはきちんとする性格なのだろう。
…それと、もうひとつわかることがあるとすれば、彼女は俺が何度もどんなに残酷な殺し方をしても俺に対する態度を変えなかったということだ。となると、彼女は簡単に俺を諦める気はないことは嫌でもわかってくる訳で今、改めて思い出したエンティティが決めたルールを持ち出した訳だ。
「…えっ、それは初知りです。サバイバーの間でもそんな話しは聞いたことありませんでした」
「まあ、禁止事項なんてキラーにしか言ってないと思うよ。…そもそも、キラーに惚れて告白してくるサバイバーなんて居るとも思ってないだろうしね」
「……もし、そういうことがあったとしてもキラーが受け入れなければ成立しないから…?」
「そうそう。残念だけど、そういうこともあってキラーとサバイバーの恋愛は無理なんだよね」
そう丁寧に説明してあげたけど、それでも彼女は納得いかない表情を浮かべていた。納得出来なくても納得してもらわなければいけない。
「……理由は?」
「…さあね。俺に聞かれてもわからないよ。エンティティにでも直接聞きに行ってみたら?」
そう言ってみたものの、大方、理由は想像つく。
恋愛なんてものはこの世界では不必要で儀式には要らないものだからだ。キラー同士、サバイバー同士ならまだしも、キラーとサバイバーの恋愛となれば色々と弊害が出る。諦めてもらう為と俺の話が事実だとわからせる為にわざわざエンティティに聞いてみれば?なんて意地の悪いことを言ったのは自覚している。そんな度胸がないことぐらいわかっているからだ。
俺は欠伸をひとつすると、伸びをする。
ランプが点いたのが目に入り、わりと近い位置の発電機の修理が完了したことがわかった。
そろそろ潮時だろう。
「…そろそろ行くよ。君は中々手がかかりそうだから後でかな。精々、今度こそ頑張って脱出してみなよ」
様子を伺っていたが結局、彼女の警戒心が解けることもなければ、隙をつくことも出来なかった。
それだけ言うと背を向けて他の雑魚を狩りに行こうとすれば、目の前に彼女が立ちはだかる。
「……まだ、何か?」
「行かせませんよ?目の前にこんな殺しやすい獲物が居るんですから先にこっちから相手してもらえませんかね?」
挑戦的な眼が俺を捕らえて離さない。
即座にナイフで彼女の喉を狙って突き刺そうとすれば、ひらりと躱された。余裕な笑みを浮かべて女は笑っている。
「…望むところだね。すぐにそんな顔、出来なくさせてあげるよ」
俺たちの不毛な会話が終われば、すぐにめちゃくちゃで有意義なチェイスが始まる。