夏といえば花火
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肝試しが終わった後はお待ちかねの花火大会だ。ちょうど、私達が出てきたときに花火が始まった。屋台で私はりんご飴をゴスフェさんはラムネを買って、花火が一番見えやすい特等席に移動する。ゴスフェさんが連れてきてくれた場所は花火が良く見えて尚且つ、人気がないベストスポットだった。
バァン!と大きな音がして真っ黒な夜空に大きな花が咲く。イベント期間が始まるときも花火が上がったりしてはいるけれど、浴衣を着て恋人と共に見る花火は特別感がある。いつか、こうやってゴスフェさんと普通のお出掛けデートをしてみたいと思っていたから、その夢が叶って心が満たされる。こんな世界でこんな夢のような日が過ごせてるなんて幸せ過ぎて少し恐くなる。
「綺麗ですね」
「ね」
「…ゴスフェさんにも私と同じように花火が綺麗に見えてるんですね」
「…何それ?」
「だって、私達は本来なら相容れない存在だから、きっと私の眼に映る景色とは違って見えるだろうなって…」
「……」
「…たまに思うんです。私はこの綺麗な花火を大好きな人と見れて幸せだけど、そう思ってるのは私だけなのかなって」
「…俺が実際に思ってなくても、君に合わせてそう言ってるだけって言いたいの?」
「…うん、そうですね。…嘘を言ってるとかではなくて、無理をさせてるんじゃないかって考えてしまうんです」
小さな花火や大きな花火、色とりどりの花火が立て続けに夜空に咲き乱れる。折角、恋人とこんな綺麗な花火を見ているのに、この場に似つかわしくないネガティヴなことを言っているのは自覚している。いつか、彼が私に飽きて誰かの元に行ってしまう日がくるかもしれないなんて何度も何度も考えていた。本当はもうとっくに私に飽きてても、無理に付き合ってくれてるだけかもしれない。会えない日の方がずっと多いから、そんな不安は消えなかった。面倒な女だと思われるのが嫌で一度足りともそんなことは言ったことなかったのに。夜空にパッと咲いて一瞬で消えてしまう花火が儚さを引き寄せるからかもしれない。
「…華紗音が言いたいことはわかるよ。俺が無理して君と付き合ってるんじゃないかっていうのは。…前の彼女とかは実際そうだったし…。だけど、君は違う」
「……」
「…前までは自分の為としか思ってなかったけど、今は君が喜んでる姿を隣でずっと見ていたいって本気で思う。面倒な浴衣をわざわざ着てきたのだって君の為だし、それは無理に合わせてるって訳じゃなくて俺が華紗音が喜ぶ姿が見たかったからそうしただけ。全部、俺の意思だから」
「…そう言ってもらえると、凄く嬉しいです。ありがとうございます」
「…それに、もし俺がこの花火を綺麗だと思えなかったとしても、別にいい。綺麗じゃなくても、華紗音と同じ時間を共有してるだけで心が満たされるし、たとえ君にどんな面倒なお願いされたとしても、嫌だとも思えないから」
「……嘘じゃないですか?」
「嘘じゃないよ」
「……本当に、信じてもいいですか?」
「本当に信じていいよ」
「…他の女にも絶対にそんなこと言ってないですか?」
「俺にそこまで言わせた女は華紗音しかいないな」
嬉しいなんて言葉では足りない。気を緩めたら今にも涙が溢れてしまいそうで、ぐっと下唇を噛んだ。今、一言でも喋ったら一緒に涙も落ちるだろう。彼に泣きそうな顔を見られないようにそっと顔を背けて、うつむく。
「下向いてたら、せっかくの綺麗な花火が見えないよ?」
それでも、わかっていて彼は私の顎を掴んで彼の方に向かせてきた。その拍子に涙が頬を伝った。結局、泣き顔を見られてしまった。
「…今日はやけに泣き虫だね」
「…キスしてくれたら、泣き止むかもしれません」
「何それ?新手の必殺技?俺にめちゃくちゃ効くんだけど」
「…だって、お願いすれば、どんなことだってしてくれるって言いましたよね?」
はいはい。そう面倒くさそうに返事しつつ、彼は楽しげに笑う。私が彼のマスクを外したら、唇が触れ合う。たった短いキスで良かったのに、会えない時間をずっと我慢していたようにキスは次第に深くなる。唇が離されたときゴスフェさんと視線がぶつかり、私は微笑む。つられたように彼も微笑んだ。
「華紗音、愛してる」
「私も愛してますよ。ダニー」
普段、行為中のときぐらいしか名前を呼ばないけれど、敢えて名前を呼んだら彼は少し驚いた顔をした。してやったりの気分だ。ゆっくりと彼の肩に頭を乗せた。こうして美しい花火を一緒に見てる時間も素敵だけど、もっと触れ合いたくなってくる。何となく疼く気持ちを抑えようとしていると、気持ちを察したように彼が囁いた。
「…後で覚悟しててね」
「何のことですか?」
「わかってるくせに。また純情ぶる」
「ぶってないです」
私は彼のことを大体こういう人だとしか一緒に居る短い時間だけで理解することしかできない。だけど、彼は私の全てを手に取るようにわかっている。いつも考えを先読みするように。その理由を聞いてみたら「いつも君のこと考えてるから」なんて嬉しくなるようなことを言ってくれた。
結局その後、花火大会が長すぎると痺れを切らした私達は先に部屋に戻ってしまった。花火もいいけど、浴衣姿を見れるのが一番と口にした彼に好き放題されたのは言うまでもない。
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