しきうつり、紡ぐ。2
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次にあの女サバイバーに会ったのはあの儀式から恐らく三週間ぐらい経ってからのことだろうか。
「この前の話し検討してくれましたか?」
女がそう言ってきた直後に持っていたナイフを彼女に向かって振りかざした。しかし、女はいとも簡単にその攻撃を後ろに下がって躱してみせた。
「…チッ、…俺のこと好きなら避けずにちゃんと刺さってよ」
「嫌です。そんな簡単に殺させません。それより私の話ちゃんと聞いてました?」
「…聞いてたよ」
そう言いながらまた、今度は首筋を狙ってナイフを振るう。女もまた、ギリギリでナイフを避けてくる。しかし一瞬、反応速度が遅れたのか、僅かにナイフの刃先が当り、首筋から少量の血が流れる。
「……やりますね。で、お返事は?」
「そうだなあ。……君が今、殺されてくれるって言うなら返してもいいけど」
「それは無理ですね」
「じゃあ、交渉決裂だ」
彼女は既に自分から距離を取ると、チェイスポジションに移動していた。
それからチェイスが始まる。
発電機が残り一台という所で、彼女とのチェイスの決着がついた。かなり時間がかかってしまったが、通電前に女をダウンさせることに成功した。残りのサバイバーも無事に処刑が完了する。
倒れている彼女の前にしゃがんで表情を窺えば、悔しさを耐えるように唇を噛み締めていた。
その表情を見て、俺は満足そうに笑った。
「残念。今日も俺に勝てなかったね」
「……次こそは、絶対に負けません…」
俺の煽りを真に受けることもなく、さっきまでの悔しそうな表情は一変して、鋭い眼で俺を見上げていた。
圧倒的に不利な状況でもその挑戦的な眼が光を失うことはない。……だからこそ、彼女はキラーに追われるサバイバーとして完璧だと思うようになっていた。最近は彼女との儀式が楽しみになりつつある。儀式に当たる度に彼女はチェイスから立ち回りまで見違える程、上達していた。上手くなると宣言してからまさかここまで仕上げてくるとは思っていなかった。
あくまでキラー目線としてだが、彼女と同じ儀式に当たると愉しくなってしまって仕方がない。
俺は彼女の顎を持ち上げてその表情をまじまじと見つめる。更なる屈辱を味合わせる為に。
「…次ねぇ。毎回言ってるけど、そんなこと言って一回も俺から逃げきれたことないじゃん」
「…もう少し、チェイス力をつけなきゃですね…でも、あなたの攻撃も大分、…読めるようになってきましたし、次こそは勝てる気がします」
「ハハ、すっごいポジティブだね。まあ精々、頑張って。……それと、告白の返事はノーね。今日はちょうどメメント持って来てるし、俺のコレクションにしてあげるよ」
カメラを取り出すと、わざと彼女に見せつける。
「……それは光栄ですね」
「全然、嬉しくなさそうなんだけど。折角、君の大好きな俺がメメントしてあげるって言ってるんだからもっと喜んでよ」
「…残念ですけど、殺されて喜べるような思考回路じゃないので、ただただ…今は悔しいです」
「そっか。何されても喜ぶのかと思ってた。そろそろ、終わらせるけど、何か言い残したことはある?」
カメラを地面に置きナイフを構えると、彼女の言葉を待つ。
「すきです。…これくらいじゃ、諦めませんから覚悟してて下さい」
彼女は精一杯、笑顔を作ってみせた。真っ直ぐな気持ちを受けて、俺も心臓を目掛けて真っ直ぐにナイフを突き刺した。一回、二回、三回。
グシャッ、ブシャッ、肉に刃物が突き刺さって心地好い音がした。顔を持ち上げるとパシャリと一枚、写真を撮る。
「…それはどこまで持つか楽しみだ」
彼女の苦しみに耐えている表情をカメラで確認すると、満足してポケットにしまった。