しきうつり、紡ぐ。21
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儀式が終わって疲れて自室に入ろうとしていたとき、あるキラーから声をかけられた。奴は半裸に金色の派手なコートを羽織り、ズボンも派手なストライプ柄の悪趣味な格好をしていた。知ってるキラーではあるが、あんまり奴と関わりたくないと思いつつ、返事をする。自信に満ち溢れた勘違い野郎が微笑んでいて気持ち悪い。
「ねぇ、ゴーストフェイス。少し話ししない?」
「…話し?君と話すことなんて何もないけど」
「そう?折角、君の愛しの彼女からの伝言を伝えにきたのに残念だな」
"愛しの彼女"
皮肉めいた言い方に、人を小馬鹿にしたような笑みを張り付けているけど、その言葉に思わずドアノブを掴んでいた手が離れる。間違いなく、その言葉は華紗音をさしているだろう。
「…華紗音のことを言ってるの?」
「勿論。君の愛しの彼女なんて一人しか居ないだろ?…まあ、ここで立ち話も何だし折角だから中で話さない?」
こんな奴を自分の部屋の中に入れるなんて嫌だなと思いながら、誰かにこの話を聞かれるのも嫌で渋々、部屋に招き入れる。奴は遠慮なく人のベッドに勝手に座った。そのことにも不快感を抱きながら、注意するのも面倒に感じて別のこと聞く。
「…華紗音と仲良いの?」
「仲良いよ。…というかさ、君と彼女の関係なんて誰にも口外してないんだろうからさっきの発言から察せるでしょ?」
一々、言い方が癪に障るけど、奴の言葉の意味を考えてみる。コイツは華紗音から伝言を預かる仲で、俺と彼女しか知り得ない情報を知っていた。…ああ、そういえば華紗音はあの時、『ミリと相手のキラーが自由に恋愛出来るようになったらいい』と言っていた。つまり、俺達以外でキラーとサバイバーで恋愛関係にあったのは華紗音の友達のミリとこの男だった訳だ。
「…ミリの恋人か」
「そうだよ、僕がミリの彼氏。やっと気付いたね。…にしても華紗音の恋人がこんな奴なんてちょっとショックだな~。彼女あんなに素敵なのに」
「うるさいな。君みたいな趣味悪い格好してる奴に言われたくないね」
「そんなこと言ってると、彼女からの伝言教えてあげないよ?」
うざ。思わず口に出してしまうところだったと思っていたら既に言っていたらしく、睨まれる。俺のこと悪く言ってるけど、コイツと付き合うのも相当、趣味悪いだろ。そもそも、その服装でキラーやってるとか馬鹿としか思えない。
「…それで、彼女なんて言ってたの?」
「頼んでくれてありがとうございます。それと頬の傷痕もありがとうございます。だって」
「…それだけ?」
「それだけだよ」
たったそれだけのことを伝言で頼むのも実に彼女らしいけど、あっさりしすぎて少し寂しいとさえ思える。だけど、少ないその伝言だけでも華紗音の喜んでいる姿が想像できて自然と頬が緩む。
それからトリックスターはまた口を開いた。
「……キラーとサバイバーの恋愛が許可されたのって華紗音と君が頼んだお陰なんでしょ?」
「…そうだよ」
「…有難いけど、その代わりに君達が会えなくなったこと納得出来てるの?」
「…俺はあんまり納得してなかったけど、それが彼女の願いだったからね。仕方ないんじゃないかな」
さっきまでは上機嫌だったトリックスターは俺の言葉を聞いて納得出来ないと言うように眉間に皺を寄せた。別に自分達は自由になった訳だからそんな顔する必要もないのに。
「僕だったら納得出来ないことはしないけどね」
「…関係だろ。俺は華紗音の意思を尊重したに過ぎない」
「…あっそ。別に僕は君のことはどうでもいいけど、華紗音はミリの友達だし、すごく良いコなのは知ってる。…出来る限り幸せになってほしいと思うよ」
トリックスターのその言葉が妙に苛ついて、投げやりのように短く返事をした。どうせ他人事だからって綺麗事を言われても此方としてはむかつくだけだ。ベッドから降りたトリックスターに背を向ければ、それ以上は何も言わずに出ていった。
彼女に会いたい、そう思う気持ちを押し殺して気を紛らわしていないと他の奴等が恨めしくてどうにかなりそうだった。この感情と共に彼女を忘れられたらどれだけ良かっただろうか。何度もそんなことを考えては、きっと華紗音はそれでもそんな現実と向き合って強く前を向いて歩いてるんだろうと思うと自分が情けなく感じた。
彼女がいないと俺はどんどんダメになっていく。
ただの弱くて脆い人間になる。