しきうつり、紡ぐ。20
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今日の儀式の場所はトンプソンハウスだ。
明るすぎて隠密するのに向かないけど、真っ暗なマップよりは好きな場所だ。トウモロコシ畑の中にある発電機を見つけ、一人で修理していく。キラーは誰だろうか。
初動からあんまり音がしないところから静かなキラーかななんて考える。静かなキラーといえば、私の頭の中に真っ先に浮かぶ人はゴスフェさんだ。勿論、間違っても彼と同じ儀式になるなんてことはないけど、そう期待してしまう自分がいる。会いたいななんて思っては儀式に集中しなくてはと頭を振る。
ただいまの発電機の修理進行度は半分くらいだ。このまま何も無ければ無事に修理が完了する。そう思った矢先、カキン、カキンと固い物が発電機に弾かれる音がした。その後、耳に入ったのはサバイバーの苦しそうな呼吸音と足音。見ればクローデットが負傷しながら脇腹を押さえてキラーから必死に逃げていた。キラーは彼女を目掛けて何本もナイフを投げる。よろよろと覚束ない足取りで逃げている彼女が放っておけなくて私は発電機から離れると、クローデットとキラーの間に入る。
ナイフは彼女の替わりに私の身体を掠めて、足や腕を容赦なく斬りつけていく。私がダウンしたとしても彼女が吊られるよりはいい。
何とか向かってくるナイフを確認しながら避けようとするけど先読みをされて的確に当てられていく。この状態でパレットを倒せば間違いなくすぐにダウンさせられてしまう。それなら物陰に身を隠しながら少しでも距離を取って一秒でも長くチェイスをしよう。
「…やっぱり華紗音はチェイスが上手だね」
発電機の二台分、修理が完了した音が聴こえた瞬間に私は仕留められて地面に倒れる。キラーは嬉しそうに褒めながら私を肩に担いだ。
「…よく、言いますよ。…全くチェイスさせてくれないくらい上手に当ててくる人が」
「そりゃ、当てなきゃ負けるからね。ごめんね」
キラーは謝りながら私をフックに吊るした。肩にフックが刺さる痛みで情けない声が出る。あまり上手くチェイスが出来なかったけれど、二台分時間を稼げただけで脱出できる可能性は上がる。…結局、私はやっぱり無意識に余計なお世話をしてしまうのかもしれない。クローデットにとっては無理に庇いに来るのは嫌だったかもしれないのに。この前、自分を大事にするとミリと約束したばかりなのに。
一人反省をしていればその間にもドワイトが救助に来てくれて手当てまでしてくれた。
その後は極力でしゃばらないように努めて儀式を行う。結果的に二人処刑されてしまったけど、通電はしたし何とかゲートを開ければ脱出できそうだ。
私とクローデットは同じゲートに向かい、先にクローデットがゲートのレバーに手をかけた。恐らく、このままでは開く前にキラーが此方に来てしまうだろう。
彼女にゲートを開けるのを任せて、私が時間を稼ぐしかない。案の定ナイフがあちこち飛んでくる。
「ジウンさん、此方ですよ!」
クローデットから気を逸らさせる為に私は声を上げて彼に合図をした。彼も敢えて私の挑発に乗ってくれてそのまま近くの小屋に逃げ込むと追ってきた。私は何とかナイフが当たらないように避けながら、彼と話をしようと声をかける。
「あの、ジウンさんにお願いがあるんですけど、頼んでもいいですか?」
「…お願い?何?」
そう聞き返しながら彼はナイフを投げる手をぴたりと止めた。私は小屋の窓枠越しにお礼を言う。
「ゴスフェさんに頼んでくれて、ありがとうございますって伝えてほしいんです。それからこの頬の怪我もありがとうございますって」
「…わかった。伝えとくよ」
「ありがとうございます!」
お礼を言いつつも、更々殺される気はないので急いで彼から離れようとすると呼び止められる。
「…傷痕が消えたのは良かったけど、本当にこれで良かったの?」
「……良いって言いたいですけど、流石にもう誤魔化せませんね。…でも、仕方ないと思ってます」
「…本当にもう、ミリが怒るのも納得するくらいお人好しだね。感謝はしてるけど、僕はこんなの納得してないよ」
「ありがとうございます。そうやって気にかけてもらえるだけで嬉しいです。…どうか、無理だけはしないでくださいね」
そう笑いかければ、ジウンさんも笑ってコラプスが終わっちゃうから早く行きなよ、と言った。心配して来てくれたクローデットと共に無事に儀式を脱出してハイタッチをした。今日の儀式は久しぶりに楽しい儀式だった。ゴスフェさんに直接会えなくてもこうして伝言を伝えてくれる優しい人がいるだけで救われている。