しきうつり、紡ぐ。16
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今日の儀式はいつもの儀式と少し違う。何故なら今日はサバイバーでこの世界に来たばっかりの新人さんと一緒の儀式になったからだ。彼女はまだここに来たばかりでマップのことも詳しくなければ、発電機についても詳しく知らない。他のサバイバーとはまだ会ってない為、近い場所に居た私が必然的に付きっきりで彼女に教えてあげることになった。
「あ、ほら、発電機があった。これを一緒に直そう。発電機が見付からない時は上のライトを目印に探すといいよ」
「本当だ。…これ、ここの配線を繋げてレバーを引けばいいの?」
「そうそう。発電機の修理ミスをしたりするとキラーに見付かりやすくなるから気をつけてね。後はキラーによっては発電機近くに罠を仕掛けていたりするからそれも気をつけて慎重にね」
「えっ、罠ってどんなの?」
「トラバサミって言って踏むと足が挟まれたりするのとか、地面に三角形のおまじないが書かれてるのを踏むとキラーがワープしてきたり…そんなとこかな」
「……えっ、キラーがワープしてくるの!?恐い!」
罠の説明を聞いた彼女は驚いて顔を強張らせた。あくまでもそういうキラーが居ると教えただけで恐がらせるつもりはなかったが、少し申し訳なくなる。
「…うん、まあ確かにびっくりはするかな。…でも今回は何があっても私があなたを守るから安心して」
彼女を安心させるように精一杯、笑ってみせた。すると、彼女も少しだけ頬を緩めて笑い返してくれてホッとする。出来るだけ自己犠牲をせずに儀式をするとジェイクとは約束したけど今だけは許してほしい。
初めはみんな何もわからないまま、不安で恐くて仕方がないものだ。初めての儀式で死んでしまうよりは出来る限り脱出して自信をつけて貰いたい。その為には私が死ぬとしても全力で彼女をサポートするべきだ。
この後は何をどう教えてあげようかなんて考えながら、もう少しで修理が完了しそうな発電機を直していく。
そのとき、一瞬、不穏な気配がした。急いで彼女に注意を呼び掛けようとしたとき、体が宙に浮く感覚がした。さっきまで目の前にあった発電機がなくて、変わりにさっきまで背後にあった景色が見えている。自分の足で歩いている訳ではないのに、そのままゆらゆらと景色が変わっていく。
……理解したくはなかったけど、どうやら私は発電機を修理していたところ、キラーに捕まって担がれているらしい。新人さんには安心して、なんて自信満々に言っておいて、こんな初歩的な発電機キャッチをされてしまうなんて情けなさすぎる…。自己嫌悪に陥って一人、反省していると、さっきの場所からある程度離れた場所でゆっくりと地面に降ろされた。不思議に思い、起き上がるとキラーを見て驚いて目を見開く。
「…ゴスフェさん…だったんですか…」
「びっくりしたでしょ?」
「…それはもう、すっごくびっくりしたし、すっごくショックです…」
そんな落ち込んでいる私を見て、ゴスフェさんは愉しそうに笑った。余計に恥ずかしくなるから笑わないでほしい。
「儀式であんな無防備な君、初めて見たなあ。まあ、あの新人サバイバーに教えていたせいでいつもより警戒心が足りなかったんだろうけど」
「…仰る通りです。いつもより注意が足りてませんでした。…もう、こんな間抜けな私は煮るなり焼くなり好きにして下さい…」
「…珍しく弱気だね。相当、落ち込んでるんだろうけど、今だけは殺さないでいてあげる」
ゴスフェさんらしくない台詞にどういう風の吹き回しだと見つめ返せば、彼は急に私の両手首を掴んだ。背後にあるゴツゴツした木に押し付けられてその場で捕らえられた私は身動きが取れなくなる。
「…なっ、何ですか?急に」
「……正直に答えてほしいんだけど、君って恋人いるの?」
「……え?恋人?」
儀式とは全く関係ない質問をされて一瞬、戸惑う。何でゴスフェさんが行きなりそんなこと聞いてくるのかわからなかった。だけど、いつもの彼とは違う少しだけピリついている雰囲気を感じとる。儀式のときの殺意とも少し違うけれど、声のトーンもさっきよりも少しだけ低い。掴まれた手首からは彼の力強さが感じられてこんな状況なのにドクドクと心臓がうるさくなる。
「…い、いませんけど…」
「……本当に?」
「本当です」
もう一度、聞き返されて私は迷わずに答えた。それでも何故か彼は私のその返事が腑に落ちないのか、何かを考え込むようにじっと私を見つめる。私は瞬きをすることも忘れて、唾を飲み込む。
「…ジェイクって奴とも何もないの?」
「何も?…何もないと思いますけど…。ゴスフェさんの質問の意図がわかりませんね」
「…キスもセックスもしてない?」
「…しっ、してません!私とジェイクはただのサバイバー仲間ですよ?何てこと聞くんですか…!?」
ゴスフェさんの予想外すぎるとんでもない質問に私の声が少し裏返った。どういう意図で聞いているのか全くわからないが、そんなことは絶対ないと言い切れる。今日はいつも以上に彼の考えがわからない。