しきうつり、紡ぐ。14
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彼女と儀式外で会う約束を取り付けた次の日、また儀式に呼ばれる。その時、直接エンティティに呼び出されることはなかったものの、頭の中に低い呻き声が囁いた。
"今日は五回連続、儀式で全滅を取れ"
ただ、それだけ告げられた。
簡単に言ってくれる。昨日より三回もプラスされた上に連続となると相当、面倒だ。昨日、彼女と会う約束をしたことを知っているのか、当て付けのように試練を課された。まさか、儀式外でさえ観られているなんてこの世界にはプライバシーはないのかとうんざりする。キラーとサバイバーの恋愛を禁止していたり、儀式外でサバイバーを殺すことを禁止してたりと少しぐらいは監視はしてそうだけど、ここまでくると気味が悪い。
それか俺達だけ異様に目をつけられている可能性もありそうだ。大きなため息を吐く。
それでもまだ、彼女と会うことを黙認して貰えてるだけマシなのかもしれない。どちらにせよ、これがクリア出来なければ彼女に会えないから言われた通りに殺るしかない。
何とか一回で五試合連続で全滅を取ることに成功した。
気を良くしたエンティティは"よくやった"なんて囁いてきたが、ただただ不快なだけだった。
流石に休憩無しで動きっぱなしだった為に自室に戻ると、シャワーも浴びずにベッドに倒れ込んだ。
……服についた血がシーツに染みるのがわかっていながらそのまま、動けずに意識を手放した。
どれくらいそうしていたかはわからない。
だけど、無意識に仮眠を取っていた自分の頭の中に大事な用事があったことを思い出して、慌てて体を起こした。……この世界には正確な時間なんて流れているのかもわからないが、もしかしたら一、二時間は寝ていたかもしれない。彼女を待たせて悪いとも思いながら、この血濡れの汚い格好では会いに行けないので、急いでシャワーを浴びて彼女の元に向かった。
もう痺れを切らして部屋に戻ってしまったかもしれない、なんて不安になりながら来れば、昨日と変わらずに月を眺めている彼女が居てほっとする。
「……ごめん、昨日より遅れた」
「えっ、全然、平気ですよ。謝らないで下さい。…寧ろ、忙しいのに私の為にわざわざ時間使わせちゃって申し訳ないです」
何故か俺より彼女の方が申し訳なさそうに謝る。俺が勝手に約束を取り付けたんだから華紗音が気にする理由なんてどこにもないのに。だけど、そんなところも彼女らしいなと思う。
「そんなこと気にしなくていいよ。俺が勝手に決めてるだけだし」
「……でも、ゴスフェさん、今すごく疲れてますよね?いつもより声に覇気がない気がします」
華紗音の俺に対する洞察力が鋭いのか、それとも隠せてないくらい自分が疲れているのかはわからないが、思わず力が抜けた笑いが漏れる。
「…よくわかったね。実は今日、儀式で五連続、全滅取れってエンティティに言われて疲れてたんだよね」
「えっ、ご、五連続全滅…!?そんな無茶なこと言われるんですか…?」
「…うん、まあ取れたけどね。…流石に俺も疲れちゃった」
「それなら私なんか気にせずに今日はお休みください。ゴスフェさんが倒れちゃったら大変ですから」
彼女は俺を心配そうに見ながらそんなことを言ってくる。……俺としては疲れてても癒される為に会いに来たのにそんなことを言われると少し寂しくなる。勿論、彼女が自分のことより俺の心配をした上でそう提案していることはわかっているけど。
「やだ」
「えっ、やだじゃないです!ダメです、帰って下さい!」
「…折角、会えたのに何でそんなこと言う訳?もしかして俺に会いたくなかった?」
俺らしくない台詞をわざと言うと、彼女はうっ、と悩むように言葉を詰まらせた。そんな様子が可笑しくてマスクの下でひっそりと笑った。
「…そんなことないですよ。ずっと会いたかったです。……でも、疲れてるのに私なんかの為に時間を割いてほしくありません」
「…俺がいいって言ってるのに?」
「……ゴスフェさんが何と言おうとダメです。何なら私がゴスフェさんのお部屋まで連れてきますよ」
頑なに彼女は譲らなかった。
流石に部屋に来てくれるなんて言われると、こっちが色々と誘惑に負けてオッケーしてしまいそうだ。まあ、勿論、危ないからダメだけど。頑固な彼女をどうやって納得せようか考えていれば、ふと名案が思い付く。
「……わかった。大人しく休めばいいんだよね?」
「そうです」
案の定、ほっとして頷いた彼女を見てニヤリと笑う。
「ならさ、今ここで休ませて」
「…え、ここで?自室でゆっくり休んだ方が良くないですか?ここだとベッドもないですし」
「だから君が膝枕してよ」
「……えっ、ひ、膝枕…!?何言ってるんですか!?」
「今すぐ休んでほしいんでしょ?なら、膝枕くらいしてくれても良くない?こんな疲れてるのに地べたに寝かせる気?」
「…いや、だから自室に戻った方が…」
「もう疲れて動けないから少し休憩しないと帰れない」
わざと子供じみたことを言って彼女を困らせてみる。華紗音は困ったようにうぅ…と唸った。これは悩んでいるだろうからもう一押ししたらやってくれそうと冷静に考える。
「昨日、君の手繋いでほしいってお願い聞いてあげたんだけどなあ」
「……わ、わかりました!もうわかりましたから…!……でも、私のでいいんですか?」
「勿論」
ついに折れた彼女は切り株から降りると、地べたにぺたんと座り恥ずかしそうにどうぞ、と太ももを叩いた。
そんな様子に思わずにやけてしまいそうになるのを抑えて、彼女の太ももに遠慮なく頭を乗せて寝転がる。すると、僅かに華紗音の体がぴくっと驚いたように震えた。それだけで口許が緩む。
むにむにと弾力のある柔らかい感触が心地好い。
「いいね」
「…よ、良くないです。10秒だけですよ?」
「10秒とか短すぎて休んだ気にならないよ。せめて後一時間くらいはして貰わないと」
「い、一時間は長過ぎます。足、痺れちゃいます」
「それは可哀想だね」
「…心が籠ってないです」
「…今日、頑張って全滅たくさん取ったから俺のこと褒めてくれてもいいよ?」
「…何ですか、それ。頑張ったのは偉いですけど、キラーが全滅取ったのを褒めるのはちょっと複雑です」
「素直に褒めてくれればいいのに。…何なら俺にもっとご褒美くれてもいいよ?」