しきうつり、紡ぐ。12
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やっぱり地味に嫌がらせをされてる気がする。
エンティティと拷問部屋で話して以降、前よりも更に華紗音と同じ儀式に当たらなくなった。色々と歯向かいすぎたせいで機嫌損ねちゃったかな。
…正直、ちょっと会いた過ぎて頭が可笑しくなりそうなんだけど。華紗音とは距離を置くべきだと自分の頭ではわかっているのに心が求めてる。今こんな風にしばらく会えないだけで気が狂いそうなのに本当に華紗音と一生、会えなくなったらどうなってしまうんだろう。あれからまた、エンティティに頼みに行こうとは思ってるのに願いが叶ったらもう一生会えないと思うと、どうしても足を運べない。
…覚悟を決めたはずだったのになあ。
今だってこんなに彼女のことばかり考えているせいで儀式に全く集中出来ていない。何も考えていなかった為、均等に吊りすぎてそろそろ通電してしまいそうなのにまだ一人も殺れていなかった。最低でも二人は処刑しなくてはいけないと考えていたタイミングで通電を知らせるブザーが鳴った。
急いで近くのゲートに向かうと、一人の女サバイバーが丁度ゲートのレバーに手をかけている所を見付けた。
…これはついている。このまま一撃で仕留めてやろう。しゃがみ状態から立ち上がると、ナイフを女に向かって振りかざした。
カキンッ
しかし、直前で自分の存在に気付いた女はギリギリで攻撃を避けた。ナイフは情けなくゲートの扉に当たり、虚しい音がした。
「……チッ」
完全にやらかした。
逃げようとした女を追い掛けようとした所で見覚えのある容姿にはっとする。この女サバイバーは華紗音が一番、仲良くしていたサバイバーだ。もしかしなくても彼女に伝えてもらえば儀式外で華紗音と会える、と直感的にそう思っていた。儀式中だというのに殺人鬼の本能より男としての本能が勝っていいのか、なんて考えはすぐに掻き消した。そんなこと、どうだっていい。今すぐに華紗音に会いたい。女も俺が追い掛けて来なかったことに疑問を持ったのか、何故か逃げなかった。
「……ねぇ、君、華紗音と仲いいんでしょ?」
警戒心を解かせる為にナイフをしまうと、彼女を出来るだけ恐がらせないように声を掛けた。
「……そう、だけど?」
「…華紗音に今夜、サバイバーの拠点に近い森に来てって伝えてもらえるかな」
「……わかった」
「…ありがとう、助かる。お礼に逃がしてあげるよ」
彼女は短くお礼を言うとゲートを開けて出て行った。
これでやっと華紗音に会える。儀式の結果は全逃げという俺らしくもない酷い結果だというのに、彼女に会えるというだけで、そんなことはどうでもいいと思ってしまう。殺人鬼、失格だ。
上機嫌で儀式を終えて早く自室に戻ってシャワーでも浴びようと思っていた矢先、視界が暗転する。気が付いたら真っ黒な部屋にいた。
……どうやら強制的に拷問部屋に連れてこられたらしい。エンティティの機嫌を損ねる結果を出したのは認めるけど、今ぐらい許してほしいものだ。
「……何か用ですかね?俺、忙しいんだけど」
"……儀式で録な結果も残せずに女と会おうとするなんて許すと思うか?"
流石にこの前、会ったときよりもエンティティの機嫌が明らかに悪いのは空気と声の圧だけでも嫌という程わかる。あんまりいつもみたいにおどけた調子で話していると長い爪で腹を貫ねかれない。
「…それは悪かったよ。次からは必ず全滅取るから。今日は早く戻してくれない?」
"……これが恋愛することの弊害だと思わないか?"
「…全く思わないね。そもそも、それはアンタがわざと彼女と儀式を当たらないようにしなければこんなことにならなくて済んだと思ってるからね」
"お前が殺人鬼として半端なことをしてるからだろう。間違いなくお前はあの女に恋してから堕落している"
「…関係ないよ。それでもずっと全滅取ってたんだし。調子狂ったのはアンタが俺に嫌がらせしてきたあたりから」
"嫌がらせではなく、躾だ"
「はいはい。どっちでもいいよ、そんなこと。取り敢えず、拷問も受けるから早く終わらしてほしいな」
"拷問はしない。かわりに今から二連続、儀式で全滅を取ってこい"
「……は?今から?だから用事あるって言ってるんだけど、明日じゃダメ?」
拷問を免れたのは良かったけど、かわりに今から儀式に出なきゃいけないなら最悪だ。俺が夜に華紗音と会う予定があるのをわかっててわざとやってるっていうのが心底、腹立つ。
"…それはお前がさっさと全滅を取って儀式を終わらせれば十分、間に合うだろう?"
「……わかった。アンタのお望み通り、二試合とも全滅を取ってくるよ」
多分、いくら文句を言ったとしても強制的に儀式に出されるだろう。だったらさっさと儀式を済まして結果を出せばいいだけの話だ。
目を開いたときにはコール・タワーに立っていた。さて、最速で儀式を終わらせなければ。