しきうつり、紡ぐ。11
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最近の私は非常に複雑な心境である。
儀式では余計な考え事をしていると仲間に迷惑をかけてしまったり、状況判断が鈍ったり、隙がうまれたりするので一切、その事を忘れて儀式に挑んでいるつもりだ。
だけど、儀式外では想い人のことばかり考えていた。
……彼、ゴスフェさんのことが理解出来ない。
今までは冷たくあしらわれていたというよりは彼はキラーとして全うに儀式をこなし、私を殺しにくるだけだった。私自身、彼にはただの鬱陶しいサバイバーとしか思われていなかったと認識していた。
なのに、ゴスフェさんとしばらく儀式で会わなくなってから久しぶりに会った時には少し様子が違った。
前回の失敗から反省した私はゴスフェさんへの想いを断ち切ろうとしていた。だけど、彼はそれを拒むような発言をした。どうして今更そんなことを言ってくるのかわからなくて、ダメだと思うのに、馬鹿な私は素直にその事実を喜びたくなってしまう。
だけど、何度も言葉の意味を考え、彼の性格からも考えてみた結果、その理由も簡単に答えが出た。
彼はお世辞にも性格が良いとは言えない。大好きな人ではあるけど、それは確実に言える。それをわかった上で私は彼に好意を寄せている訳だし、少し子供っぽくて意地の悪いところも好きだ。
それを踏まえると恐らく、彼は私で遊んでいる。
私が離れようとしたらそれをダメだと言うのは、彼は私を好きになることはないけど、自分を好きでいてほしいと思っているんだろう。……わかっていたけど、なんて狡くて意地悪な人なんだろう。それなのに、私はそんな彼をもっと好きになっていく。ダメだと思えば思う程、ドツボに嵌まったようにどんどん好きになる。
本当に彼が言ったように普通のサバイバーの人を好きになれたらどれだけ良かっただろう。
私は何度目かわからないため息を吐くと、とうに冷めてしまったココアを一口、飲んだ。
でも、どうやってもこの世界に来た時点で彼を好きになることは抗えなかった気がする。
こんな地獄みたいな世界なのに、あんなに生き生きと楽しそうにサバイバーを狩り続けるキラーはあんまり居ない。他のキラーの事情をあんまり詳しくは知らないけど、死んだ眼をしていたり、疲れた顔をしてたり、心成しか辛そうに人を殺すキラーも居る。彼らもエンティティにこの世界に無理矢理連れて来られた側の人間で、望んでそれを行なっているのは極少数だということがわかる。
私も今こそはこの異様な世界に慣れてきてしまっているが、最初は気が気じゃなかったのを覚えている。儀式は嫌なのに、それは拒めなくて心身共に疲弊しては毎日ひっそり泣いていたぐらいには辛かった。
だけど、私はゴスフェさんに会って考えが変わった。こんな可笑しな世界で真っ当な感性を持って苦しむくらいなら、楽しんでやればいいと思った。元々、負けず嫌いの性格もあり、私は儀式をこなして成長していくことが好きになっていった。今でも自分の判断ミスで仲間が死んだりするのを目の当たりにする度に、自分の無力さを噛み締めるけど、それさえ、私は次の儀式の糧になると考えられる。そう思えるのは全て、ゴスフェさんのお陰だ。彼が居れば私は成長し続けられるし、どんな困難だって乗り越えてみせようと思える。
そんなところも含めて私は彼が好きだ。
…まあ、儀式のことや仲間のことを考えるとこの膨らんでいく想いは厄介でしかないけど。
だけど、ゴスフェさんがキラーを全うしているように、私自身、サバイバーとして自分のスタンスを変えるつもりはない。
色々、考えてはもう寝ようと立ち上がりベッドに向かうところで急に視界が暗転した。
気付いたらトンプソンハウスに立っていた。
遠くからチェンソーの音が聞こえてくる。残念ながら相手は大好きな彼ではないが、楽しみで自然と口許が緩んだ。