しきうつり、紡ぐ。10
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「…あ!ゴスフェさん!」
拷問部屋を出てから自室に向かおうとしていたら、前方から華紗音が走ってこっちに向かってきていた。……何でこんなところに居るんだ?ここはキラーの拠点なのに。
「…どうしてこんなところに居るの?」
「ゴスフェさんが拷問部屋に向かったって聞いたから、居ても立っても居られなくて来ちゃいました」
悪びれなく、無邪気な笑顔で言われると怒りたいのに怒れなくなる。あれ程、危ないことはしないでって言ったにどうして言うことが聞けないのかな。
儀式外で彼女と会ったのは初めてだった為に、嬉しいと思うのにこんな状況だと素直に喜べない。
「……来ちゃいました、じゃないでしょ?危ないことはしないでって言ったよね?キラーの拠点なんて歩いてたらうっかり殺意高い奴に会ったら殺されかねないよ?」
むぎゅっと、華紗音の両頬を右手で掴んでお説教をしてやる。
「…むっ、も、もめんにゃしゃい…」
変顔になってるのに、下げられた眉がしゅんとしているのと、謝り方が可愛すぎて思わず簡単に許してしまいたくなる。
「…はあ、もう危ないことはしないって復唱して」
「…もう危ないことはしません…」
「こっち見て言ってくれる?明らかに破る気満々な態度で言われてもね」
「もう危ないことはしません…!」
「はい、よく出来ました。…言っておくけど、君のこと心配して言ってるんだからね?」
「…わかってます。ありがとうございます。…だけど、私だってゴスフェさんが心配だったんです…。怪我とかしてませんか?」
「してないよ。俺は君と違って上手くやれる自信があったからね」
「そうなんですか。流石ですね!…で、どうだったんでしょうか?」
先程のエンティティとのやり取りの一部始終をもう一度思い出す。…確信があった。
「……あともうひと押しって感じかな?」
「えっ、ほ、本当に?じゃあ、今度二人で行きましょうよ!」
「…何でさっきのやり取りをした後にすぐにそんなことが言えるの?反省してないでしょ?」
「えっ、違います!一人で行くって言ったら怒られると思ったので二人でと提案しました!ゴスフェさんと一緒ならいいかな、と」
「危ないことに変わりはないから駄目。…それに二人でなんて行ったら今度こそエンティティの逆鱗に触れる気がする」
「……それは何か理由があるんでしょうか?」
「…まあ、多分だけど俺たちがイチャイチャしているのが気に入らないだけだと思うよ」
「…えっ、そんな理由?イチャイチャってそんなことしてないですし」
「そう見えるんだよ。ガキみたいだよね」
「…まあ、確かにそう言われればそうかもしれません。私にはゴスフェさんもたまに子どもっぽく見えますけど」
「…どこが?」
「…んー、無邪気に人を殺し回ったり、人が悔しがっていたり、苦しんでると愉しそうにしてるところとか。…でも、かと思えば急に冷静になって大人っぽくなったり……本当にあなたって人はよくわかりませんね」
華紗音は困ったように柔らかく微笑んだ。
めちゃくちゃ俺こと分析してる。
…それだけよく俺のことをよく見てるってことなんだろうけど、なんかこうもストレートに言われると照れるな。どちらかとも言わず俺はいつも一方的に見る側だから尚更だ。
「…まあ、わりと自覚はあるかな。そんなに俺のことよく見てるんだ?」
「はい、勿論!儀式では相手を知ることが大事ですから」
「…あれ?思ってた返答と違う」
「…?何ですか?」
「……俺は好きだからって返してくれると思ってたんだけど」
思わず自分らしからぬことを言ってしまった。
だけど思い返してみれば、最近、華紗音は前みたいに俺に好きとは言ってくれなくなった気がする。まあ、そもそも前みたいに告白のやり取りをしなくなったからなのかもしれないけど。
「……好きって言ってほしいんですか…?」
「…まあ、そりゃ可愛い女の子に好きって言われて嬉しくない男はいないでしょ」
「……はあ、本当にゴスフェさんはずるい人ですね。…あれだけ私が告白してきても露骨に嫌そうにしてたのに」
「……それは、どうしようも出来ないから困ってたけど、嫌だとは思ってなかったよ?」
「…それは困らせてすみませんでした。…もう言いませんから」
「…いや、言ってくれてもいいんだよ?」
「……言いませんよ。そうやってずるい誘導尋問しないでください。私だけが好きだから、ゴスフェさんの好きは聞けないし、言い損です」
何だか拗ねてしまったようで彼女はプイッとそっぽを向いてしまった。まさかそんな反応を返されるとは思ってなかったな。まあ、確かに前の態度を考えると悪いことをしてたとは思うけど、それは彼女の為でもあった訳で。……結局、彼女と関わるべきじゃないと思っていても、今は彼女と一緒に居る時間を求めるようになってしまったけれど。
ごめんと謝って宥めていれば、いつの間にかキラーの拠点を出て、サバイバーの拠点と繋がっている中間地点の森に着いてしまった。
「…あっという間に着いてしまいましたね。もう少しお話してたかったなあ。ここまで送ってくれてありがとうございました」
「…うん。…俺の方こそ、今日はありがとう。危ないことはしてほしくないけど心配して来てくれたことは嬉しかったよ」
「…そっか。それなら良かった。おやすみなさい、ゴスフェさん」
「おやすみ、華紗音」
笑顔で手を振る華紗音に背を向けてキラーの拠点へとまた戻る。……実は彼女より俺の方が離れるのを寂しがっているのかもしれない。そう思ったら、自分が滑稽過ぎて笑えた。