しきうつり、紡ぐ。9
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案の定、儀式の後すぐにエンティティに呼び出された。この全面、真っ暗で気が狂ってしまいそうになる空間が通称、エンティティの拷問部屋と呼ばれている。儀式と同じ亜空間にも思えるが、実際にこの部屋は通常の自分たちが生活している空間と同じらしく、この部屋で受けた傷は全て身体に残る。まあ、儀式で怪我した場合はどんな怪我でも(例え死んでも)治るけど、儀式外の怪我は残るのと同じ仕組みだ。
待っていたと言わんばかりに長く鋭い爪を持つ蜘蛛脚が暗闇の中から現れた。やはりいざ、本人を目の前にすると威厳があって、この部屋に来るとビリビリと圧みたいなものを身体全体で感じる。儀式に現れるエンティティなら唯のエンティティの一部に過ぎないから何とも思わないんだけど。
"何の用だ?"
低く獣の様な声が問い掛けてくる。
本当に趣味が悪い邪神だ。
「…何の用だって自分で呼び出しといてそれはないんじゃない?どうせ俺が何を言いたいかなんてわかってるでしょ」
"…あのサバイバーについてか?"
「そうだよ。他にもあるけどそれが一番、言いたかった。……正直、今までアンタに逆らったことなんてないし、本当はそんなキャラじゃないけど、流石にアレは俺だって怒るよ。女の顔のあんな見える位置に態々、つけて趣味悪すぎるって」
"女だろうがサバイバーだろうが関係ない。わたしに逆らったから罰を与えただけだ"
「……罰、ねぇ。俺は儀式の成績もいいし、歯向かったりしないし、アンタに気に入られてる自信はある。だから今こんな無謀なことしてるけどさ、どうせ華紗音のことが気に入らないだけなんだろ?罰受けさせる程の事を彼女がしたなんて俺は思わないんだけど」
"…罰を与えるべきかどうかはわたしが決める。お前が一々、口を出すことじゃない"
「はいはい、俺は思わないってただ思ったことを言っただけですよ。気に入らないなら濁さずにはっきり言えばいいのにさ」
"……わたしは気に入らない者を態々、この世界に連れてきたりはしない。…ただ、あの女は少々、想定外な動きをする。それがたまに癪に障るくらいだ"
「……へぇ、成る程ね。意外だな。その言い方、アンタ、実は華紗音のこと逆に気に入ってるみたいだね。イレギュラーな動きする奴も好きなんだ?自分に従順な奴しか好いてないと思ってたよ」
"…躾概がある奴は面白いからな"
「…うわ、流石ドS。そりゃ調教し概があると面白いだろうね」
"……お前はそんな下らない話をする為にここに来たのか?"
「ううん、まあ、これはただの雑談だよ。たまには部下とのコミュニケーションも大事だよ?」
おどけてそんな風に言えば、言い方が気に入らなかったのか、目の前に勢いよく鋭い爪が振り落とされた。驚いて床を見れば真っ黒な床には爪が突き刺さっていてその部分がべっこりと凹んでいる。流石に額に冷や汗が伝うのがわかった。
「ご、ごめん、何か癪に触った?謝るからそんなに怒らないでよ。これから本題話すからさ」
"クク、これもただの部下とのコミュニケーションの一部だから気にするな"
本当に引くほど趣味が悪い奴とは思ったけど流石に口にはしなかった。あんまりダラダラと意味のない長話しをすることをエンティティが好まないことは知っている。
「…でさ、華紗音のあの怪我、エンティティ様の力で何とか治せない?」
"……何、馬鹿なことを言っている?治せる訳ないだろう"
「……傷痕を消すことも出来ないの?」
"…何を勘違いしているのか知らないが、それは無理だな。わたしを何だと思ってるんだ"
「……アンタ、この世界の神様だろ?何でも思い通りに出来るならあんな怪我治すなんてわけないんじゃないかと思ってるんだけど」
"……後のもう一つの話しは?"
それ以上、その話しはしたくないのか話を反らされた。しつこく聞いてまた不機嫌になられても困るし、気に入らないけど、今は流すしかないか。
「……華紗音から頼まれたことだよ。キラーとサバイバーの恋愛を見逃してくださいっていうピュアなお願い」
"…下らない。そんなことを許可した所でわたしに得はない"
「得とかの話じゃないでしょ。それに別にエンティティ様の都合が悪くなることもないんだし。…情が移ることを心配してるならさ、恋人同士で同じ儀式に当たらないようにすればいいだけじゃん」
"……何故、わたしがお前たちの為にそんな面倒なことをしなければならない?"
「……そこまで面倒なの?儀式のメンバーなんてどうせエンティティ様のその日の気分で選んでるんでしょ?」