しきうつり、紡ぐ。8
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから何故か、わりと頻繁に華紗音と一緒に当たっていた儀式はしばらく当たらなくなった。
エンティティの気紛れで儀式を組んでメンバーを決めているだろうからただの気紛れだろうが、ここまで会えないと流石にモヤモヤする。
今日もまた、起きてそうそう儀式に駆り出されて気乗りがしないまま、儀式を開始する。
どのサバイバーから殺ろうかと考えていれば、早くも発電機の修理をしている一人のサバイバーを見付けた。一人で直している為、奇襲は掛けやすい。もう少しサバイバーが見えやすい位置まで近付き、さあ攻撃しようとナイフを構えた手がぴたりと止まった。そのサバイバーの横顔はよく見知った顔だった。華紗音だ。
だけど、会いたかった彼女に久しぶりに会えた嬉しさよりも今は驚きの方が大きかった。
「……これ、どうしたの?」
極力、彼女には関わらないように儀式を行うつもりでいたが、彼女を見付けたときに思わず声を掛けていた。
触れた彼女の頬には三つの爪痕のように頬の肉を抉られた傷があった。メイクじゃとても隠しきれない傷だった。彼女は驚いた顔をした後、言い淀み、困ったように微笑む。
「……これは前の儀式の怪我で…」
「…儀式の怪我は残らないはずでしょ?」
「…さっき、ちょっと猫に引っ掛かれて…」
「無理ありすぎ。こんなとこに猫なんていないし、猫の爪でこんな酷い痕になる訳ない」
問い詰めると彼女は困った顔をしながら懸命に理由を考えているようだった。
間違いなく、儀式外で何かあったのは確実だ。だけど、彼女が仲間のサバイバー達と喧嘩なんてものをするとは思えない。…苛めなんてものもまずあり得ないだろう。彼女が言いたくないことなのはわかる。だけど、久しぶりに会って知らぬ間にこんな怪我をしていたら誰だって気になる。
「…気にしないで下さい。ゴスフェさんには関係ないことですから。…それよりこんな隙だらけの状況で私を殺さないんですか?」
華紗音はそう誤魔化すように笑った。
……関係ないこと。確かにキラーとしてはそうかもしれないけど、今の俺にとっては大事なことだった。彼女を殺すとかよりも先に気になってしまうぐらいには。あまりに他人行儀な発言に少し苛つきながら、更に問い質す。
「そんなこと今はどうだっていい。…教えて。関係なくてもいいから」
「……」
等々、彼女は俯いて黙ってしまった。いつもはっきりしている彼女らしくない。よっぽど自分には教えたくないことなのかもしれない。けれど、流石にこれは引き下がれなかった。
「…教えてくれないなら、この儀式は一生、終わらないよ」
逃がすつもりはないと手首を掴んでそう言えば、彼女は観念したようにため息を小さく吐くと笑った。
「…仕方ないですね。…これは馬鹿な私が勝手に負った傷です。エンティティにこの世界でキラーとサバイバーの恋愛を許可してくださいと頼んだんです。…結果、返事はこの傷です」
エンティティが彼女にわざとつくった傷。
通りで消えない爪痕の怪我だった訳だ。前からそんなこと頼んでも無駄だと言っていたのに頼みに行くんだから馬鹿な華紗音も自業自得だと思う。…だけど、前に彼女にエンティティに聞きに行けば?なんてけしかけたのは自分だった為に罪悪感みたいなものが込み上げてくる。まさか、それで本当にあんなエンティティに直接会いに行くなんて思ってもみなかったからだ。
…この件は確かに俺も悪いから華紗音だけに怒るのも、エンティティに腹が立っているのも変な話かもしれないけど、妙に許せないという感情が沸いてくる。
今まで自分だって彼女を平気で何度も殺してきたけど、それはキラーとしては当然やらなくてはいけないことをしただけだ。エンティティはそこまでしなくていいことをして彼女に消えない傷痕を作った。