しきうつり、紡ぐ。7
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「……はあ」
先程、儀式を終えて自室に戻ってきた。儀式は勿論、全滅という形で気持ち良く終らせられた。だけど、何故だかすっきりしない。…いや、さっきの儀式が終わってからというよりも、もっと前からずっとモヤモヤしていた。
……華紗音、あの女サバイバーから自分を好きになった理由を聞いたあの日から俺の中の何かが変わった気がする。もう、ずっと変な感覚だった。
『あなたは真っ直ぐで迷いがない人だから』
『自分のやりたいように生きてるって感じでいつも楽しそうに見えて、迷いがなくて素敵だなって思ってて。会う度、そう実感するようになって…気が付いたら、あなたのことばかり考えていました』
何度も何度もあの言葉が自分の中で鮮明に繰り返される。ほんのり頬を染め、真っ直ぐで綺麗な瞳をしっかり向けて俺だけに告げられた言葉。
それが何度忘れようとしても何故か忘れられなかった。
今まで好きだと何回言われたって何とも思わずに彼女を平気で殺してきた。それは本当に彼女のことをただの変なサバイバーとしか見てなかったし、何とも思っていなかったからだ。だけど、今までの俺はあの日まで彼女にしっかり眼を向けずにいただけだったのかもしれないと思うようになった。殺人鬼の俺を否定しようとせずに見てくれていた彼女をわざと見ないようにしていた。
最初はきっと自分の容姿に自信があるから調子に乗って殺人鬼である俺に興味本位で近付いてきた馬鹿な女としか思ってなかった。本当に好きでもないのに、俺を手玉に取れると勘違いしてるなら思い知らせてやろうと思っていた。わざと見逃すふりをして騙して殺してやったり、メメントをしてやったり、不必要に付け狙って同じ儀式になれば彼女だけは何としても必ず殺していた。
だけど、何度そんな嫌がらせをしても、何度告白を断って迷惑そうにしても彼女は折れなかった。儀式で俺に会うたび、幸せを噛み締めるように嬉しそうに笑って、頬を染めて真っ直ぐに告白してくる。次第に俺は彼女を邪険にするのも、残酷な殺し方をすることもしなくなった。彼女にとっては俺が好きという事実は何をしても変わらないと気付いたからだ。
まあ、それだけ関わっていれば嫌でも自分とは真逆の人間で誰からも愛されて御綺麗な世界で育った子だというのはわかる。だから、嫌だった。無意識の内に彼女を俺で汚したくないと思うようになっていたのかもしれない。
逆にこれが彼女みたいな綺麗な人間ではなく、録でもない女ならすぐに付き合う選択をしてただろう。
どうでもいい女なら適当に遊んで満足したら捨てればいいだけだ。でも良心とか罪悪感とかそんな大層なものが備わってない自分でさえ、彼女と関わるとそう感じさせる。
この彼女に対する感情が何なのか、はっきりとはわからない。
彼女はサバイバーで俺はキラー。例え普通の世界で生きていたとしても一般人の彼女と殺人鬼の俺では相容れない関係だというのは確かにわかっていた。
この感情は押し殺さなくてはいけない。殺人鬼である自分にとっては邪魔な感情でしかない。彼女の為にも、自分の為にも俺は無慈悲な殺人鬼であり続けなければ。
そう思うのに、いつになったら彼女に会えるのだろうと考えている自分がいることに気付いて必死に打ち消した。