救いの殺人鬼
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「あ~、私なんてもうどうなったっていいや~」
ついさっき、『元彼』になった相手と最後のデートをして帰宅した私は一人でやけ酒をあおっていた。
かれこれ何杯目かわからなくなってしまったが、グラスに酒を注いでは飲み干すという行為が辞められない。
私だって好きでこんなに飲んでる訳じゃない。別にお酒は弱くないけど毎日がぶ飲みする程好きな訳でもない。
現実が理不尽過ぎてやってられないから忘れたくて飲んでるだけだ。
「……はあ、にしても…うぅ、もう!みんなみんな馬鹿だあ~!全人類、死んでしまえ~!!」
思わず自暴自棄になって夜中の12時だと言うのにそんなことを叫んでいた。…やだ、もう泣きたい。
けど泣いたら負けな気がする。
流れそうになった涙をぐっと堪えてまたグラスを傾けた。このまま酔った勢いで寝てしまいたい。そして、明日の朝、頭が痛い、気持ち悪いって最悪のコンディションで起きて、ああ、私は独りになってしまったと悲しくなるんだ。
考えたくない。でも、考えてしまう。明日なんて来なければいいとまで思ったところでグラスから手を放してソファーに横になった。このまま、この眠気にのまれて寝てしまおう。幸い、明日は休みだ。お昼まで寝たって構わない。そのまま、ゆっくりと眠りに落ちた。
どれくらい経ったかわからないが、ガシャン、と何かが割れるような音が聞こえてきてぼんやりと目を覚ます。
一体、何の音だろう。夢の中の音だろうか?それにしては妙にリアルというか、奥のキッチンから聞こえてきた気がする。体を起こすのが怠いが、音の正体を確かめなくてはとキッチンに向かう。
「……」
「……」
キッチンという場所にはそぐわない奴が居た。
全身真っ黒な格好した不気味なマスクと目が合う。
マスクをしてるにも関わらず、マスク越しから苦笑いをしてる様子が伝わってきた。
「…やっちゃった」
「…やっちゃったじゃないよ。人の家で何してるの、ゴーストフェイス」
「いや、雪葉が寝てたからグラスでも片付けてあげようかなって思ったら割っちゃった」
その前にも何でこんな時間に私の家に居るのかとかかなり気になるところではあるけど、真っ先に出たのはため息だ。怒る気にもなれなかった。
「ごめん。悪気はない」
きっとグラスを洗おうとして割ってしまったのだろう。洗しには粉々になったガラスが散らばってキラキラと光っていた。不法侵入は確かに許せないけれど、それも初めてではないし、片付けてくれようとした気持ちはわかるから責められなかった。
「わかってる。片付けておくからいいよ」
「いや、俺がやるからいいよ。俺がやったんだし」
直ぐ様、ゴーストフェイスはてきぱきとガラスを拾い、ゴミ箱に捨てていく。確かにゴーストフェイスは常に手袋してるからそういう意味では楽だよね。あまりの素早さに私はぽかんとしながらそれを見ていた。
「…それにしてもあんまり飲み過ぎは良くないな」
「……嫌なことがあって、飲んでないとやってられなかったの」
「まあそうだろうね。あんなに荒れてるのは君らしくもないし」
私らしくないなんて私のことを知り尽くしてるような口振りに居心地の悪さを感じる。勿論、ゴーストフェイスがストーカー殺人鬼なのは知ってるけどそれにしてもね。私がやけ酒をしていたところから知っているみたいだし、本当にいつから居たんだか。自暴自棄の嘆きを聞かれていた恥ずかしさよりも呆れが勝ってしまう。
「…私が荒れてるってわかってて来たの?悪趣味にも程があるわ」
「そんな言い方しなくても。わかってたから君を放っておけなかったんだよ」
「…ゴーストフェイスにそんなこと言われても嬉しくない。わたしは、…」
その先の言葉を言おうとして喉元まで出かかった言葉は声にならずに消えていく。ぽたり、と雫が落ちた。
「わかってるよ」
ゴーストフェイスは私の背中に腕を回して、ぽんぽんと優しく叩く。あまりにも声色も手付きも優しくて彼が殺人鬼なんだということを忘れてしまいそうだった。
だからなのか、ポロポロ涙が止まらなくて、ごめんって言ってゴーストフェイスにしがみついて情けなく泣いた。