最期の儀式
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"この世界に飽きた"
身勝手で傲慢な神のたったの一言でこの世界は終焉を迎えようとしている。
私達サバイバーもキラーもエンティティによってこの世界に強制的に連れてこられて閉じ込められた。逃げ出すことも死ぬこともできない自由がない世界で永遠と生きていくしかないと思っていた。誰もがこの世界から逃げることを諦めていた。
だけど、ある日エンティティがついにこの世界を終わらせる宣言をした。
"儀式で逃げ切れなかったサバイバーに明日はない。"
今までサバイバーである私達は何度儀式で死んだとしてもエンティティの不思議な力によって何度も蘇らせられていた。それが次の儀式から脱出できなかったものは完全にこの世界から消滅することになる。この世界から脱出できると同時に私達は本当の死を受け入れなくてはならない。儀式で生還できた者は引き続き、死ぬまでこの世界で儀式を続けることになる。
"儀式でサバイバーを殺せなかったキラーに明日はない。"
キラーは四人のサバイバーの内、一人でも処刑できなかった者はエンティティの手によって処分される。エンティティが求めるのは全滅のみ。見事全滅を取れたキラーはその先も生き残ってこの世界でサバイバーを処刑し続けることになる。
"サバイバー、キラー共に生き残った一名ずつのみ、この世界から生きて脱出することができる。"
それがエンティティが決めたこの世界の期限だった。
今までは実際に死ぬことはないからと手を抜いていたサバイバーもいたが、本当に処刑されることがわかると必死で儀式をこなした。それこそ今まで助け合ってきた仲間でさえ自分の為に簡単に見捨てたり、囮にしたりする者もいたそうだ。
逆に霧の森に絶望して死を望んでいた者達はやっと楽になれると足掻くこともせずに簡単に死を受け入れて死んでいった。
キラーのことはよく知らないが、見なくなったキラーがいるという話を生き残ったサバイバーから聞いた。きっと全滅が取れずにエンティティに処分されたのだろう。
サバイバーもキラーも日に日に減っていく。今までずっと増え続けていた人口がどんどん少なくなっていった。
明日は我が身。そう思った。
早く死んで楽になりたい気持ちもあったけれど、私はこの世界で生きていたい理由があった。私がこの世界で愛してしまった人にもう一度だけ会いたかったから。彼がまだ生きているかはわからない。だけど、きっと彼のことだから生きているはずだ。
私が儀式から脱出する度にサバイバーもキラーも死んでいく。誰かの命を踏みつけて生きている罪悪感だけは無駄に残っていた。それでも彼に会うまでは絶対に死ねない。
そしてついに会えた。会えてしまった。愛しの彼に。すごく嬉しいのに私は苦しかった。キラーである彼に会えたということは私か彼、どちらかが死ぬことになる日だから。他のサバイバーはあっさりと殺し、大量の返り血を浴びて汚れた彼は最後に私を殺すことだけは躊躇していた。
「殺していいよ。最期にあなたに会えて良かった」
そう精一杯笑ったあと、ナイフを握っている彼の手が僅かに震えてることに気付いた。彼は私にゆっくり近付いて、持っていたナイフを手放した。自由になった血塗れのナイフが地面に転がる。
「…殺せる訳ないってわかってる癖に」
彼は私をそっと抱き締めた。沢山の人々を容赦なく殺してきた殺人鬼とは思えないほど、優しい抱擁だった。物足りなくて私もそっと彼の背中に腕を回す。彼の胸に寄りかかると血の匂いがした。
「殺さないとあなたが死ぬんだよ?」
「わかってる。でも、君を殺してこの世界で生きる理由なんてないんだ」
「それは私だって一緒だよ。あなたから逃げてもあなたが死んだこの世界で生きる理由なんてない」
「やっぱり、そうだよね」
このやり取りに終わりがないとわかっていた。諦めたように彼は笑う。気づけばつられたように私の口元も緩んでいた。どちらも自分の為には相手を殺せない。それが私達の答えだった。
ゴーストフェイスにこういう風に気持ちを伝えたのは初めてだった。彼も私に気持ちを伝えてくれたのは初めてだった。こんな風に抱き合ったのも初めてだった。私達は敵対していて、今まで一度だって言葉を交わしたことがなかったというのにお互いの気持ちに気付いていた。初めての日が私達のこの世界の終わりの日だった。この世界で初めて幸せを実感した日が終わりの日だった。苦しくないといえば嘘だけど、限りなく満たされた気分だった。
「…二人で抗って逃げてみる?」
「逃げられる自信あるの?」
「全くないよ」
彼の突拍子もない提案に現実を突きつけると、やっぱり諦めたように笑った。だから私も笑った。エンティティはこの世界の者達に優しくない。それは最初からわかっていた。
だから無慈悲な神様が私達を殺す瞬間を待つことしかできない。ずっとこの時間が続いたらいいとあり得もしないことを願って。
「言うのが遅くなったけど…愛してる」
「うん。わたしもあなたを愛してる」
彼がやっと言ってくれた言葉で生きている実感をして頬に温かいものが伝った。彼は私の涙を優しく拭った。それから、マスクを外して唇を重ねた。温かい。そう気付いたときには、お腹を鋭い物が貫いていた。それは私の身体も彼の身体も一緒に。やっと、終われる。愛しい人と一緒に。世界が崩壊する音が聴こえてきたけれど、彼があまりにも優しく笑っていたから、わたしも笑った。
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