死に狂う
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この霧の森に引きずり込まれてどれくらいの年月が経ったのかはわからない。ただ毎日毎日キラーに追われて殺されては、また生き返るという普通ではない経験が重なっていくと人間はおかしくなるのかもしれない。この世界で常人でいられる人はまず、間違いなく元からどこかしらおかしいと思う。常人こそ、この狂気に満ちた世界に耐えられず現実逃避をする為に狂っていくものだから。
私は間違いなく、この世界にのめり込むまでは普通の人だったはずだから。
エンティティにサバイバーとして呼ばれた私はこの場所で何度も儀式をする度に最初はあった恐怖、不安、緊張感は徐々に無くなっていった。そして以前は備わっていた人としての当たり前の感覚は完全に消えた。その次は殺される回数が増える度、痛みにも少し慣れてきた。流石に痛いことされて痛みが感じなくなるのは不味いと思った。こんな儀式を繰り返して感情も無くなり、痛覚さえも消えたとしたら私はもうヒトではないナニカになってしまう。
私はあんな無情のキラー達とは違う。
サバイバー仲間の命を犠牲にしても、仲間を見捨てたとしても、それは感情と人間の本能が勝手に行なった行為だ。それさえしなくなったら私はキラーと変わらなくなってしまう。
…だから、真面目にサバイバー仲間を助けたり、協力したり、犠牲になったりするなんておかしい人がすることだ。だって、結局みんな本当は人より自分が大事だから。他人にいい顔をするのは自分の為。みんな嘘つきの偽善者で、たった一度の命しかない儀式なら他人を裏切って蹴落としてまで脱出するだろう。
私はあんな無情でおかしいヒトの形をしたサバイバー達とは違う。
だって私はこの世界の誰よりもマトモだから。
善良なサバイバーですから。
そんな私が一番、狂ってるサバイバーだなんて言われているのはおかしい。狂っているのは私以外のみんな。私はこんな地獄のような世界を天国に変えることができた。それだけで私は誰よりも幸運だった。
私にとっては儀式で他のサバイバーが死んでも、脱出できなくてもどうだって良かった。私の儀式の目標はいつだってキラーに殺されることだから。それ以外はどうでもいい。脱出する気がないから発電機修理なんてつまらないことはしないし、救助は気が向いたらするだけ。キラーとのチェイスは楽しいから好んでする。だから、私はサバイバー側にとっては困る存在らしい。
キラーの気を引く事を好むから場合によっては感謝されることもあるけれど、私は脱出はしないと宣言してるから利敵行為だろと言われたりもする。ただ、これが私のこの世界の生き方に変わったから気にしない。
…いや、嘘。ちょっと気にしてる。頭おかしいとか狂ってるとかイカれてるって言われる度に「じゃあテメーらは何なんだよ!?常識人ぶってんじゃねーよ!!」って内心悪態吐きまくっていたりする。
儀式が始まるとキラーを探しに固有の建物に行く。そのときにキラーにばったり会えたら楽なんだけれど、会えないときも少なくはない。そういう場合は発電機を直すふりをして修理ミスをしてみたりする。それでも来ない場合は恐らく他のサバイバーを追ってるだろうからチェイスしてる場所まで向かい、自分にタゲチェンしてもらえるように注意を引く。
今回の儀式のキラーはリージョンみたいで他のサバイバーを斬りつけたらこっちに走ってきてくれていた。私はワクワクしながらキラーとは反対方向へと走っていく。すぐに斬られても勿体ないし、ちょっと長めにチェイスして焦らして焦らして斬ってもらおう。それが一番、興奮する。そう思いながら後ろを振り返ってから笑って挑発するように窓枠を飛び越えた。そして次はどう追ってくるかなともう一度、振り返ったらキラーは私に背を向けて別のサバイバーに向かって行った。
「はあ!?ちょっと、何で!?これからがいいところじゃん!」
私の叫びは虚しくも無視された。何あれ、わざとやってんの?私がキラーに殺られるのが好きなの知ってて無視してんの?焦らしプレイが過ぎる。いや、焦らしというか放置プレイ?
むかつくからキラーを追いかけて履いていたスニーカーをキラーに向かってぶん投げた。
「テメー、靴投げるとかルール違反すんな!」
靴は見事キラーの背中に命中し、キラーがぶち切れていた。当たったことが嬉しくて喜んでガッツポーズをしていたら、正面から靴が飛んできて顔面に直撃した。痛くて顔を押さえていたら、ざまあみろ!とキラーは笑っていた。私はちゃんと靴を返してくれたことに感謝をしながら靴を履くと、またキラーを追う。
「フランク、痛かったけど、靴返してくれてありがとう!ところで何で私のこと無視するの?ねえ、何で?わざと?」
「うるせー。てかお前、鼻血出てるぞ」
「は?まじ?…ほんとだ。乙女の顔面に何してくれちゃってんの?責任取って私の相手してくれるよね?ねえ?」
「うるせー。ついてくんじゃねぇよ。そもそもお前は乙女じゃなくてイカれたストーカーの変態女だろ」
「ちょっとせめてどれか一つにして!」
「うるせー。関わってくんじゃねぇ、変態が伝染る」
酷い言われようだ。すでに別のサバイバーとのチェイスを終えて担いでフックに吊るす間でさえ、フランクは私を斬りつけてくれない。おかしい。こんなに隙だらけなのに。私は仕方無く目の前で吊られたサバイバーを救助すると手当てまでしてあげた。すると、代わりにそのサバイバーは私に布の切れ端をくれた。鼻血の心配をしてくれたのかと思うと優しいなと思いながら鼻に布をつめた。あのサバイバー、確か…クロ…モレ…そんな感じの名前だった気がする。
ちょっと見栄えは女としてどうかと思うけど、鼻血を垂れ流しながら走ってるよりはましだ。私はまたすぐにキラーがいそうな場所までかけていく。すると、小屋の中からアウアウ!とキラーの鳴き声が聴こえてきた。間違いなく、奴はここにいる。
小屋から出ていったサバイバーの間に入ってフランクの視界に入るように通せんぼをした。