尊い恋
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「…はあ、会いたいなあ」
みんなが寝静まっても尚、眠れずにいる私は焚火の炎を見つめながら一人呟いた。
誰にも言えない秘密を抱えてしまってから私はこうして物思いにふける時間が増えた。
あろうことか私はサバイバーという立場にも関わらずキラー相手に恋をしてしまったのだ。最初は冷静に考えて自分を殺そうとするキラーを好きになるなんておかしいし、絶対にダメだと自分に言い聞かせていた。だけど、会えない時間は恋を育てるとはよく言ったもので、その事を考えないようにすればするほど意識してしまい、気付いたときにはもう手遅れだった。
儀式に出ればあのキラーに会える可能性が増えると思うと早く儀式に呼ばれたくて仕方なかった。例え願ったとしても儀式に選ばれるのは4人だけだし、選ばれるキラーだってエンティティの気分次第だろうから仕方ないけどこの時間が煩わしい。
もう一度、大きなため息を吐く。
だけど、どんなに想ったって何か変わる訳ではない。
寝床に戻って寝よう。焚火の火をバケツに汲んである水をかけて消し、寝床に向かった。自室の小屋に入ると横になる。せめて、現実で会えないのなら夢の中であのキラーに会えますように。そう願い、目を閉じた瞬間、どこかに落ちるような感覚がした。
それから目を開ければ、儀式の場所に私は立っていた。
……これ、夢…じゃないよね?本当の儀式だよね?
本当にエンティティの呼び出しは突然だ。人が寝ていようが、寝ようとしてようが気分で呼び出すし。
案の定、寝ていたところ、突如呼び出されたミンはかなり不機嫌そうだった。
「…ほんと、儀式するなら寝る前とか時間を決めてほしいんだけど」
「本当にそれだよね」
ぶつくさ文句を溢しながら私とミンは発電機を直し始める。言っても寝ていようが、儀式に呼ばれると強制的に眠気から覚めるからそれに関しては悪くないけど、良い気はしない。まあ、それでも私にとっては大好きなキラーに会える可能性が増えるので結果オーライだけど。
早く、キラーが誰なのかが知りたい。
しばらく発電機を修理してそろそろ修理が終わりそうというところで、サバイバーの悲鳴が聞こえた。
誰かが斬られたらしい。そう遠くない場所でチェイスをしていたのだろう。発電機を修理し終えると私はキラーの姿を確認がてら、救助に行くことにした。
救助に行くとドワイトがフックに吊るされていた。キラーは既にその場を離れたようだったので極力、痛みがないように慎重に救助した。直ぐ様、痛そうにしながらもお礼を言うドワイトの傷の手当てをする。キラーの姿はまだ確認出来てないが、もしかすると厄介な相手かもしれない。そうだ、ドワイトに何のキラーだったか聞いてみようか。そう思った直後、右肩に痛みが走った。
「…雪葉!」
「…っ、逃げて!」
何とかドワイトの治療を終えて、斬られた肩を押さえながら走り出す。真後ろに立たれてもキラーの気配が一切、感じなかったところをみると隠密系のキラーだろう。キラーとの距離感を確認する為に背後を振り返ってキラーの姿を確認する。…まさかとは思っていたが、そのまさかだ。このキラーこそ、私が会いたがっていた大好きなキラーだった。
「…ついてる…!」
思わず心の中でガッツポーズをした。
悲しそうな表情の真っ白なマスクに全身黒尽くめの暑そうな格好にヒラヒラとはためくあの紐(?)
どこをとっても好き過ぎる。
ああ、叶うことならゴーストフェイスとこうしてずっとチェイスをして戯れてたい…!
嬉しすぎる気持ちを必死で押さえ付け、何とかゴーストフェイスの様子を窺いながらチェイスをする。ヘマをして早々とみっともなくこの儀式を退場したくないのだ。
「…ぅ、!…」
すんでのところでナイフを避け、窓枠を跳び越えれば斬られていた右肩に痛みが走る。そういえば肩を斬られていたんだった。そのせいで窓枠を越えるのに少し時間が掛かった。パレットまで間に合わずに背中をナイフで斬り付けられ、その場に倒れ込む。思ったよりもチェイスが出来なかった。浮かれてないでもう少し考えてチェイスするべきだったと、悔しさで唇をぎゅっと噛む。
ゴーストフェイスはナイフの血を拭うと、軽々と私を担ぎ上げた。…ああ、こんな状況だというのに私、興奮してる。当然、斬られた傷は痛むのにこうしてゴーストフェイスに担がれて、腰に手を回されているということにキュンキュンしてしまって仕方がない。
私はとんだ変態だ。
ゴーストフェイスの足が止まった。きっとフックの前まで来たのだろう。まだ、もう少しだけ、こうしていたい。離れたくない。そんな私の自分勝手な思いが無意識の内に出ていたのだろう。ゴーストフェイスがフックに私を吊るそうとするより早くぎゅっとゴーストフェイスの背中にしがみついていた。自分でも驚いていた。こんなことをしたって私の力じゃすぐに引き剥がされちゃうし、彼に迷惑を掛けるだけで何の意味もない。それでも私はどうしたって彼に触れていたいのだ。
ゴーストフェイスは突然、背中にしがみついて激しく抵抗する訳でもない私を不思議に思ったのかもしれない。
一瞬、私をフックに吊るすのを戸惑ったように動きを止めていた。
隙を付くように更に背中を掴む力を強めた。血がダラダラと流れているせいか、頭がぼーとしてくる。
離すものか。ただ、そう思った。…でも、申し訳なくて、それでも離れたくなくてぽつりと私は呟くように言った。
「……ごめん、」
「……そんなに吊られたくないの?」
まさかキラーが此方に喋り掛けてくるとは思ってなかったので、数秒思考が停止する。意外とこんなに優しい声をしてたんだ、とか私だけに向かって話し掛けてくれていることに喜びを感じずにはいられない。
「……違うの。貴方を困らせたい訳でもないし、貴方に殺されるのなら本望だよ」
「じゃあ、その手は何?」
「…離れたくないから」
ゴーストフェイスは私の言葉の意味が理解出来ないらしく、しばし何かを考え込んでいるようだった。
「そう言えば俺が殺さないと思っている訳だな?舐められたものだね」
「……まあ、そう思うよね」
私は苦笑いする。私が彼の立場でも同情して殺すのを辞めたりしないだろう。私がそう諦めて手を離した直後、少しだけ、丁寧に床に下ろされた。理由が分からず、ゴーストフェイスを見上げると既にゴーストフェイスは私に背を向けていた。
「君を殺すのは最後だ」
あのヒラヒラをはためかして、ゴーストフェイスは去っていく。少しだけ、楽しみだ。仲間がこのまま手当てをしに来てくれるのか、それとも直ぐ様、ゴーストフェイスに全員、殺されてしまうのか。
結果は後者だった。仲間が手当てに来る隙も与えずにゴーストフェイスは私以外のサバイバーを殺してしまった。出血が多いせいか、徐々に意識が朦朧としていく。それでも何とか唇を噛んで薄れそうになる意識を保ち、ゴーストフェイスを待っていると音もなく彼が現れた。
「早く終らしたつもりだけど、結構待ったかな?」
私の元で屈むと、ゴーストフェイスは私が意識があるのか確認した。
「…ううん。…このぐらいの時間、貴方に会えない時間を待つよりずっと短いよ…」
「……俺の勘違いじゃなければ、もしかして君って俺のこと好き?」
「…うん、大好き」
何とか笑って答える。彼に気持ちを伝える日が来るなんて何て嬉しいことなんだろう。
「わお、それはびっくりだ。サバイバーに好意持たれたの初めてだよ」
「…まあ、普通は好きにならない、よね…」
こう話している間にも、刻一刻と私の命が終わる瞬間が近付いてきている。名残惜しい時間だけど、そろそろ終わらしてもらわないといけない。ゴーストフェイスもそれに気付いたらしく、ナイフを構えたのがわかった。
「…好意は有り難く受け取っておく。…ただ、残念だけど、俺はそんなに優しくないよ」
「…わかってるよ、そういうところも好き。…殺してもらった方が有難いよ」
「はは、偉く好かれちゃったなあ。…次、会ったときはもっと愉しく遊ぼうね」
笑ってゆっくり頷くと、それを確認した後、ザクッと背中にナイフが突き立てられた。
薄れ行く意識の中で私はもっと彼に恥じないサバイバーになって彼を楽しませてあげたいと思った。