忘失
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アイツに捕まったらやばい。兎に角、逃げなくては。
俺は息を切らしながら木の間を抜けて全速力で走っていく。他のサバイバーは呆気なく目の前で惨殺されてしまった。初めて会ったキラーは見た目こそ、普通の美しい女にしか見えなかったが、その見た目とは裏腹にとんでもなく男らしいキラーだった。サバイバーを見張ることもしなければ、隠れて奇襲もしてこない。ただ、ひたすら大鎌を振り回しては愉しそうにサバイバーをフックに吊るすイカれた女。
他のサバイバーが殺された今、俺が脱出できる可能性はハッチを見付けるのみだ。ゲートはハッチが閉められれば開けられるが、今回の二つのゲートの近さからしてキラーに見付からずにゲートを開けて脱出するのはまず無理だろう。取り敢えず、キラーより先にハッチを見付けなくてはいけない。しかし、固有の建物を確認しても小屋を確認してもハッチは見付からなかった。後は感で探すしかないと思ったとき、背後から嬉しそうな女の声が聞こえた。
「ああ~、みーつけた!」
……終わった。
恐る恐る振り返ると、大鎌を持ったキラーが俺の首を落とそうと襲いかかってきていた。何とかすんでの所で避けると、キラーは地面にダイブした。痛そうだがそんなこと構ってられない。後ろで「いたーい!」と喚いている声を無視してまた走り出そうとした。しかし、走り出す前に足がじわりと熱を持って熱くなる。見れば大鎌の先がぐさりと自分の右足に刺さっている。遅れて脳に痛みが伝わり、情けない悲鳴を上げてその場に倒れ込む。……一体、いつの間に釜を投げつけたのかはわからないが、こんな状態ではとても走れそうになかった。何とか額に流れる脂汗を服の袖で拭ってキラーを見据える。女は愉しそうに笑って釜を引き抜いた。
「フフ、痛い?もう走れないし私の勝ちみたいだねー?」
「…はぁ、ならとっとと殺せ」
「んー、そうだね。でも、君可愛いからちょっと興味沸いてきたなあ」
「……は?」
女は興奮した様子で動けない俺の上に馬乗りになる。
一体、何なんだと身構えていれば女は舌舐りをして妖艷な笑みを浮かべた。
そして大鎌で軽く俺の頬の肉を断ち、そのままペロペロと頬の血を舐めた。一瞬、何をされているのか理解出来なかったが、理解した途端ゾワゾワと寒気がしてくる。
「やっ、やめろ…!」
「アハハ、やめろって言われるともっとしたくなっちゃうなあ~」
そう言いながら今度は唇に自分を唇を触れさせた。しかも、ただのキスじゃなくて舌が口内に侵入してくる。何でこんなことされなきゃいけないんだと思い、使わずに取っておいたガラス片をポケットから取り出すと思い切り奴の肩に刺す。すると、女は口を離して痛そうに飛び上がった。
「なっ、レディーに何てことするの!?酷すぎる~」
「…ハッ、こういう刺激的なのは嫌いか?」
痛がる女に皮肉を込めて笑ってやる。
女はポカンとした後、口角を上げて笑った。
「…やるじゃん。可愛いだけじゃないってことね。…にしても痛すぎるわ」
言いながら女はガラス片を肩から引き抜く。ブシャッと赤い血が舞った。不思議なことだが、こんなに人を殺し回っている殺人鬼でも自分と同じ真っ赤な血が流れているんだなと感心した。そのまま女は服を脱いで下着姿で自分の怪我した肩を撫でた。
「…お、おい。流石に羞恥心とかないのか?」
「……羞恥心?そんなものある訳……君になら見られてもいいかなって」
明らかに羞恥心なんかありません。と言い切ろうとしてわざとふざけて照れたように女は言ってきた。…流石にあからさま過ぎて萎えるな。
「…嘘つくな」
「アハハ、バレちゃった?こういうのは雰囲気が大事だからね~。…というか私に羞恥心とか言うなら凜ちゃん先輩とかどうなるんだって話だけど」
言われてスピリットの格好を思い出して確かにと一人納得する。彼女も裸同然の格好をしている。キラーにはそういう感覚はないと言っていいのだろう。そもそもそんな一般的な感性を持っているなら平気で人を殺したり出来ないはずだ。
「…触る?今ならただだよ?」
女は笑みを深めて胸を持ち上げてみせた。
ここで興奮なんかしていたら人として終わる。いくら彼女は美しいとしても中身は悪魔だ。こんな女に欲情する訳ない。
「遠慮しておく。殺すならさっさと殺してくれ」
「…真面目だなあ。でも君に拒否権なんてないんだよ?」
「……」
「私に捕まった以上、君は私のオモチャだ。…私ねぇ、ヤりながら殺ってみたかったんだあ。君となら素敵に出来そう」
女は優しく微笑むと、腰を振って意識が無くなる瞬間まで何度も何度も俺に向かって大鎌を振り下ろした。
それから先の記憶はない。というより、思い出したくないから記憶から抹消した。